便利なツールに使われる?
商談に来る営業担当が同じ顔に見える
先日、知人と話していて少し面白い話を聞きました。
「うちに商談に来る営業担当が、みんな、同じ顔に見えるんだ」
どういうことかと聞いてみると、商談でされる質問の内容が「判で押したように」同じだというのです。
たまたま、数件ほど、初回の商談が続いたそうなのですが、次のような項目を「一問一答形式」で聞かれたそうです。
・設立年月日
・従業員数
・直近の売上高/経常利益
・問い合わせ(あるツール導入の検討だったそうです)の理由
・いつまでに導入したいか
・予算
・担当者は?決算権者は?
正直に言えば前段の質問項目は「調べてこいよ」と思ったそうですが、「ああ、BANTをシンプルに聞いてくるのか」と感じて、ため息を吐いたそうです。
その人は独立するまでは、とあるメーカーで凄腕の営業担当としてならした人です。
※BANT(Budget=製品・サービスの導入予算 Authority:稟議承認の決裁権 Needs:顧客ニーズ・必要性 Timeframe:導入時期の営業活動に必須の4つのヒアリング要素)
「BANTなんて、ストレートに聞くんじゃなく、初回はそのへんを探りながら、相手の状況を把握していくものなんだけどなぁ。俺が古いのかなぁ」
とおっしゃっていました。
私はこの話を聞いて、まず「きっと、SFAの入力項目を埋めるのに必死だったんだろうなぁ」と感じてしまいました。
営業先を訪問する目的は? 商談?質問?
ここからは勝手な想像ですが、その営業担当の方は、顧客を訪問するとSFAに規定の項目を入力しなければならない。抜けがあると上司から怒られます。なので、必須項目を必死に質問します。そしてそれが埋まると、安心して、初回訪問を終えるのです。
少なくとも、帰社しても怒られません。確かにBANTは聞けています。でも、です。私の知り合いは、そういった訪問を受けてため息を吐きました。なんだかなぁ、と。
問い合わせした理由として、ニーズのようなものは質問されたけれど、まだ表面的なことしか話していない、あれでちゃんと提案してくれるのかなぁと不安がっていました。
その後の話を伺っていないのですが、どうでしょう? あんまり期待できそうもないと思いませんか?
いえ、もしかしたら、ものすごい提案が出てくるかもしれませんが、なんだか、その営業担当は、「こちらの顔を見ていない」ような気もします。
通り一遍の質問の奥にある「ニーズ」、表面化していない潜在的な課題を掘り起こして提案しようという意識が薄いように思えます。
ここで気になるのは、「その訪問の目的は何だったのか?」です。
SFAツールの項目を埋めることだったのでしょうか?
違うはずです。それは「商談」のはず。
「談」とは、女所によれば「あることについて話をすること」とあります。商談とはビジネスについて、話をすることであり、質問タイムではないはずなのです。
一般的にSFAツールのツールのメリットは以下の3つが語られています。
1. 「営業活動を見える化できること」
2. 「営業活動を標準化できること」
3. 「営業活動を効率化できること」
確かに、顧客とのやり取り、顧客情報をSFA上で管理していれば、営業活動の見える化は果たせます。その結果、効率化もできるでしょう。でも2つ目の「標準化」は?
どの会社にも「エース」と呼ばれる営業担当がいるものです。ところが、経営的に見ると、それも良しあしで、そのエースが退職したら、突然営業成績が下落するリスクがあります。なので、「その素晴らしい営業スキルをほかの営業担当に教える」という取り組みが行われるのですが、これがなかなかうまくいかないのです。
営業の能力と教える能力は別物
エースは自分のスキルを言語化できない
なんてことが、ままあるのです。それをSFAの活用ことで、共有し、標準化できるというのですが…
少なくとも「項目を埋めることが目的化している状態」では、期待できそうもありません。
当たり前のことだけれど、「ツールに使われない」
冒頭の知人ですが、こんな話もしていました。
「上司と若手の二人で来るんだけれど、若手が少し間違えると、過剰に上司がわびてくるんだよ。若手を軽くしかりながら、“申し訳ありませんっ”って。それが結構な割合であって。これ、最初から仕組んであるコントなのかなと思っちゃった」
まさかわざと失敗しているとは思わないですが(いや、あり得るかも…)、そういう関係性を見せたり、(おそらく主担当になる若手営業担当の)キャラ付けを行っているのかもと取れてしまいます。
どこかの営業セミナーでそういうことを教えてるんですかね?とその知人は苦笑いしていました。
もしもそういうマニュアルがあるなら、初回訪問で使いのは違うんじゃないかと思います。もっと有効なタイミングがあるんじゃないでしょうか。
そういう営業マニュアルも、SFAも、もっといえば、MAツールだったり、ECサイトの運用ツールだったり、経理や生産、勤怠管理だったり、いま、企業の業務で「マニュアル」や「ツール」と無縁の業務はないかもしれません。
それらのツールやマニュアルは、とても精巧に作られています。SFAツールだって、エンジニアだけではなく、営業の専門家たちが何人も知恵を絞って作っています。そして、リリース後もさまざまな要望に応え、新たな既往を追加し、基本的にはどんどん洗練されていきます。
うまく使えばとても便利なものばかりなのです。
ここでいう「うまく」というのは、ITリテラシーだったり、PCやスマホなどを使いこなそうという話ではありません。
そのツールの本質を知ることです。
「とりあえず、お客さまのところを訪問して、この項目を聞いておいで」
そういって、若い営業担当を顧客訪問させても、最初に紹介したようなエピソードになるだけです。中堅と若手のバディで訪問させるときはこうしましょうというマニュアルがあっても、ただそのとおりにしたらコントです。
「どうして、その項目を聞かなければならないのか」
「どうしてキャラ付けが必要なのか」
「MAの運用で、この確認事項が必須なのはなぜか」
全てに理由があります。
そこを考え始めて初めて「うまく活用できる」ことになるのだと思います。
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