捉えられない鳥と、捕らえられない鳥。

「生まれ変わるならトリが良いな。」

彼はベランダに留まったスズメを見ながらそう呟くと、ちぎったロールパンにマーガリンを塗ってかじる。

「トリみたいに自由にどこにでも行けるって、良いと思わない?」

私は彼の言葉を聞くと、コーヒーカップを置いて口を開く。

「今と大差ないじゃない。今だって君は、自由に生きてるわ。」

私は彼の苦笑いを見たくて、少し意地悪に答えた。

彼はそうかもしれないなと、頭をかきながら屈託のない笑顔で答える。
その笑顔に、私はいつも騙されながら、こうして今日も一緒に朝食を摂っている。

「君は生まれ変わるなら何が良い?」

頬張ったパンをコーヒーで流し込むと、彼は子どものように目をキラキラさせて私に尋ねる。
私は少し天井を見つめて、消えていくコーヒーの湯気を見ながら考えた。

「ケイジになろうかな。悪いやつを捕まえて離さないんだ。」

彼は私の答えを聞くなり今度は、眉をひそめて弱々しい声で答える。

「悪いやつって、もしかして俺のこと?悪いとは思ってるんだよ、今だってさ。てか、何で職業の話になるの?」

彼の申し訳なさそうな顔を見て、私は彼を愛しく思えて小さく微笑む。
お互いが持っている少しばかりの罪悪感が、彼と私を結びつけている唯一のものと思うと、私は少し切ない気持ちになる。
けれど、それが無くなってしまったならば、きっと彼は私の前から消えてしまう。
無意識のうちに、彼に罪悪感を植え付けている自分を、自分で軽蔑すると同時に、そんな脆い絆を大切にしている自分がとても惨めになる。
そして彼の疑問に対して、私は自分にしか聞こえないように小さく呟いた。

「君がトリになりたいって言うからだよ。」

何?聞こえないよ、と彼はまた屈託のない笑顔で喋る。
私はそれなら良いの。とパンをちぎる。
ベランダのスズメはいつの間にか飛び立ってしまい、彼もこの部屋から出て行ってしまう。
私はそんな当たり前のことを考えると、小さく溜息を落とした。

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