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KISS@東京ドーム 2022/11/30

観てきました、KISS来日公演。おそらく最後の来日公演になるでしょう。「これが最後!」で何度か引っ張るのはプロレスやロックの世界では常套手段ですが、KISSの規模でツアーを回るのはステージセットの運搬などでチャーター便も必要になるし、世界を回るため1回のツアーが数年がかり。年齢を考えると、以前やったように「ラスヴェガスで定期公演」とかならあり得るかもしれませんが数年がかりのツアーに再び出られる可能性をはかなり低いと思います。1977年から13回にわたって行われたKISS来日ツアーも正真正銘の大千秋楽。

1977年からの全来日公演の歴史がバックプリントされたTシャツ

17時半開場、19時開演ということで17時に会場着。物販列を見ると予想通り長蛇の列です。

物販列
最後尾はドームから離れたところまで

どこまで列が続いているのかと思ったら東京ドームを離れたドームホテルの先まで。「開演まで2時間で間に合うか!?」と思ったものの列の流れが速いのでチャレンジ。

サクサク進み、1時間で物販までたどり着くことができました。東京ドームは物販スペースが広くていいですね。ガンズの埼玉アリーナは同じくらいの列の長さで2時間半並びましたが倍ぐらいの売り場数がありました。その分速い。ゆくゆくレアアイテム化しそうな「お猪口&徳利 地獄の晩酌セット」と諸々を無事に入手。

お猪口&徳利 地獄の晩酌セット

東京ドームは広いですね。考えてみたらドームでライブを観に来たのはいつ以来だろう。昔イーグルスの来日公演に来た記憶があります。調べたら2004年なので18年前。その時以来2回目かな。ドームでライブができるアーティストってかなり少ないですからね。特に僕が好きなHR/HMやワールドミュージック系だとなおさら。

KISS!

会場に入ると巨大なKISS像が鎮座しています。ステージ広い! テンションが上がりますね。6月にダウンロードで観たのと同じ像だと思いますが、東京ドームの方がステージが横に広いですね。

この日の来場者数は主催者発表で3万人とのこと。先日のガンズとほぼ同数。やはりこれだけ大規模なライブは壮観ですね。KISS ARMY(KISSファンのこと)がたくさん。Tシャツはもちろん顔にペインティングした方々もたくさんいらっしゃいました。

19時過ぎ、定刻を10分ほど過ぎてステージが始まります。楽屋から歩いてステージに向かうメンバーの姿がスクリーンに映り、そのままステージへ。最初からド派手なパイロ+火薬の演出で会場のテンションが上がります。

KISSのライブをフルセット見るのは今回が初めてです。6月にダウンロードで観たときは翌日のアイアンメイデンに向けて体力を温存するために冒頭4曲ぐらいで後ろ髪を引かれる思いで会場を後にしました。ただ、その時数曲だけみたライブのインパクトが凄く、そのあと来日公演で観れるとは幸運。あと、今回見て気が付いたんですが、今まで映像作品でもきちんとフルセット見たことがなかったですね。なので様々な仕掛けが新鮮でとても楽しめました。

ポールスタンレーの声が衰えた、とか言われていますが、ライブを観る限り衰えは感じませんでした。もちろん、本人たちの20代、30代のころに比べれば勢いは減っているのでしょうがそれを補う達人技というか存在感が強い。多少の声の細さ(音量の小ささ)は感じたものの、ライブが進むにつれてシャウトも多用したし、ハードロックの醍醐味が詰まった素晴らしいライブ。

総括すると「KISSというのは独自のジャンルを切り開いた偉大なバンドなんだなぁ」ということを実感しました。ほかにない特徴がたくさんある。

1.各メンバーのソロコーナーがある
これが結構インパクトが強くて、各メンバーそれぞれの見せ場があります。しかもそれぞれが結構長い。

まずはギターソロ。これも弾きまくる感じではなく、対話するような感じなんですよね。音を長く伸ばして会場とコミュニケーションをとる、都度都度爆発が上がる、みたいな。演劇的というか「キャラクター(登場人物)の紹介」パートにも感じました。

