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彼女に隠し事をした。そして僕はひとりになった。そうだ、ドイツ、行こう。

彼女にした隠し事

僕は彼女に2つの隠し事をしていた。
1つはたばこを吸っていることを隠していたこと。もう一つは初期研修医が終わった後にカナダにワーキングホリデーに行くことを隠していたこと。

1つ目の隠し事

たばこを吸い始めたのは浪人中だった。模試で思ったような結果が出ず、同じ寮の友人から何となく憂さ晴らしに貰った1本がきっかけだった。何となくタバコは印象が悪いだろうと僕は付き合っている彼女にはいつもたばこを吸っていることを隠していた。彼女に会う前はシャワーを浴びて新しい服に着替えて匂いを消していた。大学中に付き合っていた元カノにはタバコを吸っていることがバレたことをキッカケに色々な理由が重なって振られた。禁煙も試みたがやめられなかった。研修医になってできた彼女にもタバコを吸っていることは隠していた。でも彼女はすぐに僕が喫煙者であることを気付いていた。匂いに気をつけているつもりでも嫌煙家にはすぐにバレるらしい。

「タバコを吸っているのは嫌だけど、隠されるのがもっと嫌だ。そういうので信頼関係がなくなっていくんだよ。あと、結婚する人はタバコ吸わないひとって決めてるから。」

それでも僕はタバコをやめられなかった。彼女の目の前では吸わなかったが彼女と会わないひとりの時に吸っていた。彼女と結婚したい気持ちがなかったわけではない。僕はひとりで手持ち無沙汰の時にタバコを吸いたくなるのだ。不思議と彼女といるときはタバコを吸いたい気持ちが全くと言って湧いてこない。彼女と5日間程度旅行に行った時、自分が喫煙者ということを忘れていた。もちろん普段のデートや家に泊まりに来ている時も隠れてひとりで吸いにいくなんてこともない。
だから僕には自信があった。結婚したら僕は、喫煙者じゃなくなる。本気でそう思った。

自分で自分のことを決めてみたい

僕が医学部に行くことを決めたのは高校〜大学時代に付き合っていた彼女の影響だった。高校3年生の時、医学部を受けるなんて選択肢は僕にはなかった。成績云々ではなく全く選択肢になかった。(受けたとしても全く歯が立たない成績ではあったが。)
僕は農学部系を志望していた。そして、お金持ち志望だった。農学部で醸造など学び美味しいビールを開発する、そしてお金持ちになるというのが高校3年生の僕の将来の夢だった。だが、行きたかった大学は見事に全部落ちた。僕は浪人生活を送ることに決まった。当時の僕の彼女は女子大に合格していた。浪人生と女子大生のカップルなんて上手くいくのだろうか。不安だった。
彼女の父親は医者だった。僕が医学部を目指すと言ったら彼女は応援してくれるかもしれない。それに医者は金持ちだ。僕は彼女に医学部を目指すことを伝えた。彼女は浪人生活を応援すると言ってくれた。

浪人生活が始まった1ヶ月後の5月。僕の誕生日の数時間前に、僕は彼女に振られた。
付き合っていることが逆に勉強の邪魔になっているのではないか、みたいな振られ方だった気がする。新生活になってから破局するというのは世の中のあるあるだが、これもその類であることは19歳になった瞬間の僕はすぐに分かった。
数週間後、その彼女は某有名大学のサッカー部のマネージャーになったらしい。

振られた悔しさと苦しさ、新しく彼氏が出来たんだろうなという不安を抱えながら僕は勉強した。医学部に合格できたら復縁してもらうように彼女に告白してみよう、というのを原動力に僕は勉強した。
国公立には手が届かなかったが私立の医学部5校に僕は拾ってもらえた。一番偏差値が高いところに進学するべきだと分かっていたが、そこは彼女の大学と新幹線で2時間程度の距離だった。そして偏差値は下がるが彼女の大学と鈍行電車で50分の距離にある大学からも合格をいただいていた。(と言っても偏差値の差は1pt程度)
僕は彼女に約1年ぶりに電話をした。まず、彼女は合格おめでとうと言ってくれた。
前者の大学に行こうと思っているが、まだ未練があるからもし復縁してくれるなら後者の大学に進みたい。という旨を話した。
彼女は近くに進学することができるなら嬉しい。1年間僕のことを応援していた。復縁もしたいと思っている。と話してくれた。
ただ、大学生になると新しい出会いがあってもっといい人がいるのではないか、それを見極めてからの方がいいと思う。と付け加えられた。
そして僕は後者の大学に進学し1ヶ月間、大学生活を過ごした。良い人に出会うこともなく僕たちは復縁した。20歳の誕生日を迎える前だった。

