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The Orange Peels / Celebrate the Moments of Your Life

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オレンジピールズは1990年代の世界的なインディーポップ、インディーロックブーム(いわゆるオルタナティブブーム)の頃にデビューしたUSのバンドで、本作が8作目。サイケデリア、オーケストラルポップ、プログレッシブロック、エレクトロニックミュージックを探求するために、これらのジャンルの境界を越えて自らのポップの領域を広げてきました。トッド・ラングレン、プリファブ・スプラウト、ザ・ポウジーズ、ビッグ・スター、イエス、R.E.M.など、さまざまなアーティストと比較されたサウンドです。本作はバンド史上初の2枚組。バンドキャンプのリリース文から一部抜粋します。

1時間以上の新しい音楽をフィーチャーしたこのアルバムは、2019年夏から2020年秋にかけて、サンタクルス山脈で録音され、昔のバンドの拠点だったミネアポリスの長年の協力者であるブライアンハンナがミックスし、ロサンゼルスのインフラソニックでデイブガードナーがマスターしました。 オリジナルのアートワークは、コラージュアーティストのNereidaDustenによって作成されました。

Allmusicで★★★★☆

活動国:US
ジャンル:Alternative/Indie Rock、Indie Pop
リリース日:2021年7月16日
活動年:1994-現在
メンバー:
 Allen Clapp – vocals, guitar, piano, synthesizers (1994–present)
 Jill Pries – bass guitar (1994–present)
 Gabriel Coan – drums, synthesizers (2010–present)

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総合評価 ★★★★

どの曲もクオリティが高く、全体として聞いていて楽しい。個人的にはちょっとエッジ不足を感じたが、それは求めるものによってそれぞれ。適度にポップで適度にアンビエント的なのでBGMとしては好みかも。純粋にリスニングだけに集中して聞く場合、個人的にはもう少しスリリングなほうが好みだけれど、高品質なのはわかる。昨年リリースされたFlaming LipsのAmerican HeadやSufjan StevensのThe Ascensionと同系統の感覚を感じたが、その中では一番アルバム全体として見たら好みかも。スリリングで感情が一定以上に高まる瞬間こそほとんどなかったが、退屈な瞬間もほとんどなかった。ずっと一定のテンションで続き、聞いた感覚も一定している。また聞きたいなと思わせるものはあるので、いわゆるスルメ盤(何度も聞きこむと良さが沁みてくる盤)な感じはする。★★★★☆の曲(2,6,15,17)は今回感じたハイライト。

1.2x2 03:32 ★★★☆

ややオーケストラの音合わせのような音からスタート。浮かび上がる、浮遊する感覚。ハーモニーが入ってくる。ゆったりとしたリズムで明るい音像。中後期ビートルズのようなサイケデリックでカラフルなサウンド。リズムにやや(意図的な)たどたどしさがあるが、全体としてはベテランらしい落ち着いた音像。シンセサイザーの音とコーラスが縦横に飛び回る。旅立ち、1曲目としてはいい導入。

2.Give My Regards to Rufus 03:14 ★★★★☆

少しテンポアップして美しいメロディ。ベースがスムーズに滑っていく。こなれたベテランとしての音作りながら極端なプロフェッショナリズムは感じない。確かにインディーズだ。バイオリンの音、悲しみと決意を感じさせるようなメロディ。なんだろう、USインディーズならではの青春ポップスという感じがする。

3.Birds are Louder 04:49 ★★★★

よりクラシカルな音に、フレイミングリップスにも近い浮遊感があるが、もっとポップで一曲一曲のキャラクターは立っている。より曲の輪郭がくっきりしているというか。跳ね回るリズムに対してボーカルがやや後ろのほうでなっている。ああ、コーネリアスのファンタズマもこんな音像だったかな。なんだかリミックスのような不思議なミックス。ポップスなのだがボーカルが中心にはない。飛び回る美しいメロディ。カラフルでポップとはこのことだが色数(音色)はしっかりと選ばれて絞られている。水彩画のような。

4.Larkitekture 04:06 ★★★☆

とぎれとぎれのノイズ、のっしのっしと歩いてくる機械のような、それを絵本のようなどこか戯画化された音像で描いている。ちょっと音は遠目で迫ってくる感じというよりは渦巻いている。曲調が途中で展開し、コーラスでは世界観が変わる。

5.Little White Bird 02:05 ★★★☆

夢見るような、心地よいサウンド。1曲1曲もキャラクターは立っているが、全体としてめくるめく音楽旅行という趣がある。

6.Thank You 03:52 ★★★★☆

フックが聞いた感じの入り方、コード進行やメロディに王道感がある。つまりクリシェ(常套句)的でもあるのだけれど。いわゆるインディーポップとかギターポップといったときに想起される音像。ピアノのフレーズも美しい。でも30年近くやっていてこの感覚はすごいな。期せずして昨日聞いた大和那南にもちょっと通じるたどたどしさ、初期衝動感が曲のテクスチャーにはある。全体として受ける感じはこちらはベテランというかもっとトリートメントされていて、聴いて生まれる感覚は違うのだけれど、要素を見ていくと決して難しいことをしているわけではないし、似たような語法で作られている。ただ、ちょっとしたリズムパターンやベースフレーズなどはよく練られている。

