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事あるときは幽霊の足をいただく!【長編小説】第3章 第4話(1) 成瀬美月 【後編】

前話までのおさらいはマガジンで読めます。



第1章第1話はこちらから読めます。


【真之助視点】

 「作戦も考えておりますのよ」

 寿々子すずこさんは危機感と縁もゆかりもないおっとりとした動作で両手をポンと合わせた。

「わたくしが殿方と親しくして油断している姿を見せれば、ストーカーめが隙を突いて美月に襲いかかってくるはずでございます。そこをわたくしと真之助様で叩きのめす! 新郎新婦の初めての共同作業ですから、作戦名は『新婚さん、イラッシャイ!』に決まりでございます」

 私は首を捻った。

 私と寿々子さんはいつの間に付き合っていたのだろうか。これは交際ゼロ日で結婚に至る有名人をマネた今時の冗談だろうか。
 
 それに「イラッシャイ」と歓迎しても、イラッシャルのが不成仏霊のわけだから、新婚さんは必然的に不成仏霊になるはずだ。単身者を新婚さんと呼ぶのは、イチゴのないショートケーキをショートケーキと呼ぶくらい違和感がある。

 ますます首を捻ったのは、この作戦名に耳なじみがあったからだ。掟を破った挙句、パクリ騒動まで抱え込むのは荷が重い。私は真のように命懸けで面倒ごとに首を突っ込むほどボランティア精神に長けていないのだ。

「ハイ、却下!」

 若者の自由と柔軟さを目の当たりにした大人のように、ジェネレーションギャップを感じながら、寿々子さんからそっと離れた。
 
 しかし、せっかく開けたその距離を寿々子さんはやすやすと詰め、私の腕をガッチリと取る。

 一度噛みついたら離れないスッポンの忍耐力と粘り強さを思わせるほど寿々子さんはたくましい。
 
「この作戦を成功させるためには真さんの協力が不可欠でございます。真さんは本日一日、できる限り美月の側にいらっしゃることをお心掛けください。真之助様が美月にまとわり憑く不成仏霊の気配を一早く察知されるにはこの方法が一番でございます。そして、最も重要なこと。それは近い将来、真さんが美月とお付き合いされ、きちんと夫婦めおとになられること。そうされますと、わたくしも真之助様と末永く一緒にいられるではございませんか! ふふふ。お互い幸せ、WIN-WINにございます。しっかりとご尽力くださいませ」
 
「はい、頑張ります!」
 
 つい一秒前まで不安と恐怖がない交ぜになった顔をしていたくせに、すっかり焚きつけられた真は小さな体のどこに隠していたのか、やる気と血の気を取り戻した。
 
 昨夜の私の忠告を全くと言っていいほど覚えていない様子の真も真だけど、寿々子さんも寿々子さんだ。少し悪ふざけが過ぎている。

「寿々ちゃん」

 私はなるべく感情的にならないように小さな子供を諭すよう言葉を選ぶ。

「言っておくけれど、私はあくまでもサポートであって、直接手を下すのは貴女なんだよ」

「まあ、それでは美月がどうなってもよいと仰られるのですか」

「困っている人を助けるのが武士の情けってもんだろ。見損なったぜ」

 すべての非が私にあるとでも言いたげな真の物言いに、流石の私もムッとする。

 まるで、鼻先に人参をぶら下げられた馬ではないか。すっかり懐柔かいじゅうしてしまっている。

「真が好きな人の前で見栄を張りたい気持ちはわかるけれど、できないものはできないんだ。守護霊界の掟で禁じられているからね。『一、他人のお付き人と関わるべからず』ってね。本当は寿々ちゃんが真に話しかけることだって掟破りなんだ」

「お堅いことを仰らないでくださいませ。バレなければ、結果オーライでございます」
 
「ちっともオーライじゃないよ」

「ご安心ください。わたくしが全責任を負いますので、真之助様は大船に乗ったつもりでお過ごしくださればよろしいのですから。そんなことよりも」

 寿々子さんは守護霊界の上層部にコネでもあるのかと思うほど、余裕を含んだ表情で微笑んだあと、瞳に妖しげな光を灯らせた。

「ストーカーをおびき寄せるためには、もう少し距離を縮めた方がよろしいとは存じません?」

 湿り気の多い声で囁き、私の手にそっと白い手を重ねた。

「わたくし、甘い甘い恋を味わいとうございます」 


次話『第4話(2) 成瀬美月 【後編】』はこちらから読めます。



素敵なイラストはmaoさんに描いていただきました゚+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゚

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