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個人は企業より強いという新しい常識

 この話題ももうあちこちの特集や書籍で読めることで、何番煎じなんだかわからないくらいです。むしろ非noteユーザーにこそ読んでほしい気はしますが、日本中の社長と人事部が働き方改革を本質から理解して進めてもらうためには必要な基礎知識だと思うので、最後にまとめておきたくて。

■企業も世の中の価値観の変化に気づこう

 働き方改革の必要性を生じさせた原因には社内と社外の状況変化があるもので、社内事情の変化は過去に書いた通り。今回は企業の外で起きている変化について書いていきます。外的要因ですからすべての組織にあてはまることですし、逃げることもできません。

 エッセイ本を読んでいたつもりが社会学について学ぶことができたのが、芸人の若林正恭氏著「ナナメの夕暮れ」でした。若林氏が番組収録の中で国、企業、個人の力関係についてある先生から学んだエピソードが載っていて、まさにこれだと。ここに私の解釈と見解を付け加えて書き直してみます。

 かつて戦時の日本は国がすべての情報とそれを扱う権力を持ち、国民に対しては情報統制していました。しかし戦後に主権が国民に移されると、情報の収集力と発信力をもつ企業が強くなってきます。中でも情報の仲介を生業としている新聞社やテレビ局は最強でした。その後インターネットが普及し、FacebookやTwitterなどのSNSの登場で個人が発信力を得ると、急速に個人間のコミュニティが活性化し個人が強くなりました。個人は少し前まで弱小だったので、国は国民、企業は社員を守る責任を負わされたままになっており、成長期に蓄えた資金力以外でまったく強みがない状況になっています。資金さえあれば個人は企業の上位互換になっている。その資金も個人のコミュニティによるクラウドファンディングで簡単に集められるようになってきました。個人が企業である銀行を頼る必要はありません。

 このように組織だろうが個人だろうが結局は扱える情報量の勝負で、同等の情報収集力と発信力を持っていれば行動力と自由度の差で個人のほうが強いという状況が現在です。よってトップダウン組織では「調べる」という情報を扱う業務を部下に丸投げすることは絶対にやってはいけないと思います。力関係が逆転してしまいますから。

 人の素性を知る方法も変わりました。かつて個人は情報発信力がなかったので、自分が何者であるかを示す簡便かつ有効な方法が、名刺を差し出すことでした。どの会社に属していて、どんな肩書きが与えられているかが自分のステータスということです。社員は会社に尽くす代わりに会社は社員に看板を貸しているという構図。一方で現在は初対面の人でも、SNSのマイページを読むことで実際に会う前から相手の素性を知ることができます。個人で情報やコンテンツを発信できるので、経歴からその評価まですべて載っています。近年の求人募集では「履歴書はいいから、SNSやブログなどのURLを書いて」というものも珍しくなくなってきました。ビジネス向けSNSであるLinkedInなんかでは経歴をマイページに書くことになるのですが、学歴や就職歴に加えて、何ができる人かというスキル欄が充実していなければ意味がありません。これを書いておくだけで、ヘッドハンターから時々お声がかかるようになります。

 日本でダントツのInstagramのフォロワー数を持つユーザー渡辺直美さんはよしもとクリエイティブエージェンシー所属ではありますが、850万人というコミュニティは彼女個人の力で作り上げたものです。誰もが渡辺さんの名刺を持っていなくてもキャラクターを知りその魅力を理解することができる、セルフブランディングの手本です。私は匿名ユーザーの絡みに嫌気がさしたとはいえ、ピーク時は1000人くらいフォロワーがいたTwitterアカウントを閉じてしまったのをだいぶ後悔しています。積み上げてきた信用スコアでしたからね。

 みなさんもスマートフォンを覗いてみれば、そこには個人で何かを成し遂げ、信用を数値化できるツールやサービスを頻繁に目にできるはず。有名どころを挙げてみましょう。

✔基本的なSNS

 過去の投稿歴によってフォロワー数やチャンネル登録者数を増やすことで価値と信用になります。これらのマイページがかつての履歴書に相当するので、何もやっていない人はせめて1つだけでもアカウントを作りましょう。YouTubeをただの動画シェアサイトだと思ったら大間違いです。あそこでは投稿者同士、視聴者同士、投稿者と視聴者の間でコミュニティが形成されています。

