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Creeper / Sanguivore

2014年デビューのUKのバンド、Creeperの3枚目のフルアルバム。気が付けば毎回アルバムを出すたびに取り上げています。

1st。

2nd。

「凄く好きなバンド」というほどでもないと思っていたんですが、毎回記事を書いているし過去2作はLPも持っているからかなり好きなのかもしれない。正直、前作はあまり出来が良くないなぁと思っているんですがLPを買っていました。何かコレクター心をくすぐるところがあるんですよね。そのうちビッグになる気がするというか。たぶん後からだと手に入らなくなるだろうなぁと思ったり(だけど今のところ全然大ブレイクの予兆なし)。

さて、3作目となる本作。一聴して思ったのは「どこかで聞いたことあるな。。。あ、ミートローフじゃん!」。より正確に言えば作曲家のジム・ステインマンですね。ステインマンオマージュ的な要素が冒頭から炸裂します。デビューアルバムからその要素はあったし、本人もインタビューで「ジムステインマンに影響を受けた」と公言しているのですが本作はそれがより一層顕著に。ただ、ボーカルは本家と比べるとパワフルではないので「痩せたミートローフ」みたいな音像。1曲目「Further Than Forever」なんか特に顕著。コーラスに入るとこがまんまステインマン節です。

このバンドってもともとハードコア、ポストハードコア界隈のバンドメンバーたちが集まって作ったバンドなんですよね。だから演奏がパンキッシュ。ルックスが痩せているだけでなく、演奏がタイトというか装飾がそれほどない。たとえは変ですがイケアの派手な家具みたいな。なんとなく手が込んでるっぽく見えるけれど実際にはシンプルだよねと。上記の曲もミートローフっぽさもありながらMisfitsの「Die Die My Darling」のフレーズを入れ込んだり、パンクのルーツを主張しています。

前作はオールディーズへの接近が見られましたが、今作は「ミートローフっぽさ」と「80年代(グラム)メタルっぽさ」が特徴。1stの路線の正統進化という印象で個人的には嬉しい方向性です。あと、感じるのがスウェーデンのゴーストへの接近とジャーマンメタル(パワーウルフとか)への接近。特にゴーストへの接近は顕著で、MVのビジュアルまでゴースト的に。

本作のプロデューサー(全曲で作曲にも関わっている)はTom Dalgetyゴーストのプリクエルのプロデューサーでもあります。いわば本家の人脈を借りてきた。ゴーストの新作がUSでも期待以上の成果を出したことで「Creeperもゴーストみたいにすれば売れんじゃね」という思惑が働いたのだと思います。ただ、残念ながらMVはちょっと予算と作り込みがたりず張りぼて感が出ていますが…。ゴーストも初期はこんな感じでしたからね。なお、上記はMVはゴースト(のDance Macabre)的ながら曲メロはどこかジャーマンメタル的。「パワー(メタル感)のないパワーウルフ」みたいな感じです。UKのバンドのセンスで北欧メタルをやるとジャーマンメタルになるのかしらん。最後の転調するところはフィンランドのLordiを彷彿したり。全体としてジャーマンメタル、北欧メタル感があります。

今作の特徴として上にあげた「80年代メタル感」ですが、ギターリフやギターサウンドは明らかに意識しているんですよ。でも、アルバムを通して全体的にはあまりメタル感がない。それは出自がパンク、ハードコアの人たちだからでしょう。音が暑苦しくない。これを物足りなさと感じるか面白いと感じるかで評価が別れそうですが、個人的には好きなんですよね。能力を演奏技術ではなくセンスとか音の遊びに振っているというか。あくまで「UKロックシーンの中で勝負している」感じがする。メタルにたまたま音像(というか曲構成や歌メロ)が近づいただけで彼ら自身はメタルバンドではないと思います。

というか、振り返ってみるとアイアンメイデンもそうですよね。NWOBHMって1980年当時「ブリティッシュヘヴィメタル」ってそれほど確固とした音像はなかった。デビュー当時のメイデンの特徴ってパンキッシュなスピード感と70年代UKハードロックの楽曲構築能力や語法(ギターソロや複雑な曲展開など)を組み合わせたところにありました。そうした「新しい感じ」が好きなのかもしれない。あと、前作のツアーの最後にvocalが首を切られて(という演出で)ライブが終わったらしく、ブルースディッキンソンが脱退前最後のライブで磔にされる演出があったのを思い出しました。そういうサーカス的なライブパフォーマンスをするところも面白い。

首を切られたところ
アリスクーパーっぽくもある(あの人毎回切られる)

あと、アルバム全体を聞くとかなり英国っぽい。アルバムも「19歳の女性吸血鬼に支配されている男性老人との恋物語」という物語を語るコンセプトアルバムであり、ブラックユーモアというかひねりが効いています。

ここまでメタル系の影響ばかり書いてきましたが、基本的にはパンクとかエモとかの文脈で語る方が適切なバンドで、マイケミカルロマンスとかエンターシカリとかとツアーを回っています。音像的にもけっこうシンセも使われていて、CHVRCHΞSあたりに近いものも感じます。80年代のポストハードコア、ゴスの路線。

全体的にUKっぽさを感じるところは、正直あまり1曲で聴いてもパッとしないんですよね。上述してきたように「パワーのないパワーウルフ」とか「チープなゴースト」とか「痩せたミートローフ」みたいなちょっとネタにしたくなる印象で、正直突き抜けない。ただ、アルバム全体を聞くとコンセプトというか独特の世界観があって引き込まれます。このあたりの「アルバムを聞かないと全容がわからない」感じも70年代プログレ~ハードロックを引き継いだNWOBHMの精神を感じます。

たとえばシングルカットされた下記の曲。

リフとか歌メロとか、80年代メタルっぽさや最近のゴーストらしさを感じる曲ですが、、、正直単曲ではあまりパッとしないというか展開が弱い。「ポップにしよう」として持ち味を殺してしまっている気がします。アルバムの他の曲の方が遊び心があって面白いし、そういう中に入っていて輝く曲なんじゃないかなぁ。シングルアーティストではなくアルバムアーティスト。ゴス、エモ、パンキッシュなハードロックが好きな方はぜひアルバムで聴いてみてください。アルバムは前半~中盤は流れが良い。後半は一聴するとやややりすぎ感(最後のバラードとか大仰にしようとしすぎ)があるけれど、後半の方が何度か聞いていると癖になりそう。「どこまで計算されているのかわからない未完成ないびつさ」も魅力です。これって、70年代のJudas Priestもそうでしたね。なんとかブレイクしようとアルバムごとに音像を変化させていた(今も変化しているけれど)JPの姿に重なるところもあります。バンドを追うってその人の人生を見続けることでもあります。

2023年のアルバムでは「HMLTD / The Worm」とも同時代性を感じました。こちらはメタル/ハードロック的な語法はほぼ使っておらずアートパンク、プログレ的な音像ですが根本にある美学的なもの、センスはCreeperも通じるところがある気がします。

それでは良いミュージックライフを。

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