医学部は6年制だ。彼女が社会人1年目になる時、1年浪人している僕はまだ大学4年生だった。彼女が社会人になり1ヶ月が経とうとしたとき、僕たちは別れた。社会人として仕事を頑張りたい、という振られ方だった。また僕は、新生活を機に破局するカップルというあるあるの渦中にいた。23歳の誕生日を迎える前だった。

(その約1年後にまたその彼女と復縁するのだが、先述したように別れた。復縁したいという気持ちはあまりなかった。)

そして大学6年生になって進路を考えるとき、自分の道のりを振り返ってみて”俺、まだ自分で自分の進路決めたことない”と気付いたのだった。
よし、”これから先は自分のしたいように自分で選ぶ”を人生のテーマに掲げた。

もう一つの隠し事

自分の人生のテーマのもとに、僕は初期研修が始まる前から研修修了後は一度医者から離れようと決めていた。”何となく海外/英語に興味があるからワーホリに行く”と決めた。
初期研修先で出会った彼女と付き合う前から決めていた。彼女と付き合うことができた後もその考えは変わらなかった。僕は彼女にそのことを隠していた。そしてビザを隠れてひとりで申請した。

隠した理由はこうだ。
”彼女にもし反対されても俺は絶対行く”と決めていたから。
”彼女の人柄的に遠距離恋愛でも上手く行くだろう”と決めつけていたから。
”海外に行くなんて理解されないだろう”と決めつけていたから。

頃合いを見計らっていつか言おう。と隠していた。

ある日、大学時代の後輩とご飯に行くことになった。彼女も一緒に連れて行った。食事中、後輩が”研修医終わったらカナダ行くって本当ですか?”と僕に聞いてきた。僕は、”そうそう。もうビザも申請したよ。” 彼女は驚いていた。
食事の後ふたりで家に帰る時彼女は、”あの話本当?”と聞いてきた。”本当。ごめん、言うタイミングがわからなくて言えなかった。”と答えると、彼女は”びっくりした”と言ってその話題は終わった。

その日から数ヶ月、僕たちは僕の進路の話題を一度も話すことなく年を越そうとしていた。年末に彼女のお姉さんから食事の誘いがあった。僕と彼女とお姉さんの3人でスペイン料理屋さんに集まった。二人の馴れ初めや仕事の話などよくある会話をした後、お姉さんは言った。
”カナダに行くって聞いたけど、遠距離恋愛うまく行きそう?”
お姉さんは日本とイギリスの遠距離恋愛を実らせて婚約中だった。
”二人の中では遠距離についてどう話し合ってるの?”
”何もこの話題について詳しい話はしてません”
”無理じゃん。絶対別れるね。そもそも(妹)の性格的に遠距離は無理だし。これからのことについて話し合いが出来ないような関係性ならなおさら遠距離なんて出来ない”
僕は、何も言えなかった。
僕は自分の進路のことで話し合いをして二人の間に険悪なムードが流れるのを避けていたのだった。話し合いを自分から持ちかけることができなかった。相手から話してくれるのをずっと待っていた。受け身だった。
食事の帰り、初めて僕は具体的な話を彼女にした。元カノの話から遡って全て伝えた。隠れてビザの申請をして3ヶ月程度たった後だった。結婚したい気持ちはもちろんあることも伝えた。が、遠距離恋愛がうまく行く方法についての提案は何もできなかった。僕自身、遠距離恋愛がうまく行くイメージが湧かなかった。

