「世間話は記念写真」

『誰かの生活から生まれた言葉が、"近くて遠い"誰かの生きる活力とな…

「世間話は記念写真」

『誰かの生活から生まれた言葉が、"近くて遠い"誰かの生きる活力となる』人の口から出た言葉を採集して、その人越しの世界を見つめる記録。時々ひとんちのご飯。 偶然交わした言葉とその周辺、掘り起こされた記憶を記念写真を撮るように文章に残していきます。 本業はプリンティングディレクター。

最近の記事

手ざわり舌ざわり

新しく買ったミルの調子が悪くて人を呼ぶ 「(ついでに豆も買ったから)、良かったらそのまま飲もうよ。豆乳もあるよ」 そんな感じで誘って、ミルを直してもらいながら、美味しい時間をねらうつもりだった 「りかさんに淹れてもらおう」 なんと。 予測してない言葉に、"誰かのコーヒー"を飲みたかった甘えた胃袋がしょんぼりする 仕方ないので憚りたくなる普段の所作を他者に見せることになる でもまあ彼女なら許してくれそう、という緩みでポットの火を止めた 料理もコーヒーもいつも感覚的だ

    • 蘇州料理と夢

      2024.07.19 採集 葱油の話からすっかり本場の味が気になってしまい蘇州料理屋さんへ。 店内は私たちと中国人のビジネスマンたちとカップル こじんまりした家庭的なお店。カウンターの奥で女性スタッフが丸めた生地を両手で宙に持ち上げ、ぐわーっと横に伸ばしている。 広東出身と重慶出身の友人たちも蘇州料理ははじめてとのことで、写真で見てもよく分からないからまずは頼む。 最初にきたのはお麩のような甘酢炒め。 お麩っぽいものは不思議な断面でぶ厚い、、、厚揚げとも違う食感。 「

      • 雨のイヤリング

        13歳からダイビングをしているという人に出会った。 40〜50分近く潜るそうで、そんなに長く入れるのか!と驚く。 「海は本当は人間が入る場所じゃないんです。 ほんの少し、ほんの少しお邪魔させていただくんです。」 「だから真剣に入らなくちゃいけない。他のこと考えていられないんですよ。水の中のことだけ考える。だから(教習中に)ふざけて入る人いたら叱ることもありますよ。」 そんなことを熱く語ってくれた。 つい数ヶ月前にもダイビングを趣味にしている人に出会って、楽しいよと誘われ

        • 呪いを解いたらアルデンテ

          月曜日の仕事帰りによく行くお店がある。 ここの店主と話しながらおすすめのお菓子とお茶を飲むのが好きである。 今日はヒノキとキウイを組み合わせた美味ゼリー。 甘めに抽出したというジャスミンティーも最高。 「最近仕事は順調ですか?」 そう聞かれて、ここしばらくの怒涛の変化を思い返しながら、良いとも悪いとも言えないこの気持ちは何だろうと、あれこれ考えて、あちこち考えて、しっくりきたのが「歯応えがある」という返しだった。 「歯応え?」と笑う。 「いや〜なんか歯応えというか、噛み

          轰隆隆 hong long long

          コーヒーを飲もうよ、ということで隣人にデカフェの豆を渡す。 ちょうど夕方で、雨雲レーダーから「これから強い雨が降ります」という知らせを受けていた。 雨はまだ降っていないが、強い日差しは翳りを見せて遠くで空がうなり始めている。 「ほんろぅ ほんろぅしているね」 中国出身の彼女はそう言って、窓を見る。 「これは日本では何ていうの?」 擬音語のことか、と気づいた私はゴロゴロと答える。 「え!ゴロゴロ?どこが?」と笑う。 お腹を触りながら「お腹が痛い時もゴロゴロするって言うことあ

          エアコンで風邪をひく

          閉店まで残り30分というところで銭湯に入る。 下町の風情ある銭湯で、終わる頃には常連さんだらけ。 勢いよく髪を洗って、体を洗って、湯船に向かう。 腰の曲がった年配の常連さんに笑顔で話しかけられる。 「こっち入りなよ」 ここの銭湯の湯船は細かくいうと2種類ある。長方形の5分の3は普通の湯船で、残りの5分の2は腰に当たるジャグジー。 その狭いところに彼女はいて、こっちに入りなさいという。 受け身な私はソソソと滑り込むようにして入る。 すると顔を近づけてじっと目を見つめて

          エアコンで風邪をひく

          南川東 

          美術家のK氏がとある公園で待っているというので徒歩で向かう。 30分ほどで着くよと連絡した。 これは2024年6月29日の話。 商店街の外れを歩いていると、白いタンクトップを着た男性が畳に水を吹きかけていた。 気になる・・・通り過ぎたつもりでいたが、いつの間にか体が男性の方へ向かってしまった。引力。 「何で畳に水を吹きかけてるんですか」 唐突な質問にちょっと沈黙の後、「よく見てるね」とニヤッと呟いて「これ」と言う。すぐさま細長い鋭利な棒でぐさっと上から畳を刺した。目玉