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本のはなし(15) よしもとばなな『小さな幸せ46こ』

最近、小さなことで幸せを感じることが多い。
コーヒーは1日に3回は飲むし、ダンスを見るのが好きで、アイドルのダンス動画を何回もリピートして見ている。小さい頃は全く興味が無かったのに美術館が好きになって、来年の美術展をまとめた美術雑誌を年末にいつも買うようになった。面白い本に出逢ったときはとても幸せで、通勤の電車、家に帰った後、就寝前に本を読む。私にとっては「小さな幸せ=好きなもの・好きなこと」であり、小さな幸せを積み重ねて暮らしている。

よしもとばななさんの『小さな幸せ46こ』は、著者が日々の暮らしの中で感じた「小さな幸せ」が短いエッセイでまとめられている。物への愛着を書いたエッセイもあれば、亡くなったご両親との思い出について書かれた章もある。本当に小さなことでも、その瞬間に楽しいとか、気持ちが良いと思うことができれば、それは幸せなのだと気づかせてくれるエッセイだ。

よしもとばななさんと言えば、短編小説の「キッチン」や、大学の卒業制作として書かれた「ムーンライト・シャドウ」が有名な作家である。特に「ムーンライト・シャドウ」は心に残っている作品で、作品にはずっと朝方の静けさが漂っているように感じる。悲しみと同時に、現実を前向きに生きようとする主人公の強さや、希望が感じられる美しい作品だ。「ムーンライト・シャドウ」には交通事故で亡くなってしまった主人公の彼が生きていた楽しい時間についても描かれていて、日常の幸せな瞬間、楽しかった思い出についても描かれている。著者の作品は、誰もが経験をしているがつい忘れてしまうような幸せな瞬間を、文章によって思いださせてくれる。そんな小説・エッセイだからこそ、多くの人に読まれているのだと感じる。

別の著者の作品を挙げてしまうが、オードリーの若林正恭さんのエッセイ『ナナメの夕暮れ』に、「小さな幸せ」について書かれた忘れられない章がある。
日々が全く楽しくないと感じ、朝起きることも辛くなってしまったときに、若林さんはペンとノートを取り出して「自分がやっていて楽しいことをノートに書き込む」ことをした。それは「散歩」でも「スポーツ観戦」でも何でもよく、「花火」が好きなことに気づいたときは、自分でも驚いたそうだ。

自分の好きなことを知って自分を肯定し、他人の好きなことも肯定することで、他人の言動も肯定することができる。他人のことを肯定することは実は難しいことのように感じるが、自分の好きなこと・ものと同じように相手も好きなもの・ことがあると思えば、他人を尊重する心が生まれてくる気がする。
よしもとばななさんのエッセイに書かれていた「小さな幸せ」も、人によって異なるものであり、どんな些細なことでも幸せになりえるのではないか?と思う。だから立派な人間になろうとか、幸福論を論じたい訳ではなく、今まで通り自分が少しでも幸せだ!と思えることは手放さず、続けていきたいと思った。

『小さな幸せ46こ』では、各章でタイのイラストレーターである「タムくん」ことウィスット・ポン二ミットさんの可愛らしい挿絵がついている。
絵を見ているだけでも癒されるし、これも小さな幸せだなぁと感じる。
年始から頑張りすぎて疲れた方や、ちょっと息抜きをしたいときにお勧めのエッセイです。

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