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Fiction is 90% of it.#1 引越しの日

夏のある日。

今日は巨大積乱雲がアジア全域を覆って、大規模な水害が予測されているらしい。最近は東京でも平均海面位置の上昇が急激に進んでおり、3年前に引っ越した時には、「この部屋であれば老後まで問題ありませんよ」と不動産屋さんにお墨付きをもらって決めてこの部屋も、移住推奨階層に指定されてしまっている。

予報を疑いたくなるくらい澄み渡った空。
ベランダでコーヒーを飲みながら、今日も僕の1日が始まる。

辺りを見渡せば海面には朝日が反射し、その奥には大都市東京の街を優雅に飛び回る多種多様な魚たちと、最近実験的に始まった潜水移動タクシーが行き交っている。

世界はこの急激な海面上昇を嘆いているが、この景色を僕は案外気にっている。

そんな能天気な僕も、いよいよ引っ越しを迫られている。
手を伸ばせば届きそうな、水面を眺めながらこれがこの部屋とのお別れの時になるだろうと悟っていた。

斜め上の階のおっちゃんは、今日も朝から釣りをしている。
僕に気づいて、声をかけてくる。
「今日で俺らの階もアウトだな。にいちゃん元気でな」
おっちゃんの釣った魚を美味しそうに食べながら、おっちゃんの飼い猫も
「ミャー」と挨拶をした。

「おっちゃんも君も元気で」

「ミャー」

部屋に戻るおっちゃんと猫を見ながら、次の部屋はペット可の物件を探して、猫を迎え入れようかと考える。このご時世、物件にペット可も不可もないか。
避難所で、色々と調べてみよう。

ポツポツと雨が降ってきた。
時計を見ると、避難推奨時刻ピッタリだ。
最近の予報精度の高さに感心しながら、部屋に戻り最近買った水陸両用スーツに着替えて出発の準備をする。

外はもう雲に覆われ、轟音が鳴り響いている。
最近の雨は、もう雨というより滝だ。

みるみる上がっていく水面を眺めながら部屋を出た。

continue…


Fiction is 90% of it.
※使用されている画像は全てAIで生成しています。


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