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【続】ジャニー喜多川氏の性加害問題について

 私は以前、カウアン・オカモト氏によるジャニー喜多川氏の性加害問題告発に伴って意見として記事を書きました。

 この件について詳細な調査報告書が発表され、また社長が退任するという大きな動きもあったので、さらに意見を述べたいと思います。

 ※性被害経験があってフラッシュバックなどある方は、本記事の内容でご気分が悪くなるかもしれません。ご無理なさらず。

 この問題は、以下のような経過をたどっています。

2023年3月18日 
 BBCによるドキュメンタリー番組「JPop の捕食者 秘められたスキャンダル」が日本にて配信
2023年4月12日
 カウアン・オカモト氏が記者会見にて性加害を訴える
2023年5月14日
 藤島ジュリー景子氏が動画および書面にて謝罪し、今後の対応について説明
2023年8月29日
 外部専門家による再発防止特別チームが調査報告書を発表
2023年9月7日
 藤島ジュリー景子氏が中心となって会見。性加害を認め、謝罪代表取締役社長の退任を表明、東山紀之氏が後任となる旨を発表


調査報告書について

 「外部専門家による再発防止特別チーム」は弁護士の林 眞琴氏、精神科医の飛鳥井 望氏、臨床心理士の齋藤 梓氏によって構成されています。

 作成された報告書は非常によくまとまっていて、専門用語が少ないので一般人にも分かりやすいものでした。全71ページありますが、すぐに読むことができます。

外部専門家による再発防止特別チームによる調査報告書

 この報告書は非常に素晴らしいものです。社会正義や被害者の人権、今後の社会的な影響をも踏まえながら妥当性のある再発防止策を検討し、かつ被害者の苦しみや今後の人生に及ぼす影響、問題の原因を多角的にとらえて広く伝えるものであると感じました。

 報告書によれば、性加害は実際にあったものとして認定されました。

 P19 3 性加害 (1) ヒアリング結果に非常に生々しい性被害の実態が書かれていますが、ここでは割愛します。興味のある方は報告書を読んでいただければと思います。最悪の性加害が、長年にわたって、数百人もの少年たちに繰り返されたということが分かれば十分です。

ジャニー氏は、古くは 1950 年代に性加害を行 って以降、ジャニーズ事務所においては、1970 年代前半から 2010 年代半ば までの間、多数のジャニーズ Jr.に対し、上記のような性加害を長期間にわ たり繰り返していたことが認められる。

P21 3 性加害  (2) 性加害の概要

 また、これらの被害を受けても被害者本人が異常なことと判断できず、助けを求められなかった事実が見受けられます。

・ジャニーズ Jr.の中でジャニー氏から性加害を受けた方が優遇されるとい う話があった。他のジャニーズ Jr.に性加害のことを話そうとしたところ、 「おめでとう。」と言われた。
・「性加害を受け入れると仕事もくれるんだ。上り詰めていくには積極的に ジャニー氏を受け入れないといけないんだ。」という洗脳された状態にな った。
・他のジャニーズ Jr.たちも「性加害を受け入れるのが当たり前で通過儀礼 だ。」という話をしていた。「高校に入る頃になれば、性加害は止むから それまでの我慢だ。」という話もあった。歪んで狂った世界で、デビュー するにはこんな思いをしなければならないんだと思った。

P21 3 性加害 (2) 性加害の概要より抜粋

 よく「枕営業なんだから自己責任」のような論調の方がいらっしゃいますが、分別のある大人ならまだしも、子どもであって、絶大な権力者によって行為を強要されるような環境の中では、それが間違っているとか、性加害から自分を守るべきだという考えも抱くことができません。洗脳されるように受け入れざるをえなかった子どもたちに自業自得だということはできません。

 また、このような経験は行為を受けた瞬間に我慢すれば終わるような性質ではありません。ここで受けた傷は、一生続きます。

・度重なる幻聴やフラッシュバックで、自殺願望も抱くようになりました。フ ラッシュバックとしては、女性と性交をしている時もジャニー氏の性加害を 思い出して恐怖感を抱いたり、食事中にもそのような場面を思い出して吐き そうになったりしたこともありました。
・思い出して話すことによって、昔の事を思い出し過呼吸になります。
・社会に出て仕事を始めるようになってからも、同性不信があり、権力がある 人やジャニー氏と同年代の人を見ると恐怖を覚えました。社会生活に支障が あり、上司からの指示に恐怖心から身構えて、仕事が続けられませんでした。

