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マロン内藤のルーザー伝説(その9 五人の負け犬)

晴れてメジャーデビューを飾ることになった日経トレンディー誌の負け犬企画には、5人の「負け犬」が紹介されていたと記憶している。

トップバッターの「負け犬」は、ダイハツコペンという軽オープンカーを駆って、毎週末各地の酒蔵を訪ねることをなによりの趣味とされている地方在住の独身男性であった。物静かであるがとても誠実なお人柄、日々の暮らしを一生懸命送られている様子が伝わってくるのであるが、誌面からは拭いきれない侘しさ・もの悲しさが漂っているのである。

それに続く「負け犬」が私であった。大好きなバンド活動に熱中し、子供のころからの夢であった憧れのポルシェターボも手に入れた人生の成功者として紹介されているではないか。しかし、「何かが足りない、このままではいけない、早く気づかないと手遅れになる、いやもはや手遅れかもしれない」という行間を読み取らずにはいられないのである。英語で表現するならば、Read between the linesですね。

さて、最終校正段階で私はある箇所の削除を記者さんに懇願した。それは、30年の月日を経て漸く手に入れた憧れのター坊を駆って、夜な夜なスーパー銭湯に日参している下りであった。私はスーパー銭湯が大好きであり、自宅から車で30分以上も離れた場所にある、とあるスーパー銭湯に何かにとりつかれたように頻繁に通っていたのである。ドライサウナで徹底的に脱水した体を抹茶バニラミックスソフトクリームで癒やすのが何よりの楽しみであった。

ある日、いつものように畳敷きのリラックスルームでソフトをなめなめしながら備え付けの新聞を読んでいた私は自分の目を疑った。なんとルイヴィトンのバックを肩からかけた女子高生2人組がいるではないか。「いくらなんでもTPOってものがある」としたり顔でため息をついたのであるが、彼女らと私になんの違いがあろうか・・・とにもかくにも、ター坊スーパー銭湯参上のくだりはあまりに負け犬純度が高すぎ、筆者である自分まで打ちのめされた気持ちになってしまい、無理を承知で削除をお願いした。

そしてついにやや負け犬純度の薄められた記事を載せた最新号が日本全国で出版された。日経トレンディーを愛読している筈の職場の諸先輩・同僚から、「記事読んだよー!すごいじゃん」と言われることを期待した私であったが、何故か誰一人私に声をかける人はおらず、親族・友人からも無反応であった。

後年この出来事を忘れた頃に開かれた職場の同期会で、たまたまこの話が出たのであるが、実は全員その記事は読んでいて、どう声をかけて良いのかわからなかったから黙っていた、という真実が明らかにされたのである。この時、同期入社した彼らの本当の優しさに触れた気がして「やっぱり同期っていいよなぁ」と胸に熱いものがこみ上げるのを感じると同時に、ほろ苦い思い出が走馬灯のように脳裏によぎったことは言うまでもない。あの「五人の負け犬」たちは元気で暮らしているだろうか?・・・幸せな人生を送っていて欲しい。

続く・・






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