見出し画像

掌編小説 朽ちながら光る

大そうじをしよう。

部屋のなかのほこりを、頭のなかのほこりを、一掃する。ほっかむりをして、はたきをかける。

いいものが出てくるかもしれない。お金とか。忘れていたもの。思い出。ひろいあげると、いいにおいがするかもしれない。はたまた、腐っているかもしれない。

ごみであれば、捨てれば元気になれる。空気のとおりがよくなるから。腸内環境だって、老廃物をためないのがよいという。

ところで、いらないものをほうりだしたら、それはどこにいくんだろう。みんながいらないものを捨てはじめたらどこにいくんだろう。みんなのごみがたまる場所は、巨大になりつづけるばかりで。

リサイクルのしくみを思い出す。自分のいらないものが、ほかの人にとっては宝物の場合もあるじゃないか。

男とか。

昔の恋人が突然脳内にあらわれて、思考停止する。あれも捨てた。空気のとおりをよくするために捨てた。

宝物のない部屋にひとりで住んでいるのかもしれない。いま。

もしかしたら誰かのごみをひろって宝物にするかもしれない。わたし自身がごみかもしれないし、宝物かもしれない。

部屋のまんなかで、ひとり、朽ちながら光っている。


*****
短い小説を書いています。よろしければ、こちらもぜひ。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?