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作家はメンタルが9割(2) 信念の重要性

想像力の善用

 講師をしていると、「モチベーションが続かない」というお悩みをよく聞きます。モチベーションていうのは、要するに「やる気」ってやつですよね。ちなみに商業作家の僕からすると「書けない=死(喰っていけない)」ので、絶対口にできない言葉です。よって僕はモチベーションが続かない人の気持がわからなかった。
 安心してください。ちゃんとモチベーションが続く方法をお伝えしていきます。単刀直入に述べましょう。サブタイトルにある通り、モチベーションが続かないのは「信念」が足りないからです。

人の信念が熟達の内容を決定づける

心理学者キャロル・ドゥエック
想像力の分量の豊富なときに書いたものは期せずして人の心を動かす力がある――ゲーテ

 この図は、あなたの想像力を示したものです。想像力を100%使って作品づくりに向かい合っていれば、それは他人の心を動かす名作になっている可能性が高い。これはかのゲーテが語っていることです。
 ところが、多くの人が想像力を善用していません。「書けなかったらどうしよう?」「お腹空いたなあ」「あれは大丈夫かな?」「きっとダメだ……」ネガティブなことに想像力を働かせ、脳は疲れ切っています。生産性のないことに浪費している。想像力を20%、いや、それ以下しか使えていなかったりするわけです。だから、集中できない。その状態を、「モチベーションが続かない」と言っていることが多い。

ムダな思考グセをなくす

 では、どうやったら想像力を100%使ってクリエイティブに向き合えるのでしょう? そこで必要になってくるのが信念です。信念があれば、ムラなく集中できるはずです。信念がないから、生産性のないネガティブな事柄に頭を巡らせて、想像力の分量を減らしてしまっているのです。
 たったいま、ネガティブな事柄は生産性がない、と述べました。だってそうでしょう? 死ぬかもしれない心配をして何十年も暮らしていたら、そりゃ、心身を病んで早死してしまいますよ? いつか死ぬんですから、今生きていることを喜びませんか? 起こってもいないことに思いを巡らせるのはエネルギーのムダ、非生産的なことで、クリエーターは真っ先に排除すべき思考グセです。
 とはいえ、人間は弱音や愚痴を吐いてしまう生き物です。ゴルゴ松本さんの「命の授業」をご存知でしょうか? 「吐く」という字は「口」に「+」「ー」と書く。でも、マイナスな言動を減らしていくと……? 「叶う」という漢字になる。すばらしい教えですね。ネガティブな思考をせずクリエイティブに集中できれば、傑作が生まれる可能性が高いというわけです。
 つまり、モチベーションがない人は信念がない可能性が高く、ネガティブな思考グセがあるということです。クリエーターのみなさんは、今日からすぐにネガティブ思考を捨てましょう!
 くれぐれも、僕はみなさんに陽キャになれと述べているのではありません。想像力の善用をしませんか、とお伝えしているのです。

お金がもらえればモチベは上がる?

 モチベーションを上げる方法として良さげな報酬について述べておきましょう。世の中の多くの人が信じているけど、真実ではないものがこの、「やれば報酬がもらえる」「やらないと罰がある」です。想像してください。走り回る子どもに「怪我をするぞ」と脅しても、走るのをやめることはありません。宿題をやらない子どもに「おやつをあげるから」と言ってもやりません。なぜでしょうか?
 報酬は、遊びを決まり切った退屈なものにしてしまうからです。ハーバード・ビジネススクールのテレサ・アマビルの研究によれば、「外的な報酬と罰はクリエイティブにマイナスに作用する」と述べています。
 アニメ業界的な話をすると、アニメーターさんに画を書いて欲しかったら、お金で依頼しても興味をもってもらえません。それ以外の営業(お金で仕事しませんか)を腐る程受けているからです。アニメーターは、やる理由を判断基準にしていることが多いと思います。報酬は右脳的なクリエイティブにとって有害、という研究データもあるそうです。
 つまり、報酬と罰ではモチベーションは続かないということになります。では、どうしたらモチベーションが維持できるのか? それはモチベーション3.0、内発的動機というものが必要になってきます。

 内発的動機というのは、字のごとく、湧き上がるやる気です。モチベ1.0が「やらないと死ぬ」なら、モチベ2.0が「報酬と罰(アメとムチ)」です。
 この内発的動機こそ、信念です。行動の原動力となる、「have to」から「want to」へと変える魔法の言葉です。

信念とは「継続せる組織ある連想」

 ここで、信念について掘り下げていきましょう。正直、「信念」と聞いて、「なんだ、根性論かよ」と思った方もいらっしゃることでしょう。信念というのは、「こんな風になったらな〜」というような、ほわんほわんとした曖昧でとらえどころのない思いとは違うのです。

 ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』では、成功者500名を20年の歳月をかけ調査した結果導き出された共通点が書かれています。この本では「信念は願望実現の原動力」であると書かれています。そして、その信念を明確にするために、電話帳ぐらい分厚いページに渡って記述される項目を具体化(言語化)していきます。
 大谷翔平選手も若き日に愛読したという哲人・中村天風という人がいます。東郷平八郎や松下幸之助も師事した人です。天風の『盛大な人生』でも、気を散らさず、はっきりした気持ちでことに打ち込む信念の重要性が述べられています。

