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お酒を飲むと過去の恥に憧れる話

はじめて飲んだ瞬間から、お酒がすきだ。
わたしが酒好きになることなんて幼いころから想像に難くないことだった。

そもそも両親ともに酒好きだ。
お金が無くてもお酒だけは我慢できないくらいに酒好きだ。
母親は焼酎。
父親はウイスキー。
もしかしたら体型を意識していたり、値段の安さで妥協していたり、酔いの速さで選んでいたりすることもあったのかもしれないが、2人ともそのあたりを好んで飲んでいたように記憶している。

しかもわたしは子どものころから中年のサラリーマンが好む酒のつまみのようなものが好きだった。
小2のときの好きな食べ物はフキとオクラだったし、いわし明太とか茄子の煮浸しとか、鍋に入っている魚の目玉とか、子どもの王道を行けない女の子だったのだ。

極めつけは高校の保健の授業でやったアルコールパッチテストである。
活発だけどかわいらしい女の子を演じていた高1のわたし。
アルコールパッチテストでは色白な二の腕がほんのりピンクになるのが理想だった。
弱すぎないけれど強すぎない女を演じたかった。
酒好きの血は流れているかもしれないが、お酒も飲んだことがないし大丈夫だろう、と思っていた。
しかし、結果はどこに検査剤を貼っていたかもわからないくらい真っ白なままだったのである。
「俺、ビール飲んだことあるよ」と自慢していた色黒の野球部員の方が赤くなっていて、まわりの友だちから笑われた。

そんなわけで未成年のときから酒飲み街道まっしぐらだったわたしは、成人してビールを飲んだ瞬間「うまいっ…!」と言ったのであった。


特にお酒を飲んだのは、22歳から25歳の時期だった。
この時期は、ちょうど大学の寮を出て一人暮らしを始めたころから、大学を卒業して高校の先生になった時期だ。

このころお酒を飲むと必ずやっていたことがある。
あまりにも恥ずかしくて、もしもこのnoteを知り合いが読んでいたらどうしようと不安になりながら言う。
ジャニーズアイドルを主人公にした小説を書くことだ。
いわゆる「夢小説」と言われるものだろうか。
めくるめくジャニーズの世界に迷い込み、そこにひとたびアルコールを投入してしまうと、めきめきと創作意欲が湧いてしまうのだ。
普段は恥に行動を制御されているようなわたしなのに、お酒はその恥を忘れさせてくるので恐ろしい。
恥ずかしい趣味だと今でも思っているので、現実世界の友人にはもちろん言っていないし、ジャニーズ用のTwitterアカウントでできた友だちにさえも言っていない。
唯一この過去を知っているのは同居人のみだ。
同居人はわたしよりも恥の多い生涯を送ってきたからか「この小説、おもしろいねぇ」などと、すんなりと受け入れてくれた。

わたしの小説は、当時夢小説好きな人に好まれていたある投稿サイトで、毎日数千人の人に読まれていた。
このnoteの100倍くらいの閲覧数だろうか。
夢小説には珍しく、劣等感のようなものを克服する話や立ち止まった人生をもう一度動かす話などを書いていたため、年配の方や小説好きの方に妙に人気だった。
何人かのファンの方には「こんなところに投稿しないで、小説応募サイトに投稿したほうが良い!」と説得された。
自分でも、この小説にかけている時間を考えると、本当にそうだよな、と思いつつ、そうは言ってももうここに書き始めちゃったしなぁ、とほんのり後悔しながら毎日投稿していた。
結局そのサイトには数作品ほど投稿した。
夢小説の読者は、小説好きの方ももちろんいるけれど、基本的にはジャニーズ好きの方なので、肩肘を張る必要もなくて居心地がよかったのだ。
酒を片手に書くくらいがちょうどよかった。

昨年久しぶりにその投稿サイトにログインしてみた。
5年くらいしか経っていないのだけれど、その間にジャニーズ界では、長いジュニア時代で人気を温存しまくったグループが3組もデビューし、そのサイトでの人気グループも若い世代にスライドしてしまっていた。
わたしが書いていたグループも、当時は総合ランキングの上位に並んでいたのに、今では一作品もランクインしていない。
あの人たちも大人びてきたけれど、私たちも良い大人になったのだな、と思った。

最後に書いた小説は、思春期の焦燥感に駆られた高校生たちの話だった。
それぞれの青春が、むずむずと恥ずかしくて、でもどこか懐かしくて、どうしようもなく憧れてしまうような、いかにも酒を飲んだ人間が書きそうな小説だった。
まだ投稿できるほどの書き溜めがないまま社会人になり、最初は息抜きになっていた小説執筆時間がいつのまにか邪魔になってしまった。
けれど、今でもたまに読み返すと、なかなか良い作品ではないか、と、創作意欲が湧いてきて、ほんの少し続きを書き進める。
作品が悪くないぶん、このまま日の目を見ないのはなんとなくもったいない気がする。

実は昨年サイトにログインしたときに、その書きかけの作品を数話だけ投稿してみた。
今でも通知を受け取っている読者さんはいるようで、数百人の方が読んでくださって驚いた。
けれど、何日か投稿してからは、あのときほどリアクションがないからか、あのときほどジャニーズに対しての熱がないからか、あのときほど暇していないからか、理由はわからないけれど、結局辞めてしまった。


未だにお酒を飲むと、小説が書きたくなる。
ジャニーズが主人公でなくとも、小説を書くなんて自分の脳みそを覗かれるようで、部屋の本棚をまじまじと見られるときくらい恥ずかしい。
それでもお酒は、過去の恥に憧憬を抱かせるのだ。

島に移住してから、ぐんと飲む量が減った。
安く飲める居酒屋が多くなかったり、塾講師をしていて夜働いていたりしたからだ。
最近では30を目前にして胃袋が小さくなってきたのか、食べ物だけでお腹がいっぱいになってしまい、お酒はなんとなく飲みたい気分のときに、嗜む程度にしか飲んでいない。

適度に恥と距離をとりつつ、心のどこかで恥に憧れる、そんな感じだ。


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