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本、映画、ロックダウン(2)

ロックダウン2日目

今日は講義がなかったのでひたすら図書館で読書。

絶滅できない動物たち――自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ

M. R. O'Connorというジャーナリスト(現在MITフェロー)の書いた『絶滅できない動物たち――自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ』を途中まで読んだ。内容はタイトル通りに禍々しく、大学で写真を学ぶ傍ら環境保護のモジュールを取っている自分にとって示唆に富む深淵な問いをいくつも孕んでいた。例えば環境保護における答えのない問いの一つに、生物学的多様性の保護と貧困撲滅の対立がある。本書で具体例として示されるのはタンザニアにおけるダム建設の話。

1984年頃、極度の電力不足に悩まされるタンザニアで水力発電用のダム建設計画が立ち上がり、工事が周辺の自然環境に与える影響を調べるための調査が行われた。そこでキハンシヒキガエルという美しい新種のカエルが見つかる。彼らはある特定の滝裾にのみ生息しており、計画通りダムが建設されるとほぼ間違いなく絶滅すると予想された。

ここで一つの問いが生まれる。ダムは建設されるべきか否か。
ダムができれば一種のカエルが絶滅するが、何の前触れもなく度々起こる停電に中断されることなく教育や商業活動が可能になる。夜間に電気が使えるようになれば労働者は気温が下がってから仕事ができるようになる(これは暑い国ではとても大切なことだ)。そして、常に低温で保存されなければならない医療品も管理できるようになり、高齢者や子供の命が救われるようになる。カエルを守る(生物学的多様性の保護)と貧しい人たちの生活は豊かにならないのだ(貧困撲滅の対立)。結果はどうなったか。ダムは建設された。そしてカエルは人間によって保護されたが、現在はアメリカの2つの動物園にある滅菌室でのみ生きながらえている(野生のものは全て絶滅)。

語ると長くなるのでこの話は終わりにするけど、紹介したもの以外にも環境保護や気候変動対策の全ては数々の倫理的、哲学的な問いを孕んでいる。日本やイギリス、先進国に住みそれなりの豊かさを享受しながら「開発をやめろ」「自然を守れ」というのは簡単だ。が、それはこの地球上に存在する、教育も医療もまともに受けられず、貧困や飢餓に苦しむ莫大な数の人々を見捨てることと背中合わせてある。

加速主義

じゃあどうすればいいのかと考えたときに、今の自分はテクノロジーを進化させる以外の道が思い浮かばない。実際に大学の課題として行ったプレゼンにも、Technology is everythingという題を付けた。今のテクノロジーでは生物学的多様性の保護と貧困撲滅は両立できないとするなら、それを進化させるしかない。そしてテクノロジーの加速度的発展を可能にするには現行の資本主義システムの拡大が必要で、と考えているうちに、これは加速主義(accelerationism)じゃないか思い寒気がした。

加速主義(かそくしゅぎ、英語: accelerationism)とは、政治・社会理論において、根本的な社会的変革を生み出すために現行の資本主義システムを拡大すべきであるという考えである。現代の加速主義的哲学の一部は、広範囲にわたる社会変革の可能性を抑制する相反する傾向を克服することを目的として、脱領土化の力を特定し、それを深め、急進化することを目的としたジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの脱領土化の理論に依拠している。加速主義はまた、資本主義を深化させることは自己破壊的な傾向を早め、最終的にはその崩壊につながるという信念を一般的に指す言葉でもあり、通常は侮蔑語として用いられる。すなわち、テクノロジーの諸手段を介して資本主義の「プロセスを加速せよ」、そしてこの加速を通じて「未来」へ、資本主義それ自体の「外 the Outside」へと脱出せよというメッセージである。
加速主義理論は、互いに矛盾する左翼的変種と右翼的変種に分けられる。「左派加速主義」は、例えば社会的に有益で解放的な目的のために現代の技術を再目的化することによって、資本主義の狭義の範囲を超えて「技術進化のプロセス」を推進することを試みる。「右派加速主義」は、おそらく技術的特異点(シンギュラリティ)を生み出すために、資本主義それ自体の無限の強化を支持する。
(Wikipediaより引用)

