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彼女の輪郭に沿って眠ることに関する説明書き

なんでも うったて は大切だと
店員の女の子がこぼすようにつぶやいた言葉を
わたしの聡いみみは聞き逃さなかった
では
今日にはどんなうったてが適切だろうか

こんなうったてはどうか
(もちろん、きにいらなくともすすんでゆく
いちどはじめてしまえば すすんでゆくのだ)

愛は彗星に似ているというのは
あながち間違いではなかろうが
正しいというわけでもない

比喩というものの性質上
それは仕方のないことだけれど

(比喩はロマンチストがすぎると
目次が言って)

背の高いたぶの木を共に見上げている
わたしたちはその瞬間を愛と呼んだりもする
ただし それは見上げていたときからは
ずっとあとのこと

水面に映る本の影と水の中のからだの
かさなって出来た図形を見ていた
じっと

日記と詩の違いのないわたし
ただ文字を書く

備忘録にもならない日記のフリッター
みょうちきりんな詩のソースを添えて

文房具や眼鏡のことを調べる時間のように
それを愛しまったのでした
やれやれいつのまにやら

意味のまにまに 徒然なるままに

わたしは思い出すだろう
書き連ねてきた そして書き重ねてゆくことばを
北イタリアからやってきたワインの芳香と後味を
木の芽時というひびきのふくよかさと
その時期の蕾のようなちいさなよろこびを

砂浜の騒々しい静けさ
雨の匂いがすると言ったときの
ああちょっとねという返事
裏返しに置いた一筆箋をさっと
飛ばないように置き直した指先

それらすべてをわたしは思い出すだろう

気に入りの眼鏡の軽やかなフレエム

繰り返しした夕食
食器の音
いいにおいの笑い声

指輪の曲線

しわくちゃのトートバッグ

夜更けのミントチョコレート

ありとあらゆるいとおしさ
わたしたちをとりまくすべてのそれを
わたしはあたたかなまなざしで思い出す

やわらかな草原 光に満ちて
風の声にただ微笑み
次の一行を考える
その時に


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