掌編小説 朽ちながら光る
大そうじをしよう。
部屋のなかのほこりを、頭のなかのほこりを、一掃する。ほっかむりをして、はたきをかける。
いいものが出てくるかもしれない。お金とか。忘れていたもの。思い出。ひろいあげると、いいにおいがするかもしれない。はたまた、腐っているかもしれない。
ごみであれば、捨てれば元気になれる。空気のとおりがよくなるから。腸内環境だって、老廃物をためないのがよいという。
ところで、いらないものをほうりだしたら、それはどこにいくんだろう。みんながいらないものを捨てはじめたらどこにいくんだろう。みんなのごみがたまる場所は、巨大になりつづけるばかりで。
リサイクルのしくみを思い出す。自分のいらないものが、ほかの人にとっては宝物の場合もあるじゃないか。
男とか。
昔の恋人が突然脳内にあらわれて、思考停止する。あれも捨てた。空気のとおりをよくするために捨てた。
宝物のない部屋にひとりで住んでいるのかもしれない。いま。
もしかしたら誰かのごみをひろって宝物にするかもしれない。わたし自身がごみかもしれないし、宝物かもしれない。
部屋のまんなかで、ひとり、朽ちながら光っている。
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