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【掌編小説集】土岐と里見の話

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日常以上・怪談未満の掌編小説集。土岐という男と里見という男の日常奇譚。そこに少しちがう何かがある。お好きなものからお読みください。
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#不思議

【掌編小説】きつね火ともし (1627文字)

【掌編小説】きつね火ともし (1627文字)

二つ足音が山野をめぐる。

ひとつ、ふたつと数えて歩かねばならない、見える数、聞こえる数は変化する、しかし常に、ひとつ、ふたつ、それだけを数えなければならない。まやかされてはならない。

そうして里見と土岐は野を歩き、気付けば山の端を辿っていた。

霧雨が肌を覆う。虫よけに藍の風呂敷を被ってきたが、それもすっかり濡れていた。

薄の草むらを辿り、笹藪に入る。
笹藪の獣道はわかりやすい。僅かな陽に照

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【掌編小説】箱

【掌編小説】箱

随分と遅くなった。
車窓の外は等間隔に外灯が行き過ぎるだけで、夜の中でも特に深い色をしている。その色に目を凝らすと己の顔があった。俄かに波を打つ硝子には己の白い顔と夢うつつの土岐、揺れるつり革が投影されている。車体が大きく揺れ、身体が傾く。土岐が目を覚ます。河川を渡る直前の切り替え地点で必ず大きく揺れるのが、この路線の特徴だ。

作家仲間との宴会帰りだった。仲間内の愚痴に浸した刺身を食らい、噂話を

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