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アメリカで人気の未解決事件を解決するTrue Crime番組の闇を描いたページターナーなスリラー

2003年10月。Luke Ryderは裕福な妻と3人の継子を残し、ロンドンの自宅の庭先で遺体となり発見されました。目撃者は1人も見つからず、迷宮入り。未解決事件として葬り去られようとしていた事件が今、20年の時を経てその真実が明らかになろうとしています。しかも、カメラの前で!

犯罪ドキュメンタリー番組「Infamous 」のプロデューサーNick Vincent は、元メトロポリタン警察の刑事、フリージャーナリスト、臨床心理学者、弁護士、元ニューヨーク市警などの専門家で構成されたグループを作り、番組内で事件の証拠の再捜査を始めるのですが、そもそも事件当時の捜査は適切に行われていたのだろうか?という疑惑にグループ全員が悩まされ始め、事件の真相は更に迷宮入りするのですが…

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本作は現在進行形で(特にアメリカで)流行している「True Crime Podcast」(実在する未解決事件をミステリー番組のように連続で放送するポッドキャスト)のようなライティングスタイルが特徴で、ついにスリラー小説にまでTrue Crime系が…!と興味深く思い、書店で見つけるや直ぐさま購入しました。

次から次へと新たな証拠が出てくるページターナーな1冊で、事件関係者だけでなく再捜査している専門家グループのメンバー全員を過去の事件と現在ひた隠しにしている秘密に巻き込んでいく著者のライティング能力がとにかく素晴らしく、450ページあるにも関わらず多数の読者が一晩で読み切ってしまうのも納得の1冊でした。

話の筋とは別にこの著者が「素晴らしいな」と思ったのは、Turn Crime系のポッドキャストは真犯人の発見に繋がるという見方もある反面、殺人をエンタメとして扱い消費することへの嫌悪感を描いているところです。
人々はsnsを通して殺人をエンタメとして楽しみ、まるで被害者家族にさえ殺人の落ち度があったかのように好き勝手に書きまくる。

私がもしも大切な家族を失い被害者家族になり、事件が未解決のまま警察予算の都合で捜査が打ち切られ、人々の記憶からも忘れ去られようとしていたら、どう思うだろう。知りたくない知られたくない家族の過去を公共の電波に乗せて晒せる勇気を果たして持つことができるのだろうか?と。

True Crime Podcast はファミリーメンバーの命だけでなく尊厳も破壊する、その哀しさを考えるとただただ嘆息するばかりで、著者はそんな読者の気持ちを汲んだ結末を用意したような気がした本書は、フィクションとして大変素晴らしかったです。

ところで、著者Cara Hunterは本国イギリスではすでにかなり有名な作家のようで、若干28歳の若さにして彼女の本はイギリスだけで100万冊以上のセールスを記録、27カ国に翻訳されているそう。
本作は彼女の最新作なのですが、社会問題をページターナーなスリラーに落とし込める桐野夏生のように、日本でもブレイクしそうな著者で、次作もとても楽しみです。


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