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Bo Burnham / Inside (The Songs)

Bo Burnham、ボーバーナム。もともとYouTuberとして世に出て、スタンダップコメディアン、ミュージシャン、映画監督として活躍中。彼が2021年、ロックアップ下に一人きりで作り上げた新作がINSIDE(2021)です。Netflixで公開中。

観た感想として、最初に思ったのは「現代のFrank Zappaだなぁ」という感想(※Zappaについてはこちら)。自作自演なので超絶技巧は出てきませんが、辛辣な歌詞や視点には共通するものがある。ただ、強烈な厭世観があるがそこから説教に繋げない(選挙に行けとかニクソンを倒せとか)のはグランジ以降というべきか、Z世代というべきか。

昨日、ロック史を振り返っていく中で「2010年以降はロックに新しい動きが無い、代わりに若者が(=Z世代)聴くのはポップスターと黒人音楽」という話を書いたのですが、書いていて「待てよ、ロッカーの代わりになったのってYouTuberなんじゃないか」と気が付いたんですね。

もともとロックミュージックは抑圧された子供たちの代弁者だった。リビングのステレオではロックンロールは聴かせてもらえず、ポータブルラジオの普及によって子供たちがロックンロールを聴けるようになった。子供たちがなぜそれに惹かれたかと言えば、強い父親の支配、1950年代の親世代や社会的規範は強く、閉塞感があったから。そこで「日常と違う世界」を見せてくれるロックミュージックは熱狂的に迎えられました。

ところが今や、ロックに「非日常」はない。60年代から80年代の「ロックな生き方」つまり、セックスアンドドラッグアンドロックンロール的な破滅的な生き方はもはや憧れでもルールを破る反動でもなく、単に愚かなだけ。ポップスターは見た目はタトゥーが入っていても中身は品行方正だったりする。じゃあそういう日常への反動、「非日常」を魅せてくれてそして「自分もそうなれるかも」と思わせる存在はどうなったのか。

それがYouTuber、インフルエンサーなのでしょう。可処分時間にロックスターを探しロックを聴くより、YouTubeを見る。考えてみれば日本でもそうですね。そして、人気YouTuberは「大人たちは知らない」。次々と新しいスターが出てくる。自由をウリにする。不祥事も起こす。その中で謝罪の過程すらも動画にしていく。ロックシーンの果たしていた「非日常で生きる生身の人間の日常をコンテンツ化し、それを通して違う人生を夢見る」という役割をYouTuberが果たしている。

ただ、そうしたYouTuberが「音楽」に戻っていくのは面白い傾向ですね。やはり音楽は音声コンテンツの王様で、そもそも音楽自体がコンテンツ力が高い。本作も音楽が主体でサントラも出ています。今日はそのサントラのレビューを。スタジオ盤だと映像とどう印象が変わるでしょうか。

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出身国:US
ジャンル:Musical comedy、pop rock、comedy hip hop
リリース:2021年6月10日
活動期間:2006-現在

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総合評価 ★★★★

音楽だけでもけっこうクオリティが高い。ギャグありき、ではなく、音楽そのもののメロディが良くて聞ける。スタジオライブで一人で繰り広げられるロックミュージカル。他者や社会に対してシニカルだったり茶化す視点もあるが、だんだん内省的、自叙的になっていき、それが結果として聞き手と共振する部分がある。この辺りはYouTube的かもしれない。どれだけキャラクターを作っていても、結局は本人の素の部分が出てくる。そしてまた、キャラクターと本人も一体化してくる。私たちは皆、さまざまなロールによってペルソナを変えるし、そのペルソナは「作られた自分」ではなく「自分の一部」なのだから。

++++

1-1 Content 1:36 ★★★☆

電子音、ディスコポップ。シンセベースの音から脱力したキーボードフレーズとボーカル。声だけ聴くと声の剽軽さをより強く感じる。「さぁ、仕事に戻ろう」。「コンテンツを生み出そう」。宅録エレキポップ。

1-2 Comedy 5:19 ★★★★☆

声がよく聞こえる。歌詞が聞き取りやすい。先に字幕付き映像を見たせいもあるだろうが、やはり「言葉を聞かせよう」という意思が強い、発音がくっきりしている。息遣い、息継ぎが大きく聞こえてライブ感がある。歌詞的にはZappa的だなぁと思ったが、音だけ聴くとトッドラングレン的でもある。「コメディをやりなさい(天の啓示)」「そうだ!やるぞ!」というブルースブラザーズのパロディのようなシーン。アルバムだけ聴いてもストーリーは分かるな。ただ、純粋に音楽だけ、と考えるとかなり宅録感が強い、インディーのエレポップ的な音像。New Orderあたりの80年代的なシンセポップ、シンセロック。曲構成は寸劇的でどんどん展開していく。

1-3 FaceTime With My Mom (Tonight) 2:20 ★★★☆

ややドリーミーな音使い、リバーブがかかる。指パッチンのリズム。「ママとフェイスタイムするぜ」。孤独感がある。ローファイというか、部屋で作る”これぞ宅録インディーロック”的な音使い。