P24 3 性加害 (3) 性加害の影響より抜粋

 性加害を行う人間は一瞬の快楽のために加害行為を行いますが、被害者にとっては一生の傷です。たとえ忘れたように思えても、人生のどこかに影を落とし、人生が暗い側面を見せた瞬間、待ちかねたように私たちを暗がりへ引きずり込みます。

 性加害、性的暴行はふつうの暴行とは明らかに性質が異なります。自分の意志を完全に無視され、本来自分のものであった体の権利を奪われる経験は根深い人間不信となり、社会生活にも影響を及ぼします。

 こうした経験がない方にはピンとこないかもしれませんが、例えば、特にトラウマのない人が人に対するとき、「この人はどんな人だろう」「仲良くなれるかなあ」というポジティブな感情で向かうところ、こうした加害のトラウマがある人は、無意識に「相手は自分を傷つけてくるもの」という前提で接することになります。ですから、人に心を開こうなどと思えませんし、交流自体を潜在的に危険な状況と認識するので、人間に対して常に強い緊張をはらんで接することになります。

 それは無意識的な反応なので、気合や気の持ちようでどうにかなるものではありません。人間は命や尊厳が脅かされるような恐怖にさらされると、身を守るために同じような状況をとにかく避けようとしますが、それは命に係わること(だと脳が認識している)ので非常に強い反応として表に出ます。

 彼らはこれに一生涯苦しめられるでしょう。

 実際に、被害を受けた元少年たちはPTSDを発症し、うつ症状、うつ病などの不安障害を患うことになった方もいるそうです。

 こうした被害者の生の声を聞くと、非常に胸が痛むとともに、ジャニー喜多川は紛れもない化け物だと改めて唾棄したい気分にかられるのです。

 この男は、商業的な成功やショービジネスの才能では到底帳消しにならないほど深刻な犯罪を行い、多くの人の人生に重い苦しみを科しました。心理的、肉体的に抵抗が難しい子どもたちの心身に対する一方的な蹂躙を長年にわたって趣味のように継続してきました。

 彼自身が性依存症だった可能性は高く、止める人もいないような環境が犯罪を助長した節があって、ある意味では同情すべき点があるのかもしれません。人間を考えるときに、完全に悪である人物も完全に正義である人物もいないという前提を忘れてはなりません。

 しかし彼に同情する役割は誰か他の人に譲ることとします。

 まさに人倫に悖る化け物と称するにふさわしいとここでは述べます。

ジャニーズ事務所のスタッフ

 ジャニーズ事務所の経営陣がおおむね「そのような事実は知らなかった」と言っていることはすでに周知の事実ですが、その他の関係者からも、性加害について「知っていた」という証言は得られなかったそうです。

 しかし、報告書内には以下のような記述があります。

「性加害を受けた後、ジャニーズ事務所に電話をかけて女性スタッフに『ジャニー氏が布団に入ってきて色々触られたが、どうすればいいですか。』と聞いたところ、 『デビューしたければ我慢するしかない。』と言われた。
その後、事務所の スタッフと電話で話した際、『あんなことされるんだったら行けない。』と 言ったが、そのスタッフは『(ジャニー氏は)しょうがない人だから、来て ほしい。』『我慢すればいい夢が見られる。みんな通っていく道だ。』など と言っており、そういう世界なんだなと思った。」
と述べる者がおり、その 供述は具体的で信用できるものと考えられる。また、「マネージャーは、ジ ャニー氏の家に行って泊まったジャニーズ Jr.がジャニー氏と一緒にリハー サル室に入ってくるのをマネージャーも見ているので、性加害のことは分か っていたはずである。」「マネージャーに性加害に遭ったことを伝えると『自 分の口からは何も言えないが、他のジャニーズ Jr.からも似たような話は聞 いている。』と言われた。」と述べる者もあった。

