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本の棚 #113 『冷静と情熱のあいだ』

『冷静と情熱のあいだ』 
江國香織

昔の彼の影を忘れられないまま

パートナーと楽しく過ごす日々。

今の生活への不満は…とくにない。

そんな毎日を過ごす中で、

ある友人の訪問をきっかけに

過ぎ去ったはずの情熱を沸々と思い出す。

無理矢理抑えているわけではなく、

どこか自然と収まっていたはずの

冷静な自分が、崩れていく。

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ーー本が好きなくせに、アオイは本を買わないんだね。
ーー読みたいだけで、持ちたいわけじゃないもの。所有は最悪の束縛だもの。

今のパートナーとの結婚はそこまで

深く考えていない。

そのなかでのこの発言は

「私はあなたのものにはなりたくないの」

と言っているように聞こえてしまう。

束縛しようものならいつでもこの場を去る

そんな微妙な距離感をつくる。

好きであることと所有することには

イコールではないという意思表示。

これがあおいの冷静な面だろうか。

私はジュエリーが好きなのではなく、ジュエリーをつける女のひとの生活が好きなのかもしれない。

あおいの仕事観のようなものが垣間見える。

この考え方はとても素敵だ。

ジュエリーを買う人の生活

ジュエリーを贈られる人の生活

それらを想像できる人は

単に「私はジュエリーが好き」という人よりも

もう一歩先のことを考えて

良いサービスを提供できそうな気がする。

ジュエリーに限らず、小売の仕事をするなら

この価値観は貴重なものだ。

「人の居場所なんてね、誰かの胸の中にしかないのよ」

物理的な居場所…

家族だったり、友達だったり、会社だったり。

それらは本当に居場所といえるのか。

物理的にその場所にいたとしても

みんながみんなそこを「自分の居場所」と

認知しているわけではないだろう。

ということは、

そこにいる人たちの胸の中に居ること

本来的には自分の居場所なのかと、

この一言から気づくことができる。

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#推薦図書 #小説 #過去 #居場所

#所有 #江國香織

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