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実践レポ2 「共有すること」は一番の学び

こんにちは。ムーヴメントやダンスの教育・研究に携わっている橋本有子です。前回の投稿「動きを描くってどうやるの?」から間があいてしまいましたが、今回は実践レポ2です。

ここ最近、階段を一段登り、見える景色が変わるような、大きな「学び」がありました。

それは、10年後の夢だと思っていた「国際シンポジウムの講師」を通して。

今回のレポでは、その「国際シンポジウム」での指導実践内容と、なぜ「共有することが一番の学び」になるのか、お話します。

3人の講師の1人に選ばれた

4月18日から5日間にわたり行われた、年次の国際ソマティック・ムーヴメント教育シンポジウム@台湾に講師として招待して頂きました。そして光栄にもクラスが好評だったとのこと。とても嬉しいことに、来年2020も招待していただきました。(2020年4月16日〜台湾(台東)にて:コロナのため2年延期で2022年4月になりました)来年は既に参加表明をしている日本の生徒さんたちも居るので、また楽しくなりそうです。

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2019「国際ソマティック・ムーヴメント教育シンポジウム」ポスター

参加者は台湾を始め、中国、香港、日本など各国の身体に関わる専門家たちです。医者、理学や作業療法士、舞踊教育者、セラピストなど、大学関係者や教育関係者も多く含みます。

このシンポジウムは、毎年3名の講師が世界(主に欧米)から招聘され、各10時間ずつクラスが開催されます。今回、私が生きてきた年数以上の指導経験があるベテラン先生方に囲まれたこと、また受講者が各界のプロフェッショナルであるということのダブルパンチで、ここ最近でダントツに緊張しました。

クラス計画は舞踊作品の創作と似ている?!

自分に務まるのか?という不安が大きかったこともあり、普段よりも多くの時間をクラス計画に費やしました。このプロセスは、舞踊作品の創作と似ている気がしています。オーディエンスは「動き」「話す」ので、比較するとだいぶ流動的ですが。(Planning/クラス計画やPedagogy/教育法についても最近訊かれることが多いので、また別の機会にお話します)

クラス計画ではまず、軸となるテーマからパズルの全容、「何を体感/体得してほしいのか」を明確にし、その動きを構成する要素に分解します(パズルのピースに分ける)。クラスでは、ピースを一つ一つ紹介しながら「からだ」に落とし込み、少しずつ紡ぎ組み合わせ、最後に大きな画/全体像(英語ではBig pictureと表現します)に到達できるような構造をつくります。

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クラスの内容、流れを試行錯誤しているプランノート

計画を練るときは、パン生地を扱うように、こねたり寝かしたり、離れてみたり近づいたり、前後を入れ替えたりを繰り返します。計画メモをプリントアウトして電車の中でペンと紙でフムフム考えたり、そして何より、動いてみます。からだに訊いてみます。これなら感覚がつかめる、いや、この前にもう一つ細分化した何かが必要か、など。というのも、目標となる全体像は「体感」が軸にあるので「からだ」を通さないわけにいきません。

そしてあるとき「すとん」と落ちて、クラス全体の流れがすうっと一本の軸を持ち、かつ自分がワクワクしてくる、という所に行き着きます。ここが重要です。クラスの中で何が起こるのか、楽しみで仕方なくなるのです。

この「すとん」までの道のりはそう簡単ではありません。けれども経験を重ねるとともに、スピードが速まっているのを感じます。この、一本軸が通って、その周りに複雑な要素が絡まり、全体像を持っている、というところに行き着く感覚的な過程が、舞踊作品の創作と似ている気がするのです。

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小道具の使い方も、参加者の「体感」を導く為に重要な役割をもっています

いよいよ合計10時間のクラス!

4/18は合計6時間、テーマは「Inner/Outer」でした。これはラバン/バーテニエフ・ムーヴメント/スタディーズ/システムにおける4大テーマの一つです。

今回は自分の内側(Inner)の世界(今回は骨と内臓をそれぞれピックアップ)が強く繋がりながらも、外側(Outer)の世界(空間や他者)と繋がっていくことを目標としました。「これは人と関わる上で、心理面やマインドにおいてもとっても重要なことですよね」とコメントする参加者も。

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手と肩甲骨のつながり

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内臓を感じる

空間はCMAマスターであるリチャード・ハイズマ(NYロチェスターを拠点にする私の大先生です。この方のお話はまた後日。)が提案している「テリトリーの大枠であるインナー、キネスフィア、アンビエント」を紹介し、骨のつながり(Basic Body Connection)はバーテニエフの「手と肩甲骨のつながり」と「目印となる3点の骨の関係性」を用いて探求しました。最後に内臓がそれぞれ、特定の面(2次元の空間)で動く練習をし、最後にペアで「内臓ダンス」を踊りました。

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特定の面(2次元の空間)で動く練習

自分の内側に目を向けながらも、目の前にいる人や共にシェアしている空間を意識することは、そう簡単ではありません。踊り終わった後は歓声が上がり、ペアと抱き合う人たちも居ました。「それぞれが自分と繋がり、人とも繋がる」という、まさに私が描いていた画(Big Picture)が浮かび上がりました。