それ以降、僕たちはまたその話題に触れることは無かった。が、とても仲良く、誰がどう見てもうまく行っているカップルだった。

ある日のことだった。
「今度の日曜日〇〇に行くってのもいいね。」と僕が言ったのだが、僕はそれがきちんとした約束事だという認識がなく昼過ぎまで寝てしまい彼女を怒らせてしまった。その件でひとしきり怒られた後、彼女はこう続けた。
”この際だから言うけど、遠距離なんか出来ないと思っているから。”
そして僕は、ここで初めて自分が思う遠距離恋愛がうまく行く方法を具体的に提案したのだった。
このような事が計3回程度あった。彼女が物申すタイミングでカナダのことも付け加えて物申し、僕がそれに答える。といった具合だ。

いつまでも受け身の自分

付き合って1年4ヶ月程度がたった頃、彼女がイギリスに嫁いだ姉を訪ねて1週間日本を離れた。イギリスやフランスの観光地の写真や姉の家の様子などラインで教えてくれて、僕もいつも通り彼女とのラインを楽しんでいた。だが、彼女が日本に帰ってきた時からは様子がおかしかった。2週間程度、ご飯などには一緒に行くがどこか険悪なムードが流れていた。
そして僕は彼女から振られた。
遠距離恋愛を実らせて結婚まで行った姉夫婦の様子を見て、こんなふうになれる気がしない。真面目な話し合いを話し出すのも私からだけだし。隠し事するし、信用出来ない。といった振られ方だった。
そして彼女はこう続けてくれた。
でも自分で決めた道を進むってことは応援したい。頑張ってくれ。と

結局僕は最後まで受け身だった。
タバコを吸っていることも自分から言わない。進路のことも自分から言わない。(むしろ後輩が質問してくれた時、言うタイミングをくれてありがとう。とすら思っていた。)

僕は、自分で自分の将来は決めると意気込んでいただけだった。
いくつかある部屋の扉をただ自分で開けただけ。入った部屋で何をするかも考えておらず、そこからまた続く扉の存在にすら気付いていなかった。

そして僕はひとりになった。

彼女と別れた僕は初期研修を終えて独り身でカナダに行った。
これで良いのだ、と思っていた。自分がやりたいように将来を進んでいるからこれで良いのだ、と思っている。
カナダで2ヶ月程度生活して”一ヶ所に居続けるのもつまらないな”という考えが頭に浮かび僕はカナダを去ることを考えた。

いま僕はひとりだ。カナダを去ってどこに行こうが誰にも関係ない。
でも、心に引っかかる。彼女と別れる原因となったカナダ渡航を終わらせることに。
僕がカナダを去って日本でアルバイトをしながらお金を貯めて行きたい国に行く、という方向転換をした。と彼女の耳に入れば彼女はどう思うのだろうか。
ダサい奴と思われるのだろうか。芯のない奴と思われるのだろうか。
別に、”へー、そうなんだ”くらいにしか思わないのだろうか。

僕はそんな事をここ1ヶ月毎日考えていた。
結局人がどう思うからこうしようか、みたいな思考が抜けないのだ。

そうだ、ドイツ、行こう。

そして僕は思った。
多分、彼女はもしカナダを去ることを聞いても何も思わない気がする。
彼女が僕に見切りをつけた理由は、それが原因ではないから。
彼女はいつまでも受け身な僕に見切りをつけたのだ。二人の将来について真摯な対応をしていない僕に見切りをつけたのだ。

今回の別れで僕が教訓にすべきは真摯さだ。相手に全くと言って良いほど真摯な姿勢を見せていない。
バレたら都合悪いことは隠す・自分の都合の良いように相手を解釈する・話すべきことを自分から話さない。真摯じゃない。
これから先、ご縁がある人がいるのなら僕はその人に最大限に真摯に向き合わなければいけない。

ならば、別にカナダを去ることに問題はない。自分が行きたいところに行く。やりたいようにやる。いま僕はひとりだから、相対するべきは自分の心である。僕は自分の心に真摯に向き合い、”一ヶ所に居続けるのもつまらないな、いろんなところに行きたいな”という考えに行き着いた。だから、これで良いのだ。

そうだ、ドイツ、行こう。

27歳の誕生日を鉄板焼屋さんで祝ってくれた元カノが、同期のグループラインで皆と同じように28歳の誕生日にお祝いのメッセージをくれた。
僕はカナダの写真を送っただけで、まだお礼の言葉を言えていない。
真摯に生きることをテーマに掲げた僕が次にするべきことは決まっている。




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