1-4 How The World Works 4:15 ★★★

子供たちに「どのように世界が動いているか」を説く歌。ピアノを弾きながら出来上がった曲、という感じ。いい歌メロ、あまりアレンジが凝っていない分、デモテープのような生々しさがある。途中、別キャラクターとの寸劇が入る。これは歌詞のひどさも含め、素っ頓狂な歌声もZappa的。複数のキャラクターの声が出てきて寸劇を繰り広げるのもそれっぽい。考えてみるとそもそもZappaもスタンダップコメディに着想を得たのかな。

1-5 White Woman's Instagram 4:00 ★★★★

これはMVもYouTubeに上がっていますね。MVというか番組の一部。これはなかなか強烈。Madonnaの「American Life」と同じテーマ。アメリカ人の生活を映し出して見せる。こういう「普通の人がやりがちなことを切り取って見せることで痛烈な皮肉を感じさせる」手法は、マイケルムーアあたりが先鋭化させた気がします。これを見て「あるある」と思いながらも、「何やってんだろ私」と思うのだろうか。それとも「私には関係ない」と思うのだろうか。これは曲としても作り込まれています。

1-6 Unpaid Intern 0:33 ★★★

面白い歌、短いのが惜しまれる。「無給のインターン」。唐突に切れる笑

1-7 Bezos I 0:57 ★★★

ジェフベゾスの歌。執拗にベゾスのことを歌いますが何かあったのだろうか。一昔前はゲイツちゃんとかいう漫画もあったし、「いじられCEO」はビルゲイツだったのですがそれが今はベゾスなのかな。小曲。

1-8 Sexting 3:21 ★★★☆

Sextingとはいわゆるテキストで行う疑似行為のこと。確かに、ロックダウンだと同居してないとなかなか会えないですものね。夢見るような、孤独なような、感情や情景をうまく音にしている。途中、R&B的なフレーズになるのが上手い、Frank Oceanみたいなフレーズ。歌詞はひどいですが。

1-9 Look Who's Inside Again 1:23 ★★★

キーボード弾き語り的なシンプルな曲。シンプルな構成だとメロディセンスが光ります。ベンフォールズとかも近いかも。小曲。

1-10 Problematic 3:13 ★★★☆

ディスコサウンド、シンセベースがぐいぐい来る。インベーダー的な音。ちょっと宇宙人声でボーカルが入ってくる。脱力した歌い方や音作りながら曲はかっこいい。コメディ感があるけれどいい感じのメロディ。全体的にはやや中だるみというか繋ぎ感のあるパート。

1-11 30 2:34 ★★★☆

「30」。30歳になる節目。QueenのRadio Gagaのようなシンセ音。追憶のメタファーなのか。場面転換。

2-1 Don't Wanna Know 1:03 ★★★

ここからDisc2に。Disc-2とあるがフィジカルでもリリースしているのだろうか。場面が変わり、カオスさ、内面の混乱が増していく。こんがらがっていく。唐突に曲が終わる。

2-2 Shit 1:18 ★★★

ファンキーに。はじめてスラッピングベースの音が出てくる。Maroon5みたいな感じ。ジャミロクワイとか。後半はコメディ色が強まっていく。

2-3 All Time Low 0:54 ★★

トーク、声。やや深刻な声。インタールード。話しをぶった切るように曲が始まる。明るく能天気な響き、また語りに戻り終わり。

2-4 Welcome To The Internet 4:36

Zappa感再び。寸劇、ミュージカル的な歌い方、道化のような音、サーカスのような音楽。だんだんスピードが上がっていき、道化感が増していく。一通りスピードアップしたところで急にテンポが下がり場面転換、緩急のつけ方が上手い。もともと「物語」ありきで、それを音像化しているからだろう。だんだん狂気じみていく。テンポが遅くなっていく。内面の葛藤、感情やストレスが高まっていく感じがよく音像化されている。

2-5 Bezos II 0:45 ★★★

またベゾス。ベゾス、アゲイン。

2-6 That Funny Feeling 5:00 ★★☆

ベゾスは何だったのか。シリアスな響きのギターバラード。弾き語り。雨だろうか、日常音、なんらかのホワイトノイズが乗っていて空間の広がりを感じる。

2-7 All Eyes On Me 5:02 ★★★★

低音のシンセベース、歓声とリバーブの効いた声、バーチャルなライブ。再びステージに戻る時、それは楽しいのだろうか、あるいはストレスなのだろうか。どのような感情になるのだろう。内面の吐露なのか、キャラクターとしての物語なのか。ペルソナと演者本人の区別がつかなくくなる。物語に引き込む手法の一つだ。そして演者と観客という構造を脅かす、観客だと思っている自分も実は演者なのかもしれない。楽曲はR&B的でゴスペル感もある。後半はどんどん声がディフォルメというか、「作られた声」になっていく。キャラクターが分離していくのか、あるいは一体化して囚われるのか。

2-8 Goodbye 4:09 ★★★★☆

ピアノからスタート、ミドルテンポのバラード。ついに終わり、お別れの曲。一人で作り上げた作品、半ばドキュメンタリーとなった作品、安堵と共に終わりが来ることを惜しむ気持ちを感じる。Verveのビタースウィートシンフォニーのような、ブリットポップ的バラード。途中からメロディがどんどん展開していく。

2-9 Any Day Now 0:58 ★★☆

ビーチボーイズのようなコーラス曲。「いつの日か」。

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