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わたしのうつ体験

 やや双極性障害気味で、2回ほどメンタル不調による休職歴がある。

 こちらの名越先生のyoutube動画を見ていて、いわゆるうつっぽい症状、抑うつ状態というものに対する個人的な体験を語ることが、誰かにとって役に立つのかもと思ったりもしたので、私のうつに関する体験を書いてみる。

 私のうつは、長い夜と共にやってくる。

 眠れなくなるのだ。

 若いころから8時間は眠らないとどうしようもない、欲を言えば10時間は眠っていたい人間である。20歳くらいの頃は毎日21時には就寝していたくらいだ。

 でも、仕事の負荷が高くなると、ある時、『眠りたくない』状態になる。眠ったら明日が来るからだ。明日が来たら、また仕事に行かないといけない。いつまでも『仕事をしていない』状態でありたい。自由でありたい。

 それでも仕事に差し障るから、電気を消して目を閉じる。でも、その途端、モヤモヤと仕事の心配や、嫌な気分、昔誰かに言われた嫌なことが浮かぶ。その不安で心臓がドキドキし始めて、いよいよ眠るどころではなくなる。私は、気を紛らわすために、その辺に転がっているぬいぐるみを抱きしめる。ふわふわした優しい感触に、ようやく少しだけ眠気を覚える。チュンチュン、鳥の鳴き声。朝日が少し差した頃、ようやく眠りが訪れる。

 朝、けたたましいアラームでうっすら目を開ける。体が重い。まだ眠っていたい。ふわふわした夢の感覚が、頭をぼんやりと包んでいる。この感覚に身を任せたら、どれだけ楽だろう。

 でも、今日出ないといけない会議がある。今日中に終わらせるタスクがある。新人の教育がある。私がいないと成り立たない。逃げ場はない。唸り声を上げながら、なんとか身を起こす。

 これじゃどうにもならないと、休みの日に精神科か心療内科を訪れる。
「眠れないんです」
 そう言うと、医師は睡眠導入剤を出してくれる。

 夜、睡眠導入剤を飲みながら眠りにつく。眠りたくないのに。涙が頬を伝う。明日なんて来なければいい。

 それから、だんだん食事が摂れなくなっていく。毎日二食くらい食べれていたものが、たとえば朝食のグラノーラを食べただけで、一日もうお腹がすかない。それどころかちょっと胃もたれする。そんな食事が続くと、もともと低血圧気味なので、体が震えて動けなくなる。それで無理やり塩を直接舐めて血圧だけは対処する。

 そのうち日中、胃痛や吐き気、めまいに襲われて仕事にならなくなる。これ以上進行すると、自分の身の回りの世話すらできなくなるとわかる。それだけは避けないといけない。家族のいない私は、自分の面倒を見れなくなったら、誰も頼る当てはない。

 だからこのあたりで、私は医師に診断書を求める。休職する。

 休んでしばらくは、家事もできるし、買い物にも行ける。何なら友達とも話せる。だけどピンと張っていたタコ糸が、たわんでグニャグニャになるように、そのうちベッドから起き上がれなくなる。起き上がることに価値を感じなくなる。寝ながらスマホを見て、ネット記事などを見るが、目が滑っていくばかりで本当に読めているわけじゃない。

 最後に、ネット記事も見れなくなる。横たわったまま、何もできない。息をしているだけ。果たして、こんな調子で生きている意味があるのだろうか。この状態の時、二度と元のようには戻れないと感じる。復職なんて到底できない。この年で、こんな状態で、未来が灰色に思える。

 そういう時は、なんというか、生きるのを止めてしまおうかという気分になる。意味がないからだ。でもそれが正しくないのも分かっている。だから、ただ息をすることに集中する。吸って、吐いて、ただ酸素を二酸化炭素に変換するだけの機械になったみたいに。

 たすけて。

 誰にともなく思う。実際には、助けを求めるだけの気力もない。話すことすら難しい。

 この状態がしばらく、永遠のように続き、それからだんだんと起き上がれるようになる。掃除などができる。食事の支度ができる。化粧ができる。外に出られる。

 回復してくると、今度は一転してやたらとアクティブになり、家の中をピカピカにしたり、楽器を弾いて遊んだりできるようになる。復職や転職に向けて意欲的になり、謎の万能感と自己肯定感に後押しされて、他人にも物怖じしなくなる。フツフツ湧き上がるドーパミンによる躁状態だ。この状態になると、空が晴れているだけで人生は素晴らしいと感じる。

 その謎の勢いのまま、また社会生活に復帰するのである。こんなことを数年おきに繰り返している。数年おきだから、そこそこの社会人経験を積んではいるが、できれば二度とうつ状態にはなりたくない。あの人間性を全て奪われるような、『無』の時間が怖い。

 今はできるだけ、兆候があったら、職場や環境を変えることにしている。環境を変えることで、それに適応するために、悲観的な考えを少しずつ遠ざけることができるからだ。

 だが職場や環境を変えるということは、今までより悪くなる可能性をはらんでいる。一度、パワハラ・セクハラにさらされ、我慢した結果、てきめんに抑うつ状態に陥ったことがあった。
 だから変わった先で、たとえ数日であっても様子がおかしい場合は、我慢せずすぐに転属を願い出ることにしている。

 何とか周りに迷惑を掛けず、やっていきたいが、今のところ周囲の優しさに支えられている。だから私は自分に特に利益もないのに優しくしてくれる人や、慮ってくれる人のことを尊敬していて、日々、彼らの健康で幸せな毎日を祈っている。

 以上が今まで体験してきた抑うつ症状との付き合い方である。

 書いていてあまり気持ちの良いものではなかったが、誰かにとって、「ああ、この状態は普通じゃないんだ、病院に行っていいんだ」と思うきっかけになると良いと思う。

 また、現在闘病中の方、うつ状態になりかけの方は、こんな私でもなんとか社会人として生きていけているということで、心強く思ってもらえたら嬉しい。


 もし他にも、こころの健康に関してご興味があれば、以下にまとめたので、参照いただけると嬉しい。

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