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先生がぼくの言うことを聞いてくれない!

それでも学校は子どもの居場所であって欲しい    

教室には今発達障害と思える特性を持つ子供が多くいます。特性が表に出て目立つ子供は真っ先に問題視され比較的支援に繋がりやすいように思えますが、通常学級だと親がどう受け止めるかに左右されます。それに比べて、静かで問題ないように装っている子供たちは実は多いのですが、彼らに対しては残念ながら支援という支援が形成されていないので、行き場がないのが現状です。

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今回は、ADHD傾向が目立つTくんのお話をします。

その日の朝も先生が一日のスケジュールを皆に話しているとTくんが真っ先に割って入りました。先生は厳しく睨みながら人差し指を口元に当て「今は黙って聞きます」と言って続けようしました。

けれど、Tくんは興奮して「なんで? なんでダメなの? 先生はぼくの言うこと聞いてくれない! 先生がぼくの言うこと聞いてくれないなら、ぼくも先生の言うことは聞かないからね」と言って騒ぎ出しました。

飴と鞭の手綱さばきが上手な先生でしたが、先生はTくんのこの勘違いした生意気な発言に怒って反応してしまいました。

このクラスにはTくんのような生徒が他に数名いたのですが、2学期後半になって自分なりに頑張っても叱られてしまう為、自暴自棄になり始めていました。厳しくする先生にTくん達は徒党を組むようになり、一緒に教室を飛び出したり、戻らされても床に転がって席につかなかったり、騒いだり、物に当たったり、1年生で学級崩壊のようになっていました。

流石に先生も手に負えなくなり管理職や親に訴え、私には「あの子には話しかけないで下さい。いい気になりますから」と言うので、私は支援しづらくなったことを特別支援の先生に相談していました。

3学期に入ってもしばらく事態は変わらずでしたので、特別支援の先生と担任と私達支援員とで話し合う機会を作ってもらいましたが、担任の先生は、子供の事情には理解を示してくれたものの、『古いかもしれないけれど、やはり2年生を前にやらなければいけないことには厳しくしなければいけないと思う』と言って指導の仕方は大きく変えては貰えませんでした。

結局、先生が厳しく怒れば怒るほど、Tくんはダメな子になっていき、最近は頭が痛いと言って学校も休むようになってしまいました。他の子供たちはあまり目立たなくなったものの、先生が激しく怒ることで言うことを聞いているだけのようになってしまいました。


先生の話を黙って聞けない理由

Tくんが話を最後まで聞いていられないのは、恐らく短期記憶やワーキングメモリ、認知機能などの弱さから、思ったことをすぐ言わないと忘れてしまうなどが考えられますし、ADHDタイプは頭の中が常に忙しく次から次へと聞きたい話したい衝動が沸き起こり、コントロールするのが難しいので、そこをなんとかしようと怒ってもどうしようもないのでした。本人もどうしていいか分からず困っているのですから、本来なら助けてあげなければいけないのですが、そこを分かってもらえないのです。

しかも発達障害あるあるですが、Tくんの家では、Tくんが学校でこんな状態になったことで、元々酷いことを言う父親がTくんに手を上げるようになり、それを止めようとする母親が父親と対立。自分のことを巡って目の前で繰り広げられる両親の喧嘩。けれど、その母親も言うことを聞かないTくんの扱いには困っていて体調を崩しているということでした。そういう家庭環境ですから、Tくんが最近頭が痛いと訴え、授業に集中できないのも無理はないのです。暴れて手に負えないところばかりが目立つので、SOSと捉えて貰えないのが歯痒いところです。


共感を持って聞いてもらえること

最近他にもいろいろなことがあり担任の先生も疲れ果てたようであまり言わなくなり、私は授業の妨げにならない範囲でTくんの横について相手をすることが出来るようになりました。

すると最近は「小さい声でね」と言って小さい声で話すと、真似して小さい声で話したり、この間は「椎野先生の言うことなら聞いてもいい」と言って、教室から逃げ出した時も「教室に戻るよー! 約束したじゃーん、お願ーい!」と言うと渋々戻って来てくれたりしたのでした。信頼してもらえるようになり、私も嬉しくなりました。ちょっと前まで力尽くで教室に戻されては大騒ぎしていましたから、大進歩です。

Tくんのサポートをしていて、もう一つ良いことがありました。私が彼にかけていた共感的声かけを周りの子供たちがよく聞いていたことでした。お陰で、私が直接声をかけていない子供からも好意的な反応をもらえるようになったのです。感動しました。気持ちを聞いて貰えたり、小さな努力を応援して貰えたりすることは、誰にとっても大事なことだと改めて思いました。


大切なこと

特性のある子供に言うことを聞いてもらいたい時は、まずは仲良くなって信頼関係を深めるのが一番といろいろな本で読みました。けれど、うまく実践できるようになったのはつい最近のような気がします。

信頼関係があることが前提なので、どんなに正論であろうと頭ごなしに厳しく叱ることは逆効果になると分かりました。子供が「何をしたか、何を言ったか」よりも「どう思っているか、どう感じているか」という気持ちに焦点を当てて共感的に接するのが何より大事なのだと思います。

どんなに生意気で、許せないようなことを言ってきたとしても反応してはいけない。いままでの私はこれが出来ませんでした。上記の担任の先生と同じで、いい事は誉め、いけないことは絶対に許してはいけないと強く厳しく反応してしまっていたのです。

表面的な問題に囚われてはいけないのに、まんまと罠にはまっていたのですから、うまくいくはずがありませんでした。初めは時間はかかるし忍耐が必要なので大変でしたが、文字通り黙って堪え忍ぶと、新たな気づきができたり新たな道が開けたりします。

黙らせたい子供が黙った時に、すかさず「黙ることができたね」と誉めて反応。
それまではひたすら耐える。なぜやってはいけないのか伝えたいことを言う時は、本人が落ち着いた時に短く言うと子供には入りやすいというのは本当です。

これを繰り返すと、こちらも不思議とポジティブな声がけが増え、自然と気持ちも楽になりますから、子供に関わるのが辛い時は関わり方が間違っているのかもしれないと疑った方がよさそうです。

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