見出し画像

「before dawn」 / 角居康宏インタビュー②【アート/クラフト 】

白白庵企画 / 金工作家・角居康宏 展「before dawn」。
今展覧会に向けての制作を終えたタイミングで「before dawn」出展作品、そして自身の制作テーマについてたっぷりと語って頂きました。
今回は鍛金シリーズの制作と作品にまつわるお話を中心に。
どうぞお楽しみださい。

*インタビュー前半はこちら。

《銅花器シリーズ》

画像1

「掛け花 丸 φ25cm」

ーでは続きまして。叩く方のお話を伺いたいのですが。
今回の新作シリーズでは銅菅の花器あれも叩いて・・・?

これはですね、既製品の銅パイプとエルボを組んで作ってます
冷房とかの配管に使われるやつです。
組んだばかりだと「あー配管だねぇ」って感じなのが、腐食させると不思議と重厚になるんですよ。

これは額縁とその中に描かれる花をイメージしたんですね。
絵だと中の風景はずっと一緒ですけど、こうしたらフレームの中で花が差し替えられる。

ー借景みたいな発想ですね。そこにある花だけじゃない奥行きもイメージさせてくれます。

物づくりをする人間が「自由にやって」と言われてやる”自由”は、実は全然自由じゃないんですよ。
本当にフレームのない自由って凄く難しいし、そんな”自由”がどこにあるのかわからない。
だから逆説的に、フレームがあった方がその中でなにをするかという自由さが生まれる。そしてフレームから外れる自由もある。

物も一緒でフレームがあるからこそ、中身を楽しむ事ができるんですね。
それにうってつけのものができたな、という手応えがあります。


学生の頃、美術も工芸もデザインも全部いっしょくたに学んだんです。
その影響で今でも、日常で使うものは使いやすくないと嫌ですね。
こういった考え方も一種のフレームですね。
使う事に関してはシンプルであって欲しい。

画像2

『掛花 八角形』


《素材の面白さ》

ー今回のクラフトワークは素材が錫と銅ですけど、ちょうど前回記事で「雰囲気がありすぎる」とおっしゃっていた青銅の素材2種類ですね。


錫が魅力的な素材、と言うことは金属を扱っている人ならみんな知ってるはずなんですよ。例えば銅器でも内側は錫塗りです。
お酒が美味しくなるとか、水の浄化作用でお花が長持ちするとか。そして錫そのものも変質しにくい。
でもやる人は少ないんですよ。
おそらく原材料として錫を買う時は塊しか売ってないからだと思うんですけど。板材で売っていないんですね。
板作りは鋳造側の仕事で、鍛金の作家は板が作れないんですよ。

こうしたごく単純なことが障害でみんなが「錫っていいな」と思いながら手を出せていない。

ーなるほど。鋳造もできる角居さんならではのお仕事なんですね。

僕もきちんとした板が作れるようになるまで10年くらいかかったんですけどね。
で、錫はこの板の状態だと柔らかいんですが、叩いて形にしながら固くしていくんです。

不思議な事にね、例えばこのコップの断面が円じゃないですか。
これも完全な円になるまではいくら叩き締めてあっても柔らかいんですよ。
ところが形の整った瞬間に力の分散が均一になってカチカチになるんですよ。作ってる時のこの瞬間がたまらなく面白いんですよね。


画像3

『コップ BAMBOO』

ーという事は片口とかの変形物は整えるのが難しいんじゃないですか?

そう言う時は板厚を上げます。そして強度を出す。
最初に4mmの分厚い板を作るんですけどね、筒物とかだとこれを1.3~1.4mmくらいに延ばします。この厚みから整えていくと丸くなったときにちょうどいい硬さも生まれるし、軽さもある。
四角い器だと1.5mmくらいでお皿とかの板物だと1.6~1.8mm。
この0.1mmの差で仕上がった後の強度に物凄い差が生まれるんですよ。
それも長くやってるうちに経験で分かったことですね。


ーでは今回の出展作品についてそれぞれ詳しくお伺いします。
まずはこちらから。


画像4

画像5

『注器COCOON 二合 Ⅰ』


作る時には一枚の板をくるっと丸めて包んでおしまい。
その工程と雰囲気が繭みたいに感じて。
それが今回のタイトル「before dawn」に"夜明け前"と"羽化する直前"のイメージで繋がるし面白いなと思ってます。
繭とか蛹の中では幼虫が一旦ドロドロに溶けて成虫になる準備をしてる。
世の中が次の価値観を捕まえるまでの繭とか蛹の状態が今。
僕は力一杯叩き直しましたけど笑


