さんざんゆっとく【短編】
私の名は『おみゅりこ。』❗️
低気圧かゲームのしすぎかは知らんが、とにかく頭痛が続き、ロキソニン、EVEクイック、新ビオフェルミンエ・ス♫ など色々と試したが、どうにも治らぬ。
「大作家おみゅりこ。先生、スケジュールの調整をしておきました。少し休まれてはどうですか?」
『ああ、うむ。キミも羽目を外しなさい』
外気でも浴び、珈琲のひとつでも嗜もうかと外套の襟を立て重い腰をあげた。
『あ、すみません。カフェラテの……え、エルで。ああアイスで……あ、ないです(ポイントカード)』
コンビニの外の移ろう青空の下(文学的表現)、喫煙所でコトを成していると背後から声がした。
「こっこ便利じゃの〜。いつできたんか知らんけど、ええ場所にできたわぁ」
最近だけで3回もおっさんに話しかけられている。私の持つ物腰の柔和さが生む現象だと推察するが。しかも昼間っからビール片手にいいご身分だ。
『ああ、いい、いい場所ですよねぇ〜』
「アンタえらい顔色悪いが。どっしたんね」
『ええ、少しこん詰めすぎましてね(ゲーム)』
「頭でも痛いんね?」
『そんなトコですかねぇ』
おっさんはいい方法がある。丁度今気分が良いから頭痛をなおしてやろうと提案をしてきた。どうにも疑わしいが、ゲームの続きをしたいから縋った。
『あ、じゃあ――
🍺ブーーッッ‼️
おっさんは口に含んだビールを私の顔に吹きかけてきた――という認識をしたのは奥のベンチで手を叩きながら爆笑する外国人を横目に入れてからだ。
『えっ、どういう……なんですか、おい』
狼狽を繰り返す私の肩に、おっさんは静かに手を置いた。
「ようなったじゃろ? ええ?」
信じられないが、確かにそうだった。話を聞くと、かつて彼が若い頃、関西に住む仙人に伝授してもらった東洋の古い技術らしい。私は興味を抱き、正確な住所を聞いて帰宅した。
「おかえり。今日は肉じゃが作るけんね」
『……いや、ちょっと今日、今から大阪の西成区に行ってくるわ』
「はぁ⁉️ どういうコト――」
伴侶の制止を振り切り、顔、ミゾオチ、足の甲それぞれに激烈な肘打ちを浴びせ完封した。飼い犬をベビーゲートの鉄柵の間に押し込め、ガスコンロの火を消し出発した。
――久々の大阪だ。懐かしい気持ちが込み上げる。
件の仙人を目指し汚い商店街を進む。
片方しかない10円のサンダル、60円の自動販売機、乱立するスナック、謎の演歌、明らかに偽物のロレックス、8個200円のたこ焼き……様々な情報が飛び込んできて、否が応にも期待が高まる。
古びた旅館のような建物がそこにはあった。
『里見カイロプティラィック』と、幾星霜を重ねたような木製看板に、掠れるように書いてあった。
『す、すみません。ここ、やってますかね?』
石油ストーブを囲って、汚い2人のおっさんが野球中継を見ている。明らかに店という雰囲気でなく、みるみると所在のない感覚が胃にもたげた。
彼らは気怠そうに、それでいて真剣な眼差しをこちらに向けた。
「その顔……悩みがあるんやろ」
『あ、はい』
「ゆうてみぃ」
『実は私、有名な作家として活動しておりまして。それ自体は順調なのですが、毎日のようにプレッシャーと頭痛に苛まれておりまして……』
「そうか……そうか……」
「…………」
2人は首を落とし、わなわなと震えていた。
『……あ、あの。どうかなさい――
ブーーッッ笑‼️✖︎2
唖然とする私をよそに、おっさん2人は悪戯好きの少年のように笑いながら店から走り去った。
【元ネタ】
寒山拾得 森鴎外
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