トニーセイヤー(リードギター)のギターソロの後、また別でポールとトニーのギターバトルみたいなコーナーもありました。こちらもいわゆる「ギターヒーロー的なギターバトル」ではなく、あくまで対話というか演劇的。エディヴァンヘイレンやイングウェイみたいなテクニックを魅せるわけでもなく、”ギターソロとして成り立つ曲”をやるわけでもなく、キャラクター性が強い。

ドラムソロも最初のうちは一般的なドラムソロでしたが、後半は観客をあおる演劇的な内容に。

そしてベースソロは曲というよりおどろおどろしいSEに加えて血を吐くというイベント。「悪魔」のキャラクターそのもの。

そしてポールスタンレーはソロではないですが単独の見せ場として空を飛びます。「スターマン」の名の通りの飛躍。

各メンバーのキャラクターがしっかり確立されていて、それぞれの見せ場がかなり長い尺で作られている、というのはKISSならではですね。各楽器のソロがあるライブは多々見てきましたが、こんなにキャラクター性が強いコーナーは初めて。

2.ものすごく「客席とのコミュニケーション」が重視されている
曲もほとんどがコールアンドレスポンスだし、「ハードロックのライブというものは楽しいものなんだ」というイメージそのものを作り上げたのはKISSというバンドの偉業なのかもしれません。エンターテイメントとして昇華した。そういえば、Download UKでメインステージに立ったBury Tommorw(若手のメタルコアバンド)が「お前たち(その日のヘッドライナーである)KISSは観るか? (ここでちょっとしたブーイングっぽい反応が起きる、KISSを聞くような観客層ではないからか? あるいはKISSファンが「KISSの悪口を言うなよ」的な威嚇をしたのか?) 待て待て、KISSは偉大なバンドだ。俺たちはKISSを聞いてバンドを始めたんだ。偉大な彼らに敬意を」みたいなMCをしていたのを思い出しました。僕は個人的にヘヴィメタルはUKの音楽だと思っているのでUKメタル中心にメタル史をとらえがちなのですが、KISSもヘヴィメタルのパイオニア、先駆者なのだと実感。ライブの説得力が半端ないです。 

空を飛んで移動し、観客席の中のステージで歌うポールスタンレー

3.USハードロック史を体現している
また、彼らは70年代から活躍するバンドなわけですがその間のロック史を一部たどるような感覚もありました。70年代的なハードロック、ある意味KISS(やエアロスミスやアリスクーパー)が確立した「アメリカンハードロック」のオリジネイターであり、ノリの良いロックンロールを基調としながらもところどころ70年代SSW(シンガーソングライター)的なバラードが入る。そして70年代後半のディスコブームを感じさせる曲、80年代のアリーナロック、そして90年代のグランジ・オルタナティブを通過したUSロックから00年代のより構成が複雑化した曲まで。70年代に確立したスタイルをベースとしながらも時代時代に合わせて変化してきた音像がさしはさまれます。

当日のセットリストを見てみましょう。

1.Detroit Rock City - Destroyer(1976)
2.Shout It Out Loud - Destroyer(1976)
3.Deuce - KISS(1974)
4.War Machine - Creatures Of The Night(1982)
5.Heaven's on Fire - Animalize(1984)
6.I Love It Loud - Creatures Of The Night(1982)
7.Say Yeah - Sonic Boom(2009)
8.Cold Gin - KISS(1974)
 (Guitar Solo)
9.Lick It Up - Lick It Up(1983)
10.Calling Dr. Love - Rock And Roll Over(1976)
11.Makin' Love(Tour debut) - Rock And Roll Over(1976)
12.Psycho Circus - Psycho Circus(1998)
 (Drum Solo)
13.100,000 Years(Partial) - KISS(1974)
     ~God of Thunder - Destroyer(1976)
14.Love Gun - Love Gun(1977)
15.I Was Made for Lovin' You - Dynasty(1979)
16.Black Diamond  - KISS(1974)