画像6

『シリンダーチョコ』


cocoonを作るときにミニマルな形を考えていたので、それに対応するぐい呑を作ろうと思ったんです。
以前に取り組んでいたTUTUシリーズみたいにすると少し工業的で突き放す形になるから、手の中でより愛おしめる形にしたかったんです。


画像7

NEOコップ#1

今まで作ってたコップと同じ型紙を使っているんですけど、口の作りを変えてリメイクしました。
これも今回やってみたかったことのひとつで。自分が常識にしていた事を読み解いて新しいものとして生まれ直すこと。これも夜明け前のイメージに繋がりますね。
NEOロックグラスも同じく、前からあった型紙を使ってリメイクした作品です。

画像8

『NEOロックグラス(ロッキング)』


画像9

画像10

『○×チョコ』


その名の通り、見た目で楽しんで欲しいですね。
いっぱい揃えてオセロとかしたら楽しいんじゃないですかね。
囲碁とか笑 難しかったら五目並べでも良いです笑
どなたかセットでのご注文お待ちしてます


画像11

『カフェカップVIVA(大)』



これは中条のカフェ「美場」で実際に使ってるタイプです。
工業デザインをやってる友達に見せたら凄く面白がって買ってくれて。
「工業的には抜けテーパーを考えてないものはボツだから、簡単な形なんだけど難しいんだよね」と教えてもらいました。
コップの口が広がってないといけないと思ってしまうのは、工業的な理由で作られた抜けテーパーに僕らの感覚が支配されているだけかもしれないですよね。


画像12

『ちろり(場)』



これも「美場」で使っているタイプです。
ベーシックなちろりだと取手が下向きになるよう付けるんですけど、熱燗をつける時に鍋肌が触れると熱くなるし、下手したら火傷しちゃう。
プロの商売人じゃなきゃ取手は上に付いていた方が使いやすいですし、今後のベーシックになってくれたら良いな、と思います。


画像13

『銚子 DICE Ⅰ(立方体)』


画像14

『銚子 DICE Ⅱ(横型)』


画像15

『銚子 DICE Ⅱ(横型)』


立方体の作品は以前から作ってまして、サイコロを8個積んだ形です。
サイコロ1個を基本単位にして、それぞれ二合入るようにパターンを組み換えて作ったのが今回のシリーズです。


画像16

『スレンダーコップ』


今回新しく作った形です。今までも冷酒コップはあったんですけど、より上品に飲めるようにしたかった。

ロボットの研究をしている人によると、人はものの見た目で既に重量を計っていて、ものを持つ時にはイメージした重量に対して1.1の力を使うそうです。視覚はそこまで捉えてるんですね。
ものを作る人は小さければ小さいほど密度を上げて作るけど、使う人もきっと同じことなんです。
小さいものを扱うときには慎重になるので、そのときの手の感覚は大き物を扱うよりずっと鋭敏になってるはず。
そう言う意味でこの細さはとても良いんじゃないかと思います。


画像17

『ボトル』


この作品自体は少し前に作ったものですね。これを作る頃から多面体に興味が湧いてました。
錫は柔らかいから曲線と曲線も合わせやすくて、繋ぎ方によっては形がねじれながら仕上がっていくんですよ。
このボトルとかヘドロンみたいにパーツを組みわせていく仕事でその感覚が顕著になるので興味深いんです。

ちなみにこれは四合入る。錫は匂いがつきにくいので何を入れても大丈夫です。日本酒でもワインでもなんでも入れてください。
繰り返しになりますけど、こういう錫の魅力は金属やってる人ならみんな知ってるはずなんですけどね。もうこんな良いスキマ産業ないな、と笑
僕は20年やってますけどまだ誰もやらないので笑


画像18

『注器 ヘドロン 20』



ヘドロン=多面体ですね。今回は片口も作りました。
ドデカヘドロンとかは言葉の響きも良いですね。

ー作る工程が全然わからないです。

複雑に見えますけど立体の面を凹面にしただけなんですよ。
例えば今回はサッカーボールと同じ構造のものもあって六角形が20個と五角形12個。その辺の長さを揃えて五角形と六角形を作って貼り合わせていくだけ。

画像19

『花器 ヘドロン12-20(30)』

ーだけと言われても笑

だいたい作家なんてみんな自分はたいして複雑な事やってないって言いますよね笑
タイトルで説明しますとヘドロン20(50)が正二十面体で一辺が50mm。
ヘドロン12-20(30)は五角形が12枚と六角形が20枚の組み合わせで一辺が30mm、という事です。
あとは作品を見てお楽しみください



【アートワークとクラフトワーク】

ー制作する中で"アートワーク”と”クラフトワーク”ではどういった違いを感じますか?