Facebook    https://www.facebook.com/

LinkedIn   https://www.linkedin.com/

Twitter    https://twitter.com/

Instagram    https://www.instagram.com/

TikTok    https://www.tiktok.com/jp/

YouTube    https://www.youtube.com/

✔売買取引

 売買も個人間でできるようになりました。出品者は購入者に評価され、信用を積み上げます。もの、空間、時間などを貸し借りする取引は、ホストとゲストが相互評価することになります。

Yahoo!オークション    https://auctions.yahoo.co.jp/

Mercari    https://www.mercari.com/jp/

Airbnb    https://www.airbnb.jp/

UBER    https://www.uber.com/jp/ja/

Timesカーシェア    https://plus.timescar.jp/

✔個人の市場価値

 個人が株式のようなトークンを発行し、それが流通するVALUというサービスがあります。もはや市場価値や時価総額の概念は個人単位。

VALU    https://valu.is/

✔SNS利用が前提

 SNSで積み上げた信用指標がないとホストになれないサービスもでてきました。サービスそのものも個人間取引です。

Timebank    https://info.timebank.jp/

✔個人が組織を評価

 かつては会社が社員を評価するという力関係でしたが、すでに逆転しています。飲食店の口コミ評価、社員からの企業評価、ブラック企業の投票など記名匿名を問わず個人の意見が集まって評価値が決まるサイトがあります。既出のSNSも企業がアカウントを使っている場合同様にフォロワー数で評価されます。昨年パワハラや入試採点などでやらかした大学の評価値は底辺です。

食べログ    https://tabelog.com/

Vorkers    https://www.vorkers.com/

ブラック企業大賞    http://blackcorpaward.blogspot.com/

 個人信用の拠り所がかつては名刺、今ではSNSとして異なることは、世代間の会話がすれ違う現象としてすでに日常会話でも見られることでしょう。たとえば、「どこで働く」という言い回しが意味するのは、会社名のことか地名のことか。

「最近何している」と言ったときに聞いているのは、積み上げ中のスキルのことか、週末の趣味のことか。

この温度差は大きいですよ。

■強くなった個人の生き抜き方

 人は生きている間に平等に与えられる時間という有限リソースを様々な方法で衣食住に変換して生きていますが、個人が強くなるとその方法が多様化してきます。

 かつての日本で一般的だった終身雇用+定年制の旧型会社員の変換ルートはいたってシンプルで、労働によって時間をお金に変換しそのお金で生活に必要なものを手に入れるというものでした。学びのないつまらない仕事でも、給料がよければ妥協して引き受ける。こういう考え方のため変換量を大きくすることにつながる昇進や昇給が重要な行動目標でした。

 しかし新型会社員は違います。労働によって時間を直接お金に変換することは同じなのですが、同時に学びを求めています。その学びになる経験は前述のように数値化された信用として積み上げられ、その信用を使ってお金に変換していくのです。時間は消費するものですが、経験は利用するものなので即消費はされず、陳腐化するまでは継続的にお金を生み出すという特性があります。年齢分布が逆ピラミッドの現在では会社の中での昇進や昇給は望みづらい。自分の力で稼ぎを増やす方法が社外にしかないならば、残業を極力小さくして時間を捻出し、それにリソースを割くというのは自然な発想です。会社員としての給料はあくまで生活のベースラインであり、それ以上は個人の問題だとわきまえています。定時で帰ることを重視しているのは、サボりたいからではなく、新しい経験を求めているからです。そういう私も、毎日代わり映えのない仕事をできる限り早く終えて、組織論の勉強をしてきました。

 この新型会社員の価値変換メカニズム、何かに似ていると思いませんか。それは実業家です。芸人からすっかり実業家へ転身した西野亮廣氏も番組で言っていましたが、実業家の多くは「お金はただの道具である」「お金を稼ぐことに興味がない」そうです。彼らにとって重要なのは経験量。お金を生み出すのはコンテンツであり、そのコンテンツは自身の経験から作り出すことができるからです。コンテンツはInstagramに投稿したりYouTubeで生配信するような1人で完遂できることはもちろん、事業を立ち上げることだっていい。生活費はそこから一部を捻出するだけで済むまでサイクルが出来上がってしまえば、なるほどお金よりも経験が大事だということになります。

 究極的には生活はすべて経験であり、すべてコンテンツ化できます。堀江貴文氏なんかは「遊びと仕事の境界はない」と言っていて、ワーク・ライフ・バランスという概念すらない。遊んでいれば、それはイコールコンテンツということ。だからコンテンツになる生活は変化に富んだものであるべき。会社員としての仕事は毎日同じことの繰り返しな上にすべて機密情報にあたるのでコンテンツ化は当然できず、価値が低いのです。

