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思いのままにあるがまま



言葉にするのが好きだった。

形にならない想いが報われるような気がしたから。

でも気付いたら言葉にすることを避けていた。

本当の自分を誰にも見せないように、
自分自身にさえも隠していたかったのかもしれない。





「なぜ決めつけるのだろうか」

僕は人に心を許すのが苦手だ。

人を信頼するのが怖い。

最初から浅い関係を選べば深く傷つくこともない。

人は裏切る。

最後はきっと一人になる。

コミュニケーション能力は高い方だと思う。

人見知りもしない方だ。

でも心を開けた人はいない。

きっちり、しっかり、鍵がかかっている。

幼い頃はその鍵を握っていた。

誰かが貸してと言えば貸せたかもしれない。

でも今ではどうだろう。

僕自身でさえもその鍵の在処を知らない。

見つけたところで錆びているだろう。

友達という存在がいない訳でない。

楽しい時間を過ごしたいと思える人はいる。

でも自分が苦しい時誰かに頼りたいとは思わない

これまでずっと一人でどんな悩みも乗り越えてきた。

そうか。

今まで誰かに頼ったことなかったんだ。

そんな自信が僕をこうも頑なにさせるのか。

ーなぜ決めつけるのだろうかー





「会いたいのだろうか」

父とさようならをして3年が経つ。

こんな風に書くとお空に行ってしまったようだけど
そうではなくて。

きっとどこかで生きている。

でも僕はどこにいるか、何をしているか知らない。

父はとても優しくてかっこよくて、
少し変わっていて難しいことをたくさん知っていて、
気難しくて、人付き合いが苦手な人だった。

そして、僕の憧れの人だった。

父と母が別れることを選択した時、
僕もそれでいいと思った。

大きな背中は小さくて、
自信があったはずの目は弱々しくなっていた。

あの夜、そんな父を見ながら、
僕はひどいことを言って、ひどいことをした。

父はそんな僕を一度も見ず、何も言わなかった。

あの夜のことをいまだに夢にみる。

後悔していないと言えば嘘になるが、
あの時はああすることでしか自分を保てなかった。

だから仕方なかった、
そう言い訳して自分を納得させる朝。

テレビで父親の話をする芸能人、
SNSで父親の誕生日や両親の結婚記念日を祝う友人、
街で見かける家族。

3年前まで何も考えずに見ていてものたちが
全て輝いて見える。

こんなにも羨ましいと思える。

もう無理だ、辞めたい、でも言えない、
大学受験の時に極限まで追い込まれた僕。

辞めていい、逃げていい、
でも後悔するなら最後までやれ、
そう言って隣に座ってくれた父。

この言葉がなければ、
きっと僕は大学生にも社会人にもなれていない。

もしかしたら父は
僕の心の鍵を持っていたのかもしれない。

ー父に、会いたいのだろうかー





「それができたら幸せなことだろう」

感じたことや思ったことを
逐一言葉にしていた時があった。

最近ではそれができなくなった。

やらなくなったのではなく、できなくなった。

弱い自分を認めることになりそうで。

なぜか思い立って断捨離をした。

幾度の大掃除を勝ち抜いてきた
洋服や靴、僕を形成してきた本やコレクションたち。

手放したら見えるものがあった。

僕には僕がいるということ。

僕を認めるのも、
厳しくするのも、甘やかすのも、
気にかけるのも、
上がるのも、落ちるのも、
きっかけのスタート地点は僕だということ。

僕にとって言葉にすることは
自分の鎧を一枚ずつ脱いで裸になることだった。

思いのままを言葉にする。

僕の鎧が一枚ずつ落ちていく音がする。

あるがままの僕になる。

そして裸になった僕を愛する。

ーそれができたら幸せなことだろうー


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