Encore:
17.Beth - Destroyer(1976)
18.Do You Love Me - Destroyer(1976)
19.Rock and Roll All Nite - Dressed To Kill(1975)

メドレーも含めると全20曲を演奏。70年代14曲、80年代4曲、90年代1曲、00年代1曲。こんな感じで70年代を主軸としながらそこに80年代、90年代、00年代の曲が少し入るという構成でした。Makin' Loveは何気にツアー初披露のレア曲だったらしい。日本で人気が高い曲だったのでしょうか。あるいは過去になにかエピソードがあったのかな。1977年の初来日公演でも演奏していたようなのでそれが理由かもしれません。

アルバム別にみると次の通り。
KISS(1974) 4曲
Dressed To Kill(1975) 1曲
Destroyer(1976) 5曲
Rock And Roll Over(1976) 2曲
Love Gun(1977) 1曲
Dynasty(1979) 1曲
Creatures Of The Night(1982) 2曲
Lick It Up(1983) 1曲
Animalize(1984) 1曲
Psycho Circus(1998) 1曲
Sonic Boom(2009) 1曲

こうしてみるとDestroyerが代表作として本人たちも考えていることが分かります。何度も再発されているし、リマスターも多く出ています。

あと、デビューアルバムからの曲が意外と多いですね。やはりライブでやり慣れている、原点に当たる曲なのでしょう。デビューアルバム自体は記念盤などで大々的なリイシューはされていませんが、「ライブバージョンこそ聞いてほしい」という思いがあるのかもしれません。曲というのは楽曲そのものの善し悪しはもちろんあるものの、録音状況も影響してきますからね。デビューアルバムの録音にはあまり納得していないとジーンシモンズやポールスタンレーがインタビューで言っていた記憶があります。

ちなみに1曲も演奏されなかったアルバムは次の通り。
Hotter Than Hell(1974)
Unmasked(1980)
Music From"The Elder"(1981)
Asylum(1985)
Crazy Night(1987)
Hot In The Shade(1989)
Revenge(1992)
Carnival Of Souls(1997)
Monster(2012)

80年代は冷遇されていますね。「エルダー」と「カーニバルオブソウルズ」はサントラとアウトトラック集という特殊な性質があるので納得としても、Crazy Nightあたりは大ヒットしたのですが。あと、Monsterはいいアルバムだと思います。現メンバーのトニーセイヤーとエリックシンガーが作曲面でも全面参加しているアルバムですね。どちらかといえば2人に対するボーナス(作曲クレジットを与える)的な色合いもあったのかもしれません。また、ジーンやポールよりは10歳ぐらい年下なので、KISSとして活動休止した後もソロ活動などは続けるのかも。そうなるとトニーセイヤーやエリックシンガーがソロプロジェクトで演奏したりすると「初披露」みたいな話題になるのかもしれません。

ただ、こうしてみるとやはり「70年代のKISSこそがKISSというバンドの本質」なのでしょう。本人たちが演奏していても、観客が見ていてもしっくりくる、求めているKISSということ。

なお、70年代のアルバムの中で唯一演奏されなかった2ndアルバムHotter Than Hell(1974)ですが、Tシャツの意匠には使われていました。

ツアーTシャツ
2ndアルバムカバー

これは「Hotter Than Hellも忘れてないぜ!」というバンドの意思表示だったのかもしれません。粋な計らい。

約2時間20分。「ハードロックの醍醐味」を体現したライブもついに終わり。最後はギタークラッシュ。これでもかとばかりに盛り上げます。

来日最終公演、最後にポールが伝えたメッセージは「Tokyo…We Love You!」でした。愛しているよと。KISSにとって日本市場は70年代から人気があった関係が深い場所。東京公演だけで26回目だとポールが言っていました。考えてみたら「Makin’ Love」を日本公演で初披露したのも日本への愛情を表してくれたのかもしれません。

終演後に映し出されたメッセージ

ありがとうKISS。ヘヴィメタルを築き上げた怪物たち。


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