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じゃんけんのルールを忘れた話

夕方、同居人がドバイから帰ってきた。

「洗濯は明日にしようよ」と話していたけれど、明日お客様がいらしたときに山盛りの洗濯物があるんじゃ恥ずかしいから、同居人が寝たあとに洗濯機を回した。
部屋に干した洗濯物から、じわりとドバイの香りがする。
海外に着いたときの「あ、ここ日本じゃないんだ」と気づかされるあの香りは一体どこから来るのだろう。
日本ってどんな香りがするのだろう。
日本人に生まれた以上は嗅ぐことができないあの香りを、ちょっとだけ嗅いでみたい、なんて、洗濯物を見ながら考えた。


私はこの1週間ほどひとりで留守番だった。
彼が出掛けている間にストレッチと筋トレを再開した。
今日で5日目。まだまだしんどくない。
数学と英語のルーティンも1ヶ月以上続いている。
冬のあいだ、何ひとつ継続できなかったのに。
春を目前にして長い冬眠から覚めたという感じだろうか。
まだフリースは手放せないけれど。


昨日驚いたことがあった。
社会人になって6年が経って、確かに「その機会」は減っていた。
でもね。そうは言っても。さすがにそれは。
まさかじゃんけんのルールを忘れてしまうだなんて。

無論2人や3人のじゃんけんならルールはわかる。
グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つ。
全員同じ手、もしくは全員違う手ならあいこでやり直し。
大人になってから少人数のじゃんけんでもなかなか機会がないが、3人のじゃんけんは数学の確率では頻出問題なので慣れたものだ。

でもこれが5人のじゃんけんだったら?
これを読んでいるあなたは「ナニイッテンノ、コノヒト」と思うかもしれない。
日本の中で数人だけ、5人のじゃんけんを想像してドキッとした大人がいないだろうか。……いないか。

ずっと家の中にいるわたしに5人のじゃんけんの場が用意されたのではない。
これまた数学の問題だ。

5人で1回だけじゃんけんをしたときに、ちょうど2人が勝つ確率は?あいこになる確率は?2回続けてあいこになって3回目で一人だけが勝つ確率は?

私の唯一の話し相手である問題集が矢継ぎ早に問いかけてくる。

はいはい、ちょっと待ちなさいったら。手の出し方の総数は$${3^5}$$ でしょう?それから勝つ人の選び方が$${\tiny 5}$$$${\mathrm{C}}$$$${\tiny 2}$$で、手の出し方は3通りっと。

そう。勝ちの概念まではよかったのだ。問題は『あいこ』である。勝敗がつかないからと言ってすべてなかったことにするあのルール。あの『あいこ』である。

次は何って?ああ、あいこね。そりゃもう全員違う手なら…え、全員違う手?5人いますけど。あれ、パーが4人でグーが1人なら4人勝ち。じゃあパーが3人でチョキが1人でグーが1人ならどうなるんだっけ。全員違う手じゃないからあいこじゃないよね。まさか一番人数が多いから3人の勝ち…?ていうか大人数のときはグーチョキパー以外に手があるとかある…?え、ていうか5人ならまだしもこれが10人になったら1回1回人数数えるわけ?小学生のときなんであんなにスムースにじゃんけんできたんだっけ。

この間ずっと右手はじゃんけんをしている。アラサー女性が虚無に向かって手を出し続ける。何回シミュレーションしても思い出せない。4人以上のじゃんけんってどういう状態があいこなんだ!!!!!

ここで視点を変えて、あいこじゃないということは誰かが勝っているのだから、『あいこ』という事象を『誰も勝っていない状態』と考えて余事象で導くことにした。

するとびっくり。さっきまでの混乱が嘘かのようにすいーと解けた。さらに、誰かが勝つということは残りのメンバーの手は確定なのだから、2種類の手が出たときは誰かが勝っていて、3種類の手が出たときはあいこ、当然1種類しか手がなかったときはあいこ、ということにも気づくのである。

えぇ、わかっていますとも。5人のじゃんけんのルールが最初からわかっているあなたは、「ナガナガトナニイッテンノ、コノヒト」という感じでしょうね。
でもね、ときどきこういうことってあるんですのよ。当たり前にやっていたことを、ふと、忘れてしまうこと。

大人だってたまにはじゃんけんでもしないとね。でないと虚無に向かって延々とじゃんけんをするはめになっちゃうんですもの。
すぐに同居人に連絡して「話し合いや譲り合いで物事を決めるのはもうやめ!!これからはじゃんけんよ!!」なんて。

あしたはお客さまをお招きする日。
お掃除にお料理にお洗濯に。頑張らなくては。


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