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みんなちがってみんないい


私が両手をひろげても、お空はちっとも飛べないが
飛べる小鳥は私のように、地面を速くは走れない。

私がからだをゆすっても、きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のようにたくさんな唄は知らないよ。

鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。

ー 金子みすゞ


初めてこの詩を知ったのは、小学生の時だろうか。

僕は意味があまり分からなかった。

空を飛べないことも、音が出ないことも、当たり前じゃーんなんて、趣のないことを考えてた。


中学生、他者との違いに気付き始める頃、僕はこの詩に再会した。

先輩だからこうしなければいけないとか
後輩だからこれをしてはいけないとか

男の子だからズボンを履くとか
女の子だからスカートを履くとか

学校では髪を染めちゃいけないとか
制服着用が義務とか

生まれた国が違うとか
育った国が違うとか

例を上げればきりがない、そういう見えないけどみんなが持っている世の中の ”当たり前と言う名の縛り” が大嫌いだった。

もちろんやや言いすぎな例ではあるし、最近では若い世代の発信があって、区別や差別に対しての認識も変わってきた。

でも当時尖っていた僕は、世の中に対してファイティングポーズを取っていた。

そんな僕の心にその詩は、ありのままでいいと言うようにスッと入ってきた。


ある年の夏休み前、何を思い立ったか英語弁論大会への出場を志願した。

今思えば最初の動機は、過去にやっていた先輩がかっこよかったとか、壇上に立ちたいとか、目立ちたかっただけだと思う。

暗唱の部と創作の部があり、僕は難しそうでみんなが選ばないからという理由で敢えて創作の部にした。


まずは日本語の原稿を作る。言いたいことを言葉にする。

若干13~5歳の子が言いたかったこと、それこそがこの詩だった。

この詩を引用し、自分が思う「区別と差別」について書いた。

例えば制服。男子学生はズボン、女子学生はスカート。

これは区別なのか差別なのか。

最初は区別だったかもしれないが、差別と考える人もいるかもしれない。

そもそも、学校は制服を着なければいけないのか。

文献を読み漁ったとかではないし、今思い返すと感情論だった。(子供だったから許してほしい)


日本語の原稿ができたら、先生たちと英語にしていく。

英語の原稿ができたら覚える。

本番では原稿を見て話すことはできず、暗唱しなければいけない。

自分の思いを言葉にしているから身振り手振りのアクションも大事。

とにかくずっと原稿を持ち歩いてブツブツ言っていた。

とくにトイレは練習にぴったりで、ドアの内側に原稿を貼って長居して怒られたことも。

夏休み返上で練習に練習を重ねた。

暇さえあれば家族をお客さんに、何度も発表した。

直前のリハーサルも完璧。


そして僕は本番を迎えた。

1位になれば県大会に出場できる。

でもそんなことよりも、自分の心の中を大勢の前で、大きな声で発することが初めてで、緊張と少しの高揚感があった


各学校の生徒たちが順番に堂々と発表していく。

心臓の音が聞こえる。

僕の番が来た。

全4段落構成。

最初の掴みはバッチリ。練習通りだ。

審査員もいい顔をしているように見える。


あれ?

次は3段落目か?4段落目か?

トイレに貼った原稿を頭の中で必死に追う。

僕の原稿の3段落目と4段落目は同じ「This is」から始まっていた。


3段落目もう言った?まだ言ってない?

原稿は飛んでないのに、話していたら気持ちよくなってすっかり自分の位置が分からなくなった。

でも止まるわけにはいかない。

瞬時の判断。

同じ段落を読むくらいなら、と4段落目の結論に入った。


話していて分かった。

会場にいる人達が、手元に配られている原稿と僕の顔を交互に見る。

飛ばした。でも戻れなかった。


壇上を降りると家族や友達、指導してくれた先生たちがいる。

期待に応えられなかったと思った。

その瞬間に涙が止まらなかった。

僕の初めての挫折だ。


全ての発表が終わり審査に入る。

結果発表。

もちろん僕は期待していない。

自分の力を100%出し切れていないだけでなく、評価するための材料が足りていないからだ。

どんどん名前が呼ばれていく。

「創作の部、第4位・・・・」

僕の名前だ。呼ばれた。


帰りがけに聞いた話。

あの段落を飛ばしていなかったら、君が1位だった。

悔しいという感情が湧き出て止まらなかったのはこの時が初めてで戸惑った。

1位になりたかったわけじゃない。

もっと大きな舞台で自分の考えを話せたはずなのにと思ってしまった。


この話は聞く人によって様々な受け取り方がある。

もっと努力していれば、とも
どんなに努力しても叶わない夢がある、とも聞こえる。

でも大人になってようやく辿り着いた。

だからあの時の僕にこう声をかけてあげたい。


Everyone is different, everyone is special

みんなちがって、みんないい



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