P28-29 3 性加害 (4) 性加害に関する認識
エ ジャニーズ事務所のその他の関係者の認識より抜粋

 つまり、結局のところ、ジャニーズ事務所のスタッフは知った上で容認してきた上に、今をもって「知らない」としらばっくれている立派な精神の持ち主なのでしょう。当時のことを知るスタッフが一人もいないということは考えづらいのに、このようなヒアリング結果なのですから、同社の体制・体質がどのようなものか推して知るべしというところです。

再発防止策について

 報告書内では、以下の提言がなされています。

・被害者の救済措置制度
・人権方針の策定と実施
・研修の充実
 ・人権尊重に関する研修
 ・性加害の問題に関する研修
 ・ハラスメントに関する研修
・ジャニーズ事務所のタレント(ジャニーズ Jr.を含む)への研修
・ガバナンスの強化
 ・ジュリー氏の代表取締役社長辞任と同族経営の弊害の防止
 ・取締役会の活性化
 ・社外取締役の活用
 ・内部監査室の設置
 ・基本的な社内規程の整備
 ・内部通報制度の活性化
 ・相談先の拡充とアドボケイトの配置
 ・CCO の設置
 ・メディアとのエンゲージメント(対話)
 ・再発防止策の実現度のモニタリングとその公表

第5 再発防止策 より章タイトルのみ抜粋

 ざっと読みましたが、主に体制の変革やコンプライアンス意識を高める方向に重きを置きつつ、被害者救済制度について一番に提言している点でおおむね同意できます。

 「メディアとのエンゲージメント(対話)」項目については、本来、問題に気付いていたメディアがジャニーズに対し圧力をかけて是正を求めていくべきところ、そうならず一方的なジャニーズ事務所の横暴を許していた現実について相互監視的に働きかけていくのが望ましいとしています。これはジャニーズ事務所への提言ですが、本来メディアも被害者救済に責任をもって乗り出すべきでしょうし、うっすらその思いが読み取れるような気もしました。

 この被害者救済について、「被害にあっていない人まで手を挙げるのではないか」という懸念の声がありました。

 しかし、被害者救済を第一優先とする観点から、認定のハードルを高くして「被害にあった人が補償されない」よりも、「被害にあっていない人が補償の対象となってしまう」方が良いと考えます。

 一方でリソースには限りがあるということも理解はしますが、ひとまず試してみないとどの程度申告があるかは不明瞭です。性質上、忘れていたいという人も多いでしょうから、実際の申告者はさほど多くならないのではないでしょうか。

「ジャニーズ」という名前が残ることについて

 9月7日に行われた会見の中で、ヒトラーの名前がついた会社を後世に残すのか? という指摘がありました。「ヒトラーだなんて、大げさ」と思った方もいたかもしれませんが、個人的には決して大げさではないと思います。

 深刻な児童虐待、性加害を行った人間の名前を華々しく冠した会社は非常に不名誉です。言ってしまえば「レイパー事務所」とついているのとそんなに変わりません。変えたほうが良いと思います。

企業がジャニーズタレントの起用を控えることについて

 今更、契約を打ち切ったりされているようですが、正直、なんなんだろうと思います。

 CMやスポンサーとしてジャニーズ事務所と関わってきた企業は、この問題について知らなかったのでしょうか? 知っていたくせに、ジャニーズ事務所に事実確認をせず、是正を求めず、唯々諾々と子どもたちの犠牲で流れた甘い汁を吸ってきたのではないですか?

 にも拘わらず、今更自分たちは「関係ないんです」と臭いものにフタをするようにタレントの起用を控えだすとは、素晴らしい倫理観をお持ちです。

 私は前の記事で、企業はジャニーズ事務所に是正を求めて、「是正されるまでタレントを起用しません」と言ってはどうかと書きました。

 記事を書いた4月頃の段階でジャニーズ事務所にそのように圧力をかけた企業は英断ですが、事務所が問題を認めて謝罪したタイミングで打ち切るのでは、あまりにも遅きに失しています。

 もう事務所が認め、つたないながら再発防止策も発表したのに、今更「申し入れ」とはどういうことでしょうか。

 報告書の中で、遠回しにメディアの責任を問う文言がありましたが、それはスポンサー企業やCM起用してきた企業も同じです。もっと早く「性加害を是とするような事務所のタレントは使えません」とはねつけたり、事実確認をきちんとするよう圧力をかければよかったのに、利益さえ見込めるならと、多少臭っても使い続けてきたのは自分たちじゃないですか

