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【読書】ライオンのおやつ

余命宣告された主人公・雫は、瀬戸内海の島にあるケアハウス「ライオンのおやつ」に入居する。
ライオンのおやつでは、週に一回おやつの時間があり、入居者は自分の好きなおやつをリクエストできる。
例えばそれは、幼少期に母親が作ってくれた豆花(トウファ)であり、例えばそれは父の誕生日を祝いたくて幼い自分が作ったミルクレープだった。

この本は、入居者の方々がリクエストするおやつを通じて、雫が自分の病と現状と向き合っていくお話である。


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「雫が、病気のことなにも言ってくれなかったり、その後のことも全部ひとりで済ませようとしたりしたって聞いて、お父さん、正直落ち込んだんだ。
だけど多分、こうすることが、雫なりの生き様っていうか、哲学を貫いたのかなーって思うようにしたんだ。」

自分の人生に責任を持って、自分の尻拭いは全部自分でして、そんな風に生きて死にたいと思う。
それがひとりの人間として、大人として、格好良い生き方だと思う。

そう思っているのも確かだけれど、同時に(あぁ、このまま溶けてアメーバみたいになったらいいのに。意識もなくなって、私じゃない何かになってしまえばいいのに。)と思いながら眠ることがある。


私は私の命にとんでもないお金がかかっていることを知っている。
私が生きてくるのにかかった金額の、その一端もまだ親に返せていないのに。
今死んだらダメだよなあと思う。

そう思っているのも確かだけれど、同時に(積極的に死ななくても消極的にそういう終わりに至れないだろうか。
世間一般的に“仕方がない”“気の毒に”と思われる方法で、私が私でなくなる方法はないだろうか)とも思う。


今生きていて幸せで、死にたい理由はないけれど、いま私に残りの時間が告げられても、私は安心して死んでいける。


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私の家族は、特殊だ。
祖父母も父も母も兄妹たちも全員、一緒に暮らしているわけではなく、よく会う訳でもなく、連絡はたまに取るけれど、基本的にはお互いがお互いの生活をしている。

そんな不思議な血縁の中で、一番特殊な関係をしていると私が思うのは、父だ。

小学校高学年くらいから父とは離れて暮らしている。
きっと父は悲しむと思うが、父と暮らしてた時の記憶はほとんどない。
炊飯器のご飯が炊き上がるのを待ち遠しそうにしてたとか、
猫を飼いたいと駄々を捏ねたら諭されたとか、
本当にそういうことしか覚えていない。

一緒に過ごした時間は家族の誰よりも短い。
だけれども、父は私に「愛されている」感覚を教えてくれたただひとりの家族でもある。

一緒に過ごしていないのに、
もしかしたらいないからこそ、
特別な理由のない、私が私であることへの愛情を感じる。

父がいなければ私は自分の周りにある素敵なものにもっと鈍感になっていたと思うし、愛されてるんだと思えた時の心が地面に着いた安心感をずっと忘れない。

お父さん、愛してくれてありがとう。
親孝行にはもう少し時間ちょうだいね。



おわり。

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