 実業家は経験を積み上げるための時間が足りなければ、しばしば人を雇うなどして実質的に時間を買います。動かしている金額は大きいので実業家はお金大好きみたいな印象になるのかもしれませんが、矢印の太さが示すように彼らの価値変換サイクルの中心は経験です。

 この実業家の価値変換サイクルは、かつてはとびきり有能か資金力のある限られた人にしかできないと思われていましたが、その条件すら近年の技術よって緩和されています。今や小学生のなりたい職業ランキング上位の常連となったYouTuberを見ればわかりやすいでしょう。例えば、過去ならばゲーマーは時間を消費して得た「ゲームが上手い」というスキル価値を何にも変換しなかったのが、プレイ映像を録画し攻略解説をつけて投稿することでそのゲームの奥深さを宣伝することにつながり広告料をもらえるようになっています。「ゲームを攻略解説できるまでやりこむ」という経験はYouTubeのマイチャンネルに記録され、蓄積され、ステータスとなり、各ゲームメーカーから広告塔としての依頼が舞い込んでくるサイクルが完成。実業家と言うにはスケールが小さいですが、立派な自営業です。

 もっと大規模に事業をやりたいとなると、資金面に問題が出てきます。しかしこれもSNSで解決です。魅力的な主張やビジョンを日常的に発信して支持者を集めておけば、無条件でお金を出してくれる人が現れるもので、すなわちクラウドファンディングで資金を集めることができます。12歳で100万円以上集める人だっているんです。

 成功する人は、みんな身の丈に合わないチャレンジをしている。大成功したと言われているような会社の社長もほとんどバカではあるが、行動力だけは誰もがズバ抜けている。
―――― 堀江貴文著「99%の会社はいらない」

 実業家ほどにはならなくても、少しでもこのスタイルに近くあろうとする会社員が増えているのはどうしてでしょうか。私は大きく3つ理由があると思います。

(1) コンテンツ配信サービスの普及

(2) さほどお金に困らなくなった

(3) 自己防衛が必要になった

ではひとつずつ。

(1) コンテンツ配信サービスの普及

 YouTubeやTikTokへの動画投稿も、作った手芸品をminneで売りに出すのも、すべてコンテンツ配信です。ただの文章でさえコンテンツですので私のこのnoteへの文章投稿もコンテンツ配信です。ニートが「おはよう。今日もだるい」とだけTwitterに書き込んだって、「ニートの生活感がうかがえて楽しい」という価値を生み出してくれるコンテンツです。

 かつては、コンテンツを作っても世の中に配信するためには出版社や小売店に持ち込んで、しかも交渉が必要なこともあるなどハードルが高かったものですが、配信サービスによってこんなにも簡単になったのはたいへんな革命です。趣味の延長で稼げるというのは、一昔前ならば「そう簡単なことではない」と言われたものでしたけが今では小学生ですらできる。何か新しいことを始めるときは、同時にコンテンツ配信してみましょう。その道の熟練者ですら初心を思い出して楽しめるコンテンツになるはず。

(2) さほどお金に困らなくなった

 これもインターネット普及によるものですが、もの、空間、時間のシェアのハードルが下がっています。わかりやすい例でいえば、もののシェアは中古品の取引を一般化したmercariや自動車を貸し借りするTimesカーシェア、空間のシェアは民泊のマッチングを実現したAirbnbなどですね。イメージが沸きにくそうな時間のシェアですがこれは規制強化真っ只中なチケット転売なんかがそうで、都合ができて行けなくなったライブの時間を他人に譲ることが該当します。こういったシェアサービスを利用することで、割安に目的のもの、空間、時間を使えるので、生活コストがかつてより格段に下がりました。

 基本的な衣食住コストも下がっています。しまむらやジーユーに行けば500円もあれば丈夫な肌着が買えるし、吉野家の牛丼380円とかサイゼリヤのミラノ風ドリア299円なんて驚異的な業務効率化のたまものです。シェアハウスなんていう安い住居も増えてきました。もはや積極的に自分のことをインターネットに晒していく今の時代、日常生活を隠して得なことなど大してないということに気づき始めています。私はできれば家族と住みたいけども、どうしても単身赴任が必要になったら、シェアハウスを探そうと思っています。

