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杳 芽具見
2022年6月8日 23:26
二つ足音が山野をめぐる。ひとつ、ふたつと数えて歩かねばならない、見える数、聞こえる数は変化する、しかし常に、ひとつ、ふたつ、それだけを数えなければならない。まやかされてはならない。そうして里見と土岐は野を歩き、気付けば山の端を辿っていた。霧雨が肌を覆う。虫よけに藍の風呂敷を被ってきたが、それもすっかり濡れていた。薄の草むらを辿り、笹藪に入る。笹藪の獣道はわかりやすい。僅かな陽に照
2021年9月4日 00:54
随分と遅くなった。車窓の外は等間隔に外灯が行き過ぎるだけで、夜の中でも特に深い色をしている。その色に目を凝らすと己の顔があった。俄かに波を打つ硝子には己の白い顔と夢うつつの土岐、揺れるつり革が投影されている。車体が大きく揺れ、身体が傾く。土岐が目を覚ます。河川を渡る直前の切り替え地点で必ず大きく揺れるのが、この路線の特徴だ。作家仲間との宴会帰りだった。仲間内の愚痴に浸した刺身を食らい、噂話を