 少なくとも知りながら見過ごしてきた企業は、一緒に被害者への補償を行う責任があるんじゃないでしょうか。今更安直に契約を止めるなど不利益を避けるだけの対外的なパフォーマンスをやる前に、被害者のための基金を作ったり、援助を手伝うなど、やるべきことがあるんじゃないでしょうか。

 それをやりつつジャニーズ事務所に是正を求めるならわかりますが、ただ「関係ありません」とこのタイミングでは、目先の利益を追求した無責任な損切行為と捉えられても致し方ないでしょう。

 いずれにせよ、我関せずで切り捨てるのではなく、関係企業も当事者意識を持ってあたることを期待していました。今更タレントの起用を打ち切るような企業は、結局、倫理、人権意識の薄い企業で、ジャニーズ事務所と同じ穴の貉であると感じます。

 「起用を続ける」とした企業にも思うところはありますが、安直にも切り捨てることを選んだ企業に対して、はっきりと失望しました

 これについては、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」が取引停止はしないでほしいという旨の声明を発表しています。

一方で「取引停止は取引関係を解消するにとどまり、生じている人権侵害それ自体を解消するものではなく、ステークホルダーによる監視の目が届きにくくなる」と指摘。「当面、事務所との取引を直ちに停止することを希望するものではない」とし、具体的な期限や要求事項を事務所に提示した上で、それを履行しなければ取引停止をするという対応を求めた

https://www.asahi.com/articles/ASR9G5Q3QR9GUTIL01Y.html
朝日新聞デジタル
「ジャニーズ当事者の会が要請書 企業に「直ちに取引停止は希望せず」」より引用

 この意見については最もであると感じます。当事者会がそう述べるならその通りにしていくのが望ましいと考えます。

 一方で、営利企業である以上は、利益を最優先にして、どこを向けば被害が抑えられるかを判断していくことが正義であるという論調も理解します。しかしBtoCの企業であれば、大事なのはお題目でも見せかけでも、とにかく「きれいごと」です。今それが見える企業はありません。

大事なこと

 何よりも大事なことは、被害者の方々の救済と二度と被害が発生しないことです。報告書の中ではエンターテインメント業界におけるセクハラ・パワハラの起こりやすさも問題に挙げながら、ジャニーズ事務所が率先した模範となってコンプライアンス意識を高めていくことを求めています。

 「もうジャニー喜多川は亡くなったんだから、終わった事件でしょ」と短絡的な意見もあるようですが、なぜ、ジャニー喜多川一人しかおかしい人はいないと思われるのでしょうか。

 ペドフィリアの異常性欲者など、どこにでもいます。出会ったことがないなら、あなたはとても大切に守られてきたのです。

 「性加害が普通」で是正されなかったという前例ができてしまえば、そこに似たような毒虫のはびこる土壌は残り続けるということです。同じ人物が出てくることはありませんが、そのマインドを受け継いだ第二・第三のモンスターが出てくる可能性はあります。そうなった時に、彼らが生きられないような清い土にしておくことが大切なのです。

 ジャニーズ事務所が今後、企業として再起できるのか、没落の一途をたどるのかはわかりませんが、この問題において藤島ジュリー景子氏が問題に真摯に取り組もうとする姿勢は評価できます。報告書の最後には以下のような記載がありました。

なお、本特別チームによる調査の過程や本報告書の作成に当たっては、ジャニ ーズ事務所が調査の独立性と中立性を最大限尊重し、何らの干渉もすることなく、 関連資料の提出および事務所関係者へのヒアリング要請に迅速に対応されたこ とは、ジャニーズ事務所が過去の清算と「再出発」に真摯に臨もうとすることの 表れと評価したい。

P67 第6 結語

 この言葉が事実であることは、かなり事務所にとって不利な証言も、明白に報告書内に記載されていることから伝わります。

 そして、報告書を作るためのヒアリングは、被害者の方にとって傷をほじくり返すような出来事だったはずです。彼らの痛みや苦しみが癒され、報われるためにも、十分な金銭的、精神的補償がなされ、業界、ひいては性加害に鈍感な日本という国の体質改善につながっていくことを心から願います。

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