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麹の歴史と種麹の誕生

 さて、今日は麹の歴史について書きたいなと思います。そして、種麹の誕生が日本の発酵食品に与えた概念を、少し抽象的に書いてみようと思います。

 さて、そもそも種麹が発明される前は、どのように麹を作っていたのでしょうか?

 まずは自然種付け法。これは、穀物をほったらかしにしておいて、自然にコウジカビが生えてくるのを待つというスタイルです。当然ながら毎回コウジカビが、ちゃんと生えてくるとは限らない。非常に不安定な方法です。さらに言えば、カビが降ってくるのを待つ時間もかかる方法です。

 そこで、昔の人は思いつきました。「出来の良い麹をとっといて、それを次に麹を作るときに種として混ぜればいいんじゃない?」これが友種法(友麹法)といいます。

 これにより、自然種付け法よりも安定して麹を作ることが出来るようになりました。ただ、これでも、作るごとに微妙に品質が変化したり、毎回確実に再現できるというわけにはいきません。

 さて、ここで誕生するのが種麹。麹に木灰を混ぜることによって麹菌を選択的に生育できる技術となり、種麹の発明に繋がりました。これは、「発酵食品を作る現場、作る時期から、離れた場所、タイミング、微生物だけを別途生育し、それを発酵食品に利用する」という、超画期的な概念の誕生です。

 「発酵に必要な微生物を育てる」ことと「発酵食品を作る」ことが工程分離され、そして「微生物そのものが工業的に生産され、商品として流通する」という微生物産業が日本に誕生しました。それは、室町時代、今から600年ほど前の出来事です。これは世界に類を見ない日本独自の産業と言われています。

  「種麹」の誕生により、日本全国場所を選ばず、安定した微生物を手に入れ、安定して麹を作ることが容易に出来るようになりました。これによって、種麹メーカーは日本の発酵食品の発展に貢献してきたと自負するところです。

整理すると

1.自然種付け・・・自然に降りてくる微生物を待つ
2.友種法・・・前回出来の良かったものを種として使う
3.種麹・・・微生物だけ別に育てておいて使う

 という段階で発展しました。麹に限らず、日本、世界の発酵食品は基本的にこのどれかの方法になりますが、3はかなり珍しく、日本では何百年もこの方法でやってきていました。

 さて、近年、発酵食品が注目されている理由として、「地産地消」や「テロワール」などの概念があります。そのため、「自然種付け」や、そこから派生する「友種法」の手法にも注目が集まっています。土地の発酵食品は、その土地の微生物で、ということですね。

 もちろん、それは大事なことですし、否定はしませんが、 近年の発酵食品に求められている概念や意義と、「種麹」が生んだ概念と意義は、一見対立してしまいます。

 日本では「全国各地に微生物を安定して届ける技術と産業が受け継がれてきた」ということも、「日本の伝統」の一部として捉えていただけたらなあ、、、と願うばかりです。



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