もちろん自分の考えはここまで極端じゃないんだけど、何と言うか、どうしても俺の周りにいる自然が好きで環境を守ろうとする心優しく真面目な人たち(大学の友達や教授たち)は新しいテクノロジーを忌避する傾向にあって、現行の技術と個人の小さな行動変容で気候変動などの環境問題に対処しようという考えが人気なので、いや、それじゃ未来なくね、と思ってる感じです。

大統領選

一気に話は変わりますが、大統領選はもう決まりそうですね。結局は世論調査の通りにバイデンの勝利、僕はずっと統計学者Nate SilverのTwitterから情報を得ていました。そこでなるほどなあと思ったことを2つ。

ナサニエル・リード・"ネイト"・シルバー(Nathaniel Read "Nate" Silver, 1978年1月13日 - )は、アメリカ合衆国の統計学者。選挙学(政治)とセイバーメトリクス(野球)を応用して、将来の結果を予測する。2009年4月にはタイム誌が毎年発表する「世界で最も影響力のある100人」の一人に選ばれた。
シルバーは主にメジャーリーグベースボール(MLB)に所属するプロ野球選手のパフォーマンスを分析して将来どのような成績を残すかという予測システム「PECOTA」を24歳の時に開発した。その後に2003年から2009年までベースボール・プロスペクタス誌上で同システムの予測を担当していた。
2008年合衆国大統領選挙では合衆国50州のうち49州における勝者を正確に予測し、同年の上院選挙では35人の勝者全員を正確に予測した。2012年合衆国大統領選挙では全50州とコロンビア特別区における勝者を正確に予測した。
(Wikipediaより引用)

投票方法の多様化

彼は自身のTwitterで「郵便、期日前、通常のものと、投票方法が多様化した現在、全てのジャーナリストはデータジャーナリストでなければ何が起こっているか理解できない(つまりデータの解析ができないジャーナリストは話にならない)。」と言っていて、ああ確かに開票が始まったときにはトランプ優勢だという声が多かったなあと思いました。(彼は一貫してバイデンの勝利を予測、まあ2016のトランプの勝利は外したけど)

逆転劇に見えるけど、逆転劇ではない。

これもNate SilverがRTしてて読んだんですけど、バイデンの逆転劇に見える今回の選挙はそんなドラマチックなものではなくて票の開票順でそう見えているだけにすぎないと言っていてなるほどなあと思いました。確かに考えてみればそうで、投票が締め切られた時点で結果自体は出ていて、共和党の票が多い、投票所で投函された票から開票作業が始まり、後に郵便で投票された票(世論調査でも予想されていた通り、民主党支持者はコロナの感染リスクを考えて郵便を選んだ人が多かった)が開けられたので逆転劇に見えただけだと。彼がいう通り、データの分析ができないとそこにストーリーを見出してしまうけれど、逆にできていればこの結果は驚くべきものでもないのだなあと思いました。


オスカー誕生日

と、あれこれ図書館で考えて普通に疲れて帰ってきたのですが、11/7がハウスメイトで友人のオスカー君の誕生日で、彼は当日彼女と過ごすということでじゃあ俺たちは前日にお祝いするかと他のハウスメイト2人と話して、僕はカレーを作りました。オスカーは俺みたいに何者かになりたいとか、俺は何かを作らないといけないとか、得体の知れない焦りを常に抱える呪いにかかっておらず「自分がハッピーである限り特にこだわりはない」といつも言っている素敵な人間で、俺が度々行き詰まったりニッチもサッチも行かなくなってるときも常にポジティブで明るく、一緒に住んでいて本当に助かるというか、バランスがいいなあといつも感謝しています。

うわ、なんだかんだ3000文字以上書いた、立川談志の粗忽長屋を聞いた話とかヴィーガンの悪口とか他にも色々と書きたいこと色々あったのですが、もう眠いので寝ます。おやすみなさい。

おしまい。(ヘッダーはろうそくなくてライターの火を代わりに使ってる写真、下はハウスメイトたちAlex(左)ケーキを作ったTris(中央)Oscar(右)の写真)

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