アートの場合は頭先行ですね。
形は考えが煮詰まれば出てくると信じている。
その考え方によって手法も含めて必要なアプローチが決まります。
だから考えることが先行。
物心ついて、ちょっと大人になって色気づいた頃に読み漁った本とかを通じて学んだ事。それらを表現するものとして「彫刻」というものが僕の中にあるんだろうな、と感じています。

器に関してはデザイナー寄りの感覚です。
機能的な部分をまず優先します。でもディテールによって物の見え方が全然変わってくることは知っているので、ずーっと探り続けています。
とにかく美しくて使いやすいものを作りたい。

錫だと素材自体に魅力があるのでそれだけでセールストークにはなります。
そこに+αで僕自身がどんな人間か、とかそういった物語が加わるのも良いんですけど、まずは物自体が道具として成立している事が大事

画像20

『掛花 逆しずく型』


どちらも共通して感覚的に作るのは苦手なんです。
僕はロジックを積み重ねて作るタイプですね。
"子供が絵を描くように"作るのは本当に難しいです。

で、アートとクラフトではロジックを積み上げる場所が違います。
精神に根差すか生活に根差すかの違いですね。


画像21

『曙光 Ⅱ』


僕が生きて学んできた事や表現したいことはアートワークにあります。
アートワーク側から言えばクラフトは良い入り口になってくれています。
”角居っていう人が錫で何か作ってる。けどこんなものも作ってる。不思議だね”と面白がるきっかけになってくれる。
不思議の扉の入り口にアプローチさせてくれるのがクラフトワーク。

ただし、ものを作る喜びそのものは全然変わらないです。

自分の中にいる少年がですね。
小さい頃に見た職人のおっちゃんの仕事っぷりに今も憧れています。
そういう仕事に長けた自分にもなりたい。そうなると手技の追求になりますね。だからクラフトワークの方は手の中に収まるサイズのものが多くなります。手の思考の追求です。

これは以前にとあるガラス作家さんとお話した事なんですけども。
僕らがやってる事は精製されたマグマを扱う事なんです。
金属もガラスも陶芸も。
それってやっぱり根源的なものに戻っていくじゃないですか。

中島智さんの本にあったんですけども、アフリカでも金属を扱う人はかつて否可触選民であったと書いてあるんですよ。
カーストの下というか外側で、性別が男女とも言われない。
集落にも住めないから外れにすむ。
でも王様と対等に話せる立場であらゆる立場を超越しているんです。

ー「もののけ姫」はそういう世界を匂わせてますよね

まさにそれです!
金属を扱う事が神話の世界、根源的な物語と繋がりますよね。

画像22

『曙光 I』


震災の時も、今回のコロナに関しても国が動かす大きな力に無力感を覚えたんです。何かが変わりそうで結局システム自体は根本的に変わらない。
でもそこで暮らす人間の気持ちは変化し続けますよね。
そんな思いもあって中条にアートロケーション《場》を作ったんです。
そこでは僕やいろんな人たちが物づくりを楽しくやっている姿を見せたいんです。
経済じゃなくて「おもしろい」と感じる事が中心になる世の中にしたい
もし仮に、どんな絶望の縁にいても「おもしろいこと」が1個あれば生きていけるはずで、ものづくりはその紐を繋ぐ事ができます。
そうやって「楽しい事」が基軸になる社会に近づけたら良いですよね。


画像23

『一輪挿し えっへん』


*
白白庵 オンライン+アポイントメント限定企画
金工作家・角居 康宏 展
「 b e f o r e  d a w n 」
PAKUPAKUAN presents
Metal artist SUMII Yasuhiro solo exhibition
“before dawn”

【オンライン】
日時 2020年10月9日(金)11時 ~ 19日(月)19時
   *会期中の木曜日は定休日のため受注のみ。
会場 オンラインショップ《PAKUPAKUAN.SHOP》内特設ページ

【ON LINE】
DATE & TIME : 2020.10.9 FRI. 11:00am. - 19 MON. 7:00pm.
*only order correspondence for a regular holiday on Thursday during a session
VENUE : Special issues page on www.pakupakuan.shop

【アポイントメント】
日程 2020年10月9日(金)~ 19日(月)のうち、金・土・日・月曜日 限定
*火・水曜日はオンライン業務専従日、木曜日は定休日。
時間 11時 ~ 19時 の間で 一時間枠
*一時間を上限とする来訪枠を設定し、各枠内で最大2名までの受付といたします。
*3名様以上でのグループのご来訪はお断りします。
*アポイントは訪問前日の営業時間内までの予約受付を必須とさせていただきます(メール、電話、各種SNSからのメッセージにて)。
*マスク着用、入口でのアルコール消毒・検温必須。
感染症予防対策を万全に講じ、事前予約のある方のみ来場可能とさせていただきます。
会場 白白庵(1