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マロン内藤のルーザー伝説(その15 予期せぬ展開)

幾多の試練を共に乗り越えてきたマロンと1976年製ポルシェ930ターボ(ター坊)であったが、その別れは出会い同様突然訪れた。それはポルシェセンターでの長期にわたるリフレッシュが完了し、晴れてター坊と水入らずのポルシェライフを満喫できると思っていた矢先の出来事であった。

ター坊が高速走行中空中分解したわけでもなく、失火により丸焼きになったわけでもない。ほかでもないマロンの側の事情によるものであった。なんとター坊のふるさと、ドイツへの転勤辞令が交付されたのである。

マロンは迷った。約30年前に来日して以来一度も故郷の土を踏まず、日本の四季による厳しい環境変化にも耐えてきたター坊が故郷への凱旋を果たす最初で最後のチャンスかもしれない。もしかしたら本国ならもっと本格的なリフレッシュが可能なのではないか?そして速度制限のないアウトバーンでアクセル全開、ドッカンターボの本領を発揮することができるのではないか?きっとター坊もそれを望んでいるはず・・・妄想が膨らみ続ける・・・

しかし、冷静に考えてみれば、クルマをドイツまで運ぶ手続きや費用を考えると、躊躇せざるを得ない。そもそもドイツには物見遊山で行くのではなく、仕事をしに行くのである。ター坊にかまっている余裕などないはずの激務が待ち構えているのだ。さらによく考えてみれば、本国ならもっと程度の良いター坊に出会えるかもしれない。そんな邪念が沸き起こるのを抑えることはできなかった。ごめんよター坊・・・

ということで真っ先に相談したのはポルシェセンターで長期にわたりター坊の面倒を見てくださったサービス部門の若きリーダーSさんであったことは言うまでもない。ター坊の状態を知り尽くしているだけでなく、マロンとの信頼関係も構築できているSさんであれば、きっと買い取りも好条件を提示してくれるに違いない、そんなマロンの甘い期待はすぐに打ち砕かれた。

「うちは新車専門店なので古いポルシェは扱えない」というのである。そこにはいつものにこやかなSさんではなく、ビジネスマンとしての冷徹な判断を下すプロフェッショナルなSさんがいた。しかし、打ちひしがれるマロンをみて気の毒になったのか、Sさんは次のような助言を与えてくれた。「ビンテージポルシェ専門店に相談するのがいいですよ」そして、親切にも候補となるお店のリストをコピーして渡してくれたのである。やはり信頼関係は築けていたんだ・・目頭が熱くなるのを隠し、Sさんにこれまでお世話になった謝意を伝え、その足で近くのビンテージポルシェ専門店に向かった。ター坊の本当の価値をわかってくれる人に会える・・萎みかけたマロンの期待は再び大きく膨らんだ。

いよいよクライマックへ・・




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