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サウザンクロスの真下で ⑤ 〜 沼のスリーウェイズモンキーズ 〜

シドニーのキングスクロスにて、そろそろ2週間が過ぎようとしていた。

そんなある日、僕は二段ベットの上で目が覚めた。もう既に昼は過ぎており、3時をまわろうとしている。

明け方まで一緒に飲んでいた、イタリア人の青年は斜め下のベットで、横になっていた。虚ろな目をして、天井をただ見つめていて、彼の何とも言えない、その表情を覗いた僕は、ゾッとして背筋が凍る思いがした。

俺もあと何週間かすれば、彼のような顔をするようになってしまうのか。

「ここを早く出よう!」

そう思いたったのだが、荷物を纏めるほどの気は起こらず、いつものカフェで、フィッシュ&チップスを食べる。

そして自転車でボンダイビーチまで行き、夕日と海を眺めていた。


これが日課であった。観光なんてものは最初の頃に全て行き尽くした。なんせ2週間である。イタリアの青年なんか2ヶ月も、そのバックパッカーズに滞在していた。

日が暮れて部屋に戻った。既に何人かが、安物のワインで宴を始めている。

「TAKU,お前も一杯どうだ」

と誘われたが、冷えたビールを買っていたので断る。さっきまでここを出ようと決めた心が、

" スリーウェイズモンキーズ "

というナイトクラブに行きたくてウズウズしていた。

夜10時頃、宿から歩いて20分ほどのクラブに、大勢のパーティーピープルが集まる。タウンホール近くにあるそのクラブは、人が溢れんばかり賑やかで、それが朝まで続くのだ。

鼓膜が破れるような、大音量のトランスミュージックが、永遠と鳴り響き、ある者はビリヤードに興じて、またある者は踊り狂う。

拙い英語の僕は、この大音量の中で、女の子を口説くのに必死であった。英語と阿波弁が入り混じる僕の想いが、音楽と酒で混ざり合って、朝方になると消えていた。

何に熱狂しているのか、分からないが、とにかく朝まで飲んで、沈むようにベッドに転がり込むという日々を送った。まるで底なしの沼にハマったかのように。


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