抽象的に考えるからいけない。継続せる組織ある連想なんだ

中村天風『盛大な人生』

 継続せる組織ある連想。すばらしい言葉です。信念というのは、ある日ファ〜と湧いてくるものではない。想像力を善用して、心に想うことをはっきりと映像化するのだ、と天風は説きます。ここで、この図を見ていただきましょう。

能力や技術は、私生活の上に成り立っている

 昭和の時代というのは、芸人さんは私生活がめちゃめちゃでも芸が優れていれば評価されていました。現代社会では、私生活がめちゃくちゃな人は、たとえ大御所芸人さんでも表に出てくることはできなくなってきました。能力・技術が優れているだけでは立ち行かない時代です。
 のみならず、私生活で起こるさまざまな諸問題というのは、クリエイティブに影響を及ぼします。愛する家族が亡くなって平静でいられるはずがありません。ケンカをしたり、大声を上げて怒ったりして、気持ちを切り替え、クリエイティブに向き合うことができるでしょうか?
 つまり、こういうことです。私生活が乱れている人は、モチベーションが維持できなくなる。私生活が整っていると……? 想像力を100%クリエイティブに集中させることができるというわけです。
 さらに、なぜ私生活を整える必要があるかというと、継続せる組織ある連想だからです。信念を育て、モチベーションを維持するには? 心の炎を燃やし続けて生活しろということです。ご飯を食べるときも、寝るときも、道を歩いているときも、常に心を燃やして生活する。それが継続せる組織ある連想――信念となっていくということです。

臨場感のあるイメージとは?

 ここで補助線としてルー・タイスの『アフォメーション』という本を取り上げましょう。

 こちらはタイガー・ウッズを生み出したことで知られるコーチングプログラムの本です。ちなみにこの本でも「(目標の達成に必要な自己イメージをつくるために)皮肉や嫌味も相手を貶める言動もすべて取り除いてください」と書かれています。そして、自分が目標とすべきありうべき姿(ビジョン)を思い描くのには、臨場感のあるイメージが必要だと述べています。 
 さらに補助線として、坂口恭平さんの以下noteを紹介しましょう。『お金の学校』という連載です。この第3回で、「企画書を細かく徹底して書いてみることで、イメージ力が高まる」と述べています。

 どうしてモチベーションが維持できないのか? どうして信念という原動力が自分をクリエイティブに向き合わせてくれないのか? イメージ力です。臨場感がないのです。具体性がないのです。ただ漠然と思っているだけだからです。

ウサギは何を見ていた?

 ここでちょっと話題を転じ、「ウサギとカメ」の童話についてお話しましょう。TVアニメ『ウマ娘 プリティーダービー Season 2』でも言及されていましたが、なぜ足が速いウサギはカメに負けたのでしょうか?

カメはゴールを見ていた。では、ウサギは? 私の言いたいこと、わかりますね?

 トウカイテイオーというウマ娘を意識しすぎていたメジロマックイーンに助言するセリフです。ウサギはゴールではなく、カメを見ていた。だから「まだ本気出さなくていいや」と怠けてしまったのです。カメなどに想像力を使わずに、ゴールを目指していれば、余裕で勝っていたのです。

 いかがでしょうか? みなさんのなかには混乱してきたという人もいるかもしれません。第1回でも述べましたが、僕は商業作家の知識・技術をお伝えすると学生の方から必ずこう言われます。「よくわからなくなってきた」と。

学んでいよいよ苦しみ、極めていよいよ迷う

孔子

 上記は紀元前の思想家・孔子の言葉です。でも実は、重要なのはその後に続く言葉。「信無くば能わず」。つまり、信念がないと、知識が増えれば増えるほど煩悶が増えると述べているのです。

 迷わず、ゴールを意識する。そうすることで、想像力を100%使って傑作が生み出せる。でも、そこには信念が必要。では具体的に、臨場感を持って信念を持つためにはどうしたらいいのでしょうか?

どんな気持ち?

 こう考えてみましょう。ゴールを達成することで、どんな感情が芽生えるのでしょうか? うれしい? 誰かが喜んでくれる? あなたがそれを成し遂げることによって、世界がどんな風に変わるのでしょう? 頭の中で空想するのにお金はもちろん、税金もかかりません。そうして想像したあなたの感情を、ノートに書きましょう。言葉にしないといけません。
 想像上のことなのに、あなたの胸は感懐を結んだ。感情を動かしたということです。これが、臨場感の正体です。実際に起きていないのに、心が動いた。リアルに想像したから、自分の頭がそれを信じて、気持ちを動かしたのです。それが内発的動機です。信念です。

およそ思考にのぼらせることなら、すべて明確に思考できるはずだ。
言葉にできることなら、すべて、はっきりとした言葉にできるはずだ。

哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン

 なぜ僕がメンタルの話をしているのか? つまりこういうことです。モチベーションが維持できない人は、自分の信念を言語化できないのです。できないからはっきりと臨場感のあるイメージが湧かず、やる気が起きないのです。そして、自分の頭にある考えを言語化できる存在が、商業作家なのです。

 この連載は商業作家に必要なメンタルの考え方をみなさんに共有していきます。このnoteがみなさんの創作活動の一助になればと願います。そして、ぜひためになったな、と思ったらこのnoteをご購入くだされば幸いです。

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