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Mon Laferte / 1940 Carmen

総合評価 ★★★★★

チリ出身でメキシコで活躍するモル・ラフェンテの2021年作。2021年に2枚のアルバムをリリースしていてこちらは2作目。ラテングラミー賞にもっとも多くノミネートされたチリ人アーティストであり、勢いに乗っているSSW。本作はタイトルの通り1940年代というか、ちょっとオールディーズな感覚をテーマに作られているようで日本のムード歌謡とかサザンのバラード(サザンはもともとラテンロック)にも近い雰囲気が後半出てくる。最初の曲がフレンチポップな感じがするのだけれど考えてみるとこれは当時の映画音楽のイメージなのかな。70年代フレンチポップス(フランスギャルとかブリジットバルドーとか)にも通じるものを感じる。ラテン音楽の過剰なパーティー感や性的魅力を強調する感じはなく、SSWの作品という趣。いい曲がたくさん入った、ちょっと大切にしたくなるアルバム。なお、彼女もメタリカのブラックリストに参加していた。ブラックリストにはラテン系のアーティストも結構参加していて、メタリカの射程の広さというか今向いている方向が見えて面白い。ベースのロバートトゥルージロがメキシコ系アメリカ人というのもあるのだろうな。


1 Placer Hollywood 3:39 ★★★★★

スロウなロックバラード。ラテン音楽というよりフレンチポップ感が強い。こじゃれたメロディ。チリ出身で現在はメキシコで活動するアーティストなのになぜこんなにフレンチなのだろう。何かのコンセプトアルバムなのか。カルメンことカルメン・ミランダはポルトガル生まれのブラジル人、ポルトガルなんだよなぁ。チリだからスペイン語圏のアーティストだと思うが。多層構造だな。名曲。

2 Algo Es Mejor 4:00 ★★★★

これまたちょっとフレンチポップっぽさもあるが、まぁラテンポップス味もある。ただ、こてこてのラテンというよりはブラジル音楽にも近い感じ(ブラジル音楽はラテン音楽の中ではコード進行の感覚などがやや特異)。さわやかで聞きやすい、心が弾むポップス。やや節回しはエキゾチック。カルメンということはフラメンコもテーマなのかな。情熱的。全体として爽やかでクールな曲だが一部節回しで煽情的な感じもある。

3 Good Boy 5:16 ★★★★☆

スロウテンポでアコースティック主体の音像。やはりフレンチポップ感を感じるけれど、こういう持ち味なのかな。でも歌いまわしはフレンチのような息が漏れるような感じはなくもっとくっきりしている、力強さや生命力があるのはラテン味。少し浮遊する感じもあり、いうならドリームラテンポップか。

4 Supermercado 3:34 ★★★★☆

これはラテン的節回しが強い曲。全体として落ち着いた、70年代ソフトロック的な音像と欧州ポップス的な美しいメロディが印象的。良い曲。

5 Niña 4:23 ★★★★

独特なコード展開、ラテン的なコード進行。ボーカルが入ってくる。ラテンオールディーズの雰囲気があるボーカル曲。全体としてタイトルの通り1940年代というか、オールディーズな雰囲気というテーマがあるのかもしれない。心地よく聞ける。

6 Beautiful Sadness 3:21 ★★★★☆

こちらもオールティーズな雰囲気がある曲。ブルージーでけだるいけれど、訴えかけてくるものがあるスローバラード。歌謡曲的とも言える。

7 Química Mayor 3:51 ★★★★★

これまた歌謡曲的。日本人には何か懐かしさを覚える。こちらがルーツに近いのだろうけれど。ラテンブーム、マンボブームというのがあったし、その時に根付いたラテン音楽の楽団員や作編曲家たちが60年代~70年代の歌謡曲シーンで活躍した故の類似性なのか。なんとなくサザンっぽくもある。もともとサザンはラテンロックをやりたかったバンドだし。

8 A Crying Diamond 4:36 ★★★★☆

じっくりと歌唱するスロウな曲。ややダークでシリアスな雰囲気があるバックのオーケストラの前でボーカリストが脚光を浴びて歌い上げる、ムード歌謡というべきか。緊迫感があり演劇、舞台芸術的。ステージで歌いあげる姿が目に浮かぶ。

9 No Soy Para Ti 3:31 ★★★★☆

オールティーズなリズム、郷愁を感じさせるリズムながらボーカルは盛り上がる盛り上がる。最近のラテンポップス的な音のレイヤーを重ねて盛り上がる仕掛けがされている。古い曲に感じるけれど音や盛り上げ方はモダン。いろいろとベタだけれどやはり感情が動く。パフォーマンスの力。

10 Zombie 3:35 ★★★★★

ちょっと変わったコード進行、ブラジル的なちょっとひねくれた感じもある。やっぱり近いからな。90年代以降のカエターノヴェローソにも近い感覚がある、隙間がある音の上でキャッチーではあるけれどやや奇妙なコード進行とメロディ展開。メロディに説得力がある。

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