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行き過ぎた資本主義・集団主義への警告を描く新感覚エコ・スリラー

ここ2-3年、洋書でよく見かけるようになったジャンル「Eco-thriller 」。中でも昨年特に話題になっていた「Birnam Wood」を読みました。

ところで、「Eco-thriller」とは一体どんなジャンルを定義しているのか気になり調べてみたところ「世界の終わりか、世界の見方が変わるような出来事が起きる小説。多くの場合、欲深い大企業が敵対者となる」ジャンルだそう。

主人公Miraはガーデニンググループ「Birnam Wood」のリーダーで、自分たちが食べる農作物を自分たちで育て、過剰分を必要とする人たちに無料で配る活動をしています。他人の耕作放棄地や他人の土地を無許可で使用している彼女たちの活動は、法に触れているだけでなく資金的にも順風満帆とはいえず、Miraは何年もそのことに頭を悩ましていました。

そんな時、ニュージーランドの南の島で起きた地滑りにより、莫大な土地が街から完全に孤立した状態で残ります。この機会を逃すまい、とMiraはその土地を独占すべく移動するのですが、この土地に興味を持ったのはMiraたちだけではありませんでした。

アメリカのドローン産業で成功したビリオネア、Robert Lemoine 。彼は、気候変動や第三次世界大戦などが原因で起きるとされる「地球最後の日」をサバイブするための巨大貯蔵庫の建設場所を探し求め、Miraたちと同じ土地に目星を付けていました。

資金源が常に底をつきそうなMiraたちのグループに、ビリオネアLemoine は”活動支援費”として莫大な資金をオファーするのですが…

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本作は3章に分かれているのですが、

•1章目 長い。何も起きないのに、とにかく長い。
•2章目 面白い。怒涛の面白さがあるページターナー。
•3章目 面白さ大失速するものの、現実味が大加速。

という感じでした。

では本書の何がそんなに良かったかというと、登場人物1人1人がとても良く描かれていて、それぞれのキャラクターに人間味があるところ。

「資本主義」の仕組みから抜け出そうと『Birnam Wood』を作ったMiraはグループのリーダーでいたい、という「集団主義」者と化し、仲間の信用を裏切ってしまいます。一方で、ビリオネア•Lemoineは「資本主義」のトップに君臨しながらも、常に金銭を目的とした誘拐や殺害から身を守るため徹底した「個人主義」を貫きます。

一見、相反するような2人ですが、ある事件がきっかけで「この2人って結局は自分のことしか考えてないんじゃなかろうか」という行動を共にする3章目に何とも言えない人間味を感じました。

「資本主義」に賛成するか否かは別として、結局、地球全体の資源には限りがあるにも関わらず、個々の思想は「だから、農作物を育てて地球を守る!」「もう地球はダメになるしかない。だから巨大シェルターを作るんだ!」など、別の次元で拡大し続けている。だから結果として人類間での争いは激化する。そのことに警鐘を鳴らすようなラスト数ページが特に圧巻でした!

Mira、Lemoine 以外にも魅力的なキャラクターが大勢いる本書。どのキャラクターに視点を置いて読むかで、感想が全く異なりそうで、そういう意味でも大変素晴らしい1冊でした。






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