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内臓ダンスの様子

4/20, 21は3名の講師が2時間ずつ、1日6時間のクラスが展開されました。

20日は、バーテニエフの「かかとと坐骨の繋がり」と「二人組シーソー」エクササイズを用いて、「グラウンディング:地に根ざすこと」を探求しました。ラバン/バーテニエフ・ムーヴメント・スタディーズ/システムの4大テーマに「Stability/Mobility(安定性/可動性)」があります。これは例えば、安定した土台があればその分、他の部分が動けると解釈できます。2足歩行が多い我々人間は、土台が下半身であることが多いので、下半身の安定(グラウンディング)はとても重要です。参加者は、前述したエクササイズを通して下半身のStability(安定性)を高め、最後に上半身のMobility(可動性)を味わいました。「しっかりしたサポートがあれば、こんなに動ける!」と驚きの声が上がっていました。

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かかとと坐骨のつながりを説明、ペアで探求

21日はラバンの「Effort/Dynamics」の視点を探求しました。「ラバン」といえば、この単元をイメージする日本人は多いかもしれません。これは、「動きの質、色」などの「ふわっと柔らかい」とか「硬くて強い」などという質感をTime, Weight, Space, Flowのそれぞれ対極にある2要素ずつ、合計8要素を細分化して探求していきます。

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それぞれの要素をイメージやエクササイズで体感

それぞれの要素をイメージやエクササイズで体感した後は、いよいよ「動きの瞬間を捉える」(観る)練習です。

クラスの初めに創作した「自分の名前を表現した動き」を3人組で互いに見合いながら、前回のnote「動きを描くってどうやるの?」で紹介したような、動きの視覚化を行いました。「自分が思った通りに相手にも見えていた」「どうも外には表れていなかったようだ」など、自分の身体感覚や意図と他者への伝わり方との相違点を「ムーヴメント」を通して学ぶ時間になりました。

なぜ「共有すること」が学びを深めるのか

InputとOutputを行き来することは、自身の学習でも他者への指導でも、学習プロセスとして意識しています。教えることはある意味「総合Output」で、ライブでの予期せぬ参加者の反応やフィードバックが自身に跳ね返ってきて、総合Outputしたものとそれら(反応など)が組み合わさり「統合Input」になる気がします。

つまり、通常の「学び」が自分で選び予期している学び、すなわち「選択Input」と表現されるとすると、教えることでの学びは、複合的な「総合Output」にさらにライブでの反応が入り混じり、ある意味化学反応を起こした結果、「統合Input」になるのです。ロジックはあるものの分離していた雪玉が、新しい雪玉も加わってドカーンと1つになって戻ってくる感じでしょうか。

さらに加えると、最初の「総合Output」の計画をどれだけ練ったか、が「統合Input」の質と量にダイレクトに関わります。時間をかければ良いわけではありませんが、やはり時間をかけた分、熟考した分、返ってくるものは大きいと感じます。

私はソマティクス*の立場で研究・実践を行なっています。これは「からだ」の経験が軸にあります。「統合Input」には、いわゆる認知情報の統合のみならず、からだ(Sensing)、心(Feeling)、あたま(Thinking)全ての統合が起こっていると感じています。

計画にも、指導にも、学びにも、いちいち「からだ」を通す。
だから、なおさら「共有すること」が学びを深めるのかもしれません。

*ソマティクス: 一人称の知覚によって内側から経験される、生きているからだ・人間の存在・個人を研究する領域

夢が叶った!そして成長のチャンス

2016年に初めて生徒として参加した国際ソマティックムーブメント教育シンポジウム@台湾。マスターティーチャー(教師や指導者を育成する先生)たちを目の前に、その時、「10年後くらいに、ここに講師として呼ばれたい」そう思ったことを覚えています。

まさか、3年後にその夢が叶うとは….!

3年間何をしていたかといえば、ラバン/バーテニエフの実践研究を続けながら、授業やワークショップにて指導を続けていました。それを側で見てくれていた同じソマティクス分野の先輩が、シンポジウムのオーガナイザー(台湾のソマティクス領域のパイオニア)に、私を推薦してくれたのです。素晴らしい場に私を送りこんでくれた彼女に感謝の気持ちで一杯です。

そして今回の経験から改めて、背伸びかも?と冷や汗をかく環境が十二分に自分を成長させてくれることを確信しました。

ぜひ、2020(コロナにより2022年に延期) 「国際ソマティック・ムーヴメント教育シンポジウム」へご一緒に♪(言語は英語、中国語の通訳)

まとめ

・クラス計画プロセスはダンス作品の創作プロセスと似ているが、オーディエンスは「話す」「動く」という違いがある
・「総合Output」の計画を練るほど、「統合Input」の質と量(体積?)が上がる/膨らむ
・背伸びかも?と冷や汗をかく環境が第二分に自分を成長させてくれる
・「共有すること」は一番の「学び」

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2019「国際ソマティック・ムーヴメント教育シンポジウム」の参加者たち


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