Black Country, New Road / For the first time
Black Country、New Roadは、2018年にロンドンで結成された英国のロックバンドで、アイザック・ウッド(ボーカル、ギター)、テイラー・ハイド(ベース)、ルイス・エヴァンス(サックス)、ジョージア・エレリー(バイオリン)、マーク・カーシュー(キー)、チャーリー・ウェイン(ドラム)、ルーク・マーク(ギター)の7人編成。サックスやバイオリンプレイヤーがいるのが特徴的な編成。女性3名と男性4名の男女混合バンドでもあります。青春群像劇っぽい。
彼らのサウンドはエクスペリメンタルロックとして説明されており、スリントなどの90年代のアクトと比較されています。同じくUKロックの新世代で実験的なロックサウンドを追求するブラックミディと交友が深く、定期的に共演。2バンドをまとめて「ブラックミディ、ニューロード」と呼んでいます。本作はデビューアルバムで全英4位を獲得。それでは聞いてみます。
活動国:UK
ジャンル:エクスペリメンタルロック、ポストパンク、フリージャズ
活動年:2018-現在
リリース日:2021年2月15日
メンバー:
Isaac Wood – vocals, guitar (2018–present)
Tyler Hyde – bass guitar (2018–present)
Lewis Evans – saxophone (2018–present)
Georgia Ellery – violin (2018–present)
May Kershaw – keyboards (2018–present)
Charlie Wayne – drums (2018–present)
Luke Mark – guitar (2019–present)
総合評価 ★★★★☆
面白い、奇妙な引力がある。決して演奏がうまいわけではなく、楽曲もちょっとはったり気味に感じるところもあるのだけれど、全体としてもっと聞きたい、ライブを見てみたいと思わせる魅力がある。一つ一つの曲は編曲面では冗長さもあって緊迫感に欠けるパートもあるのだが、「こう来たか」的な面白さがあり目、いや、耳が離せない。不思議な魅力を持ったバンド。まさに「バンド」サウンドだ。こういう編成、アンサンブルだからこそできた煌めき。各人がアイデアを持ち寄り、織り上げた音像なのだろう。MVも独特な世界観があり、アートなセンスを感じる。ヴェルベット・アンダーグラウンド的な「聞くと楽器を始めたくなる」サウンド。
1.Instrumental 05:27 ★★★★
ドラムのビートとベースからスタート、パーカッションも入ってくる。トライバルなリズム。飛び跳ねるリズム。祝祭的なキーボードフレーズが入ってくる。北アフリカ音楽的。それを白人の大学生が大学のサークルで演奏するような。ギターが深い音色で入ってくる。リバーブが包み込むような音。ブラスセクションが入ってくる。いや、バイオリンとサックスか。バルカン半島のサウンド、ジプシー的なサウンドだな。スペイン南部とか。(北アフリカ側を含めた)地中海サウンド。これをUKのバンドが出すのが面白い。ちょっとトルコ的でもある。どれかの楽器が突出することはなくアンサンブルで聞かせる。一つ一つは反復する、そこまで難易度は高くないフレーズだが、全体として組み合わさったときに複雑な音像になっている。バルカンパンク、アナトリアパンクとでも言えそうなサウンド。
2.Athens, France 06:22 ★★★★
奇妙な切れ目で反復するリズム、ポストパンク的サウンド。途中からぶった切って反復するような。ねじれたポップ感覚、BlurとかXTCのひねたポップセンスを持つブリットポップ勢にも近い。楽器隊はやや鈍重さもある(技巧を感じさせる軽やかさは少ない)が、その分アンサンブルが重視されている。途中からメロウでジャジーなパートに、その上に語りのような歌が載る。タイトルの通りフランスっぽい。そこからハードロックなリフに。
3.Science Fair 06:20 ★★★★☆
遠くから近づいてくる、うごめくようなリズム。ただ、演奏にはどこかたどたどしさもある。ノイジーなギターが入ってくる。バイオリンが入る。自分たちの持っているものを自由に組み合わせている、演奏テクニックはまだまだこれからといった感じもするが、アイデアが豊富。自分たちの持ち味を組み合わせて活かすのがうまい。センスを感じる。ややSF、インダストリアル感もあるキーボードフレーズ。たどたどしさが親しみやすさにも通じる、学生演劇の熱量みたいなものも感じる。
4.Sunglasses 09:50 ★★★★
ひずんだギター、素描する印象画のようにノイジーなギターが空間に置かれていく。風が吹くようなノイズが別に入ってくる、いや、どこか宇宙的な響きか。太陽風のような(実際にはそんな音はないけれど、宇宙空間は真空だし)。ギターがクリーントーンのアルペジオに落ち着く。だんだんと熱量が上がっていく。この曲はUKプログ的だな、それもやや古めの。ヴァンダーグラーフジェネレイター(VDGG)的な盛り上がりを見せる。バンドが一丸となって盛り上がる、ハードロック的な音像に。サックスが鳴り響くので初期キングクリムゾン的でもある。(何度も言うが)演奏にはそこまで技巧性は感じない、けれど、別に下手というわけでもない。できる範囲、弾ける範囲でダイナミズムをうまく出している。ギターサウンドもどこか折り目正しいのが面白い。あまり極端なエフェクトがかかっていないというか、各楽器の音色が分解しやすい。けっこうシンプルな音色。少しのエフェクターでアンプに通しているような感じがする。ガレージ的。
5.Track X 04:44 ★★★★☆
ギターのアルペジオに語りのようなボーカル。インディーロックっぽい。バイオリンやフルートの反復するミニマルなフレーズが入ってくる。静謐な、UKジャズ的なバッキング。マイク・ウェストブルックのメトロポリスのような。いくつかの反復するフレーズがハイウェイのように伸び、街を作っていく。ただ、どこかレトロな音世界。
6.Opus 08:01 ★★★★★
少しだけゆがんだギターのコードカッティング、サックスとバイオリンが煙のようにゆっくりと立ち昇ってくる。そのフレーズをバンドが引継ぎ、小刻みな反復フレーズに。緊迫感が出てくる。ポストパンク的。そこにまたバルカン的なフルートの音が。エスニックなメロディが出てくる。このフレーズはどこかコミカルだな。そこからスカ的な勢いのいい音像に。スペシャルズとかそっち系のスカパンク。また最初のコードカッティング感に戻る。表情が泣き笑いみたいな、めまぐるしく変化する。楽器隊、バイオリンとフルートが熱狂的に吹きまくる。またそこから急に落ち着いた音像に。緩急が激しい。プログレ的だな、初期の、シドバレットがいたころのピンクフロイドとか。いや、ここまで緩急はないな。やはりVDGGか。奇妙でねじれているが、たどたどしさや初期衝動も感じられるミニマルさ、シンプルさがある。それが魅力なんだろうな。小難しくなりすぎず、どこか親しみやすさ、自分でも(演奏を)やってみたくなるエネルギーがある。内側に閉じていない。
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