ナイジェリア生まれの新進作家が描く新ジャンルスリラー
次は何を読もうかな、と本屋をウロウロしていると「今年のベストブック」という棚を見つけました。
昨年から長くベストセラーに入っている本や、書店員の今年一押し本、新刊書をごちゃ混ぜにしたタイプの棚で、日本ではあまり見かけないタイプの棚だなぁ、と興味深く思いじっくり見ていると「My Sister The Serial Killer」「妹は連続殺人犯」というスリラー小説が目に止まりました。
本のタイトルは勿論、表紙のデザインにアピールするものがあり、アフリカンバティックを思わせる大胆な配色にインパクトを感じました。裏表紙を見るとナイジェリアのオインカーン・ブレイズウェイトという新人作家が書いたデビュー作だと分かり、ブラーブ(裏表紙に書いてある本の宣伝文)を読み「おもしろそう」と購入。
Korede はラゴスの病院で看護婦をしている、どこにでもいるような普通の女性です。従順で、地味で、孤独。特に好きでもない仕事をし、同じような毎日を繰り返し、周囲からは早く結婚して子供を産め、と圧力をかけられています。一方で妹Alooyaは、子供の頃から皆に好かれ、天真爛漫。容姿が美しく、ファッションデザイナーをしていてします。そして、物語は彼女が3人目のボーイフレンドを殺害したところから始まります。
「普通の女性がタンポンを持ち歩くように、Alooyaはナイフを持ち歩いていた」
Alooyaは気まぐれにボーイフレンドを殺しては、その後始末をする為に、大好きな姉を呼び出し死体を捨て証拠隠滅を手伝わせていました。Koredeは良心が痛み苦しみながらも、妹を見捨てることができません。Koredeは妹の完全犯罪のイネーブラー(成功要因)であると同時に、共犯者になってしまい、妹の殺人の趣味は止められない…と考えるようになります。
しかしkoredeが長年好きだったハンサムで優しいドクターTadeが妹Alooyaに恋に落ちたことから、姉妹の関係はより複雑になっていきます。
「彼女が綺麗だからこうなるのよ。綺麗ってことが全て。男ってそれ以外は気にしない。Alooyaは人生のパスを手に入れてるのよ」
と、Korede は妹に対して嫉妬に似た複雑な感情を持ち始めます。TadeがAlooya のボーイフレンドになったら、Alooya はまた殺してしまうかもしれない…果たしてKoredeはどうすのか!?
恵まれた容姿で何人もの男性から花や手紙、旅行をオファーされる優遇された人生を送る妹Alooyaと、普通に結婚して普通の人生を送ることを目標に生きる姉Korede 。Korede が妹にどんな恨み感情を持っていたにしろ、姉妹には深い結び付がありました。姉妹は、母親が見て見ぬフリをする女好きの父親からの虐待に耐えながら一緒に成長しました。ここで読者は、Alooyaの殺人衝動は父親の暴力と不倫という家族への裏切が生み出したんだ、と気が付きます。Alooyaがいつも持ち歩いていたナイフは父親がいつも持ち歩いていたナイフでした。
この物語は、時間軸が行ったり来たりするのですが、章を必要以上に細かく分けて書いているので、プロット自体の複雑さを全く感じさせない独特な書き方をしています。物語が進むにつれて、各章がツイストし最後の最後に「驚きの大展開」が。読者は、実はKorede はAlooya と同じくらい冷酷な人間に成りかねなかったことを知ります。
ナイジェリアの伝統的な「父親が絶対的権力を持つ」家庭内という閉鎖された空間で起こる悲劇は、実は「女だからこうしろ」「女だから黙っていろ」という世界中どこでも起こり得る女性差別問題と地続きになっていて、だからこそこの小説が多くの読者の心に訴えかける内容なのだと思います。
「1日で読める短い小説だが、その後何日も考えさせられる」シカゴ・トリビューン(シカゴの新聞社)
今、この瞬間に自分1人で解決できない「女性差別問題」にどう向き合うべきなのか、時代が要請する「変化」や「多様性」の意義が小説を通して見つかります。ナイジェリア生まれ、イギリス育ちの著書だからこそ描けた、この小説が持つ底力の大きさを感じる1冊でした。
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