(3) 自己防衛が必要になった

 最後の3つ目、これは地味に深刻な社会問題に関連します。経済成長が止まって少子高齢化により人口減少に突入した日本でいまの若者が何を考えているかというと、自己防衛。いざという時の備えが、貯蓄ではなく自力で稼ぐ力だという考え方です。

 日産、日本航空、ソニー、キャノンのようなかつて超一流と言われた大企業たちが潰れかけるというニュースが平成の30年間で駆け巡り、次は我が身とリストラに怯える親を見てきたことで、会社も労働組合も社員を守れないというのが一般常識になっています。信用できないのは企業だけではなく、国も。年金というのは人口が増加傾向であることを前提に作られた仕組みなので、真逆の減少傾向に突入した中でこれを頼るという選択は堅実ではない。

 人生100年時代と言われるくらい寿命が延びてしまった近年、自分が何歳まで生きるかさっぱりわからないので必要な貯蓄額が未知数すぎます。自己防衛を考えた時に起こすべき行動は、コミュニティを大きく作っておくこと。人脈を築くことと似ていますが、相手は顔の知れた人であるに越したことはありませんが、不特定多数でもよいという点で異なります。できる限り自分が何者であるかを発信し続けることで注目をある程度集めておき、いざという時のために身を寄せられる場所を準備しておくのです。

人は希望がないと生きられないとして、企業(で働くこと)に希望が持てないならば、個人として希望を持つ必要が出てくる。
―――― 若林正恭「ナナメの夕暮れ」

 そこで集める評価は「なんか変わったヤツがいる」であるほどよい。変わったヤツのほうが、単純に話題性がある。私の弟なんてコーヒーが好きすぎて店の名物店長としてそこそこ有名になって、時々メディアに露出しています。ついでに宣伝しておこう。

■毎日楽しいか

 まとめながら忘れずに専業主婦(主夫)たちに向けて書いておかねばならないことがあります。お金だけでなく経験も重視すべき新しい社会環境の中、稼ぎ頭となっている相棒は勤めている会社で、有限リソースである時間をどんな価値に変換しているでしょうか。少しでいいので気を配ってみてください。職場で経験という価値を積み上げられているかどうかを聞き出せる良い質問があります。

「どう、仕事は楽しい?」

「楽しい」と答えればよし。お金にならないことでも何かしら身に付けているスキルがあるという充足感がそういう答えを導いてくれます。逆に「楽しくない」「つまらない」と答えたならば注意です。身に付くものがなく、時間を100%給料に変換しているだけで、成長がないということでしょう。我慢は何の学びにもなりません。「石の上にも三年」と言いますが、その石の上が楽しいかどうかで3年の価値はがらりと変わります。

 そんな私自身ですが、ここまで勉強したり考察したりしておきながら6-7年くらい前にniconicoで動画や文章を投稿していたのを止めて以来、このnote以外にコンテンツ配信はしていないし、SNSはTwitterアカウントを閉じるという逆行なことをしてしまう有様。NewsPicksには130人くらいのフォロワーがつきましたがまだその程度だし、あれはコミュニケーションには向いていません。FacebookはUIが好みじゃないので使いたくないとかケチケチしてはいけないのかもしれない。LinkedInを頑張って使おうとしていますが日本のユーザーが少ないなどでまだまだ弱小アカウント。コミュニティがとても小さいのは自覚しています。

 やはりハマれる趣味でコンテンツ化を始めるのがいいのですが、ハマると言えるほどのものがありません。言ってみればこうやって組織論を勉強したのもひとつのハマっていることなのかもしれない。思い返せば過去Twitterに1000人のフォローがついたのは、niconicoで踊ってみたカテゴリの視聴にハマって、圧倒的に知識がついてしまい、狂った感性から生まれたカテゴリのまとめ的な動画を投稿したことから始まったものでした。常軌を逸することができるほどの何かをまずは求めていくことにしましょう。


 これで連載「組織論を勉強したら働き方改革の本質がわかった」は終わりです。読んでいただきありがとうございました。

 やっぱり少しだけでも「スキ」ボタン押してもらえると楽しいですね。今後もジャンル問わず投稿を続けたい。私はそこそこのゲーマーでもあるので、ハマるゲームに出会ったらそのことを書くかもしれませんし、化学屋でもあるので頓珍漢なサイエンス系のニュース記事に物申すようなこともあるかもしれません。あるいはまだまだ仕事関連かもしれない。ではまた。

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