7.Whenever 01:58 ★★★☆

ポップでアップテンポ。弾むような曲調だが、すこしかすみがかったような、ドリーミーな全体の音は変わらず。

8.The Ghost of You 04:44 ★★★☆

煌めくようなアコギの音、ゆらぐコーラス、オーロラのようなつかみどころがないけれど煌めいている、美しい音像。音はもっとくっきりしているけれど、シガーロスあたりにも近い感覚。抒情派プログレ(キャメルとか)にも近い、ゆったりとした音像。スロウ。

9.Two Shores 04:16 ★★★☆

落ち着いた音像になってきた。ドリーミーな音作り、なかなかボーカルが入ってこない、インストだろうか。見上げるようなピアノのフレーズ、空の星のようなシンセ音が交互に現れる。ピアノのフレーズだけが残り、物思いというか夢想にふける。雄弁な音。8-9の流れはプログレ感がある。

10.Human 03:12 ★★★★

ジャングルポップ的な音に。ジェファーソンエアプレインのサムバディトゥラブみたいな。でもコーラスに行くとオルタナティブな感じ、90年代的な要素を感じる。キーボード音がけっこう大胆に使われている。これはリズムの説得力も高い、体が動き出すリズム、テンポ。だんだん盛り上がっていく。コーラスはちょっとニューウェーブ感もある。

11.Mindego Hill 02:12 ★★★☆

アコースティックでストレンジな歌い方。やや演劇的でサイケデリック。オルタナティブフォークというべきか。キャンプファイヤー的な、ちょっとアットホームな曲。

12.Magical Thinking 04:22 ★★★★

きらめくシンセの音からスタート、波のように揺らぐ。リズム音が加わっていきビートを作る。ややダンサブルに。そういえば最近のアルバムにスフィアンスティーブンスもこんな感じの曲を入れていたな(Video Gameだったか)。インディーポップにはディスコ的な音作りも表現技法として取り込まれているんだろうな。ビートの骨子が80年代的ながら全体としてはドリーミーでサイケな音に包まれている。サイケになったDEVOみたいな。

13.From the Rosemary to the Rose 04:23 ★★★★

ここから組曲のようだ、どれだけプログレ的なのだろう。最初、管楽器がはいってややジャジーな空気を一瞬出した後、スペーシーな音に。何か音のテンションが変わったように感じる。ここから何か新しいものが始まるような。ハーモニーがゆらめく。たどたどしく反復されるギター、シンセのフレーズが重なっていき、再びコーラスへ。花が成長していく、花を咲かせるようなイメージか。だんだんと曲が成長していく。ややダブっぽいベース。ただ、リズムはまっすぐでシンプルなビート。

14.From the Sunflower to the Nightshade Part 1: Helianthus 03:19 ★★★☆

ドリーミーな雰囲気を保ったままプログレ感が増してくる。穏やかなシンフォ系といいうか。インストで導入部のようだ。穏やかな雰囲気。

15.From the Sunflower to the Nightshade Part 2: Every Garden Grows 03:43 ★★★★☆

やや不穏なベース音が入ってくるが、歌が始まるとコード感は静謐さを取り戻す。落ち着いた穏やかな音像、ピンクフロイド的ともいえる。そういればフレイミングリップスも狂気(Dark Side Of The Moon)を丸ごとコピーとかしていたな、こういうUSインディー界隈のサイケといえばピンクフロイドなのだろうか。いわれてみるとわかる気はするが。長尺な時間、時間を効果t系に用いて3分間のポップスではなく5分、10分、1時間という時間を使って人間の感情を動かして見せたのは発明だった。ゆったりと抒情的、ギターフレーズも出てくる。これは良い曲。14を長大なインストとしてここで展開していく。一度クライマックスを迎え、終曲。

16.From the Sunflower to the Nightshade Part 3: Solanum 03:35 ★★★☆

雰囲気を変えるような、チップチューンっぽい音、に弦楽器が絡んでくる。空気感はつながっている。弦楽器が主体。ライヒのような反復するフレーズが組み合わさって曲が構築されていく。これもインストなのだろうか。思い切った構成だな。イントロとアウトロにじっくりと時間を取っている。長尺なアルバムだからできるぜいたくな使い方。のびのびとした音楽を感じる。

17.Pastels (Including: i. I Heard a Fly Buzz ii. Broken Light, Broken Spells iii. Incantation) 07:33 ★★★★☆

急に明るく元気になる。前の曲の空気感から変わるがボーカルのミックスは控えめだし、ビートは元気だが音はどこか色あせているというか抑制されている。コーラスになって解放感が出てくる。これも単独の組曲なのか。最初の明るいパートはいきなりクライマックス感はある。途中からスペーシーで宇宙を飛び回るようなパートに。間奏はさまざまな音の宇宙に移動する。またボーカルが戻っくる、フレーズが反復される。だんだんと音が立ち上がっていく。壮大なシンフォニー。ボーカルがU2のように高まっていく。スーパーノヴァ。

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