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「Joker」 主演のホアキン・フェニックスが伝えたかったこととは

昨年の大大大ヒット作「Joker」。いよいよ来週に迫ったアカデミー賞を前に、今、再び世界的に注目されていて様々な記事を目にします。「Joker」を観ていると、アメリカ社会の階級問題や、孤独が生み出す精神的な病が人にもらたす影響などは、日本でも共通するものが多いように感じました。ただ映像として面白いだけでなく鑑賞して感じさせられることがとても興味深く、10キロ以上減量して主演を務めたホアキン・フェニックスの魂を感じた素晴らしい作品でした。

「Joker」の公開直前、本国アメリカでは銃乱射事件が多発していて、「Joker」を観た精神的にアンバランスな人達が暴力にコミットするんじゃないか…という不安から公開反対の声がありました。フィルムメーカーは公開に踏み切り、興行的には大成功。公開から僅か3日間で興行収入93ミリオンドル、10月公開映画の記録を更新しました。

ところがこの作品、アメリカやイギリスでは少し違う見方をされています。ことの発端はニューヨークタイムズの「ジョーカーの現実的な危険は、はっきり見えるように隠されている」という記事で、「ジョーカーが白人じゃなかったら、このストーリーは成立しない」という内容でした。

この映画のコアは、どこにも属せない「1匹狼」という精神的な病だ、とタイムズの記事は書いていて、問題は「多数の白人男性は、社会の中に自分達の居場所があるという妄想があり、その居場所が否定された場合は残酷な結果になる」という白人特権を意図せずに示してしまったことだ、と。

1981年ニューヨーク。ある黒人男性がジョーカーと同じ精神的な病に苦しんでいましたが、彼はホームレスになり結果的に社会から見えない存在になりました。彼はジョーカーと違い、社会格差問題を駆り立てる存在として取り上げられることはありませんでした。黒人男性がジョーカーと同じ精神的コンディションになった場合、多くの人は社会のサイドに追いやられ、ストリートで生活するか刑務所暮らしになっている「現実的な危険」にタイムズの記者は注目し、「ジョーカーが白人であることが、このプロットの鍵だ」と結論付けていました。

私にはこの着眼点は全くなかったので、とても興味深く記事を読んだのですが、社会的弱者と強者という表面的な問題だけでなく、そこに存在する人種差別という「現実的な危険」に目を向けるようにさせるのは、さすがタイムズ。

ここ数年ハリウッドでは、白人俳優だけが映画の役を貰える「ホワイトウォッシング」が問題になっています。例えば原作がアジア人であったとしても、白人に役を置き換えてしまうのでアジア系の俳優には役が回ってきません。人種的マイノリティな俳優は活躍する場がなく、その才能を認めてもらう機会すら与えてもらえず、その結果アカデミー賞や、英国アカデミー賞(通称BAFTA)にノミネートされるのは白人ばかりになっています。

「Joker」は今月3日に行われたBAFTAに作品賞、主演男優賞、作曲賞などにノミネートされていて、最優秀主演男優賞をホアキン・フェニックスが受賞しました。意図せずに白人優位社会問題作になってしまった「Joker」に、意図的に白人優位社会を作りだしているハリウッドの白人俳優ホアキンが受賞スピーチで何を話すのか?注目されていたスピーチは、こんな言葉で始まります。

I feel very honored and privileged to be here tonight .But I have to say that I also feel conflicted ,because so many of my fellow actors that are deserving don’t have the same privilege.

今夜、ここに居られることをとても光栄に思っています。しかし葛藤も感じているいることを、いわなければなりません。この賞に値する本当に多くの俳優仲間が、同じ名誉を受けることができないからです。

I think that people just want to be acknowledged and appreciated and respected for their work.

俳優達は皆、ただ自分たちの演技が認められ、正しく評価されて敬意を払われたいと思っているとおもいます。

This is no a self-righteous condemnation, because I’m ashamed to say that I’m part of the problem.I have not done everything in my power to ensure that the sets I work on are inclusive.

これは自分が正しいという、偽善的な考え方で批判しているわけではありますん。言葉にするのも恥ずかしいですが、私はその問題の一部だからです。今まで演じてきた現場全てを多様なものにするために、私は自分の力の全てを尽くした訳ではありません。

But I think that it more than just having sets that are multicultural.I think that we have to really do the hard work to truly understand systemic racism.

しかし、ただ現場に多様性をもたらせば良い、ということ以上の問題だと私は思っています。我々は(ハリウッドで行われている)組織的な人種差別問題を心底理解する為に、必死になってこの難題に取り組むべきだと思うのです。

I think that it is the obligation of the people that have created and perpetuate and benefit from the system of oppression to be the ones that dismantle it.It’s on us. Thank you.

これは我々全員の義務だと思います。この抑圧システムを創り、長続きさせ、そのシステムから利益を得た全ての人達がこのシステムを解体するのです。それは我々の手に懸かっています。ありがとうございました。

鳴り止まない拍手の中、ステージを去るホアキン・フェニックス。「売れる映画にする為には白人が必要」ハリウッドで名神のように信じられていた言葉は、ホキアンのような白人優位社会の住人達によって、その説得力を失うのかもしれない…。

これからの人種マイノリティ俳優の成功を願わずにはいらません。


注目のアカデミー賞まであと5日。ホアキン・フェニックスが何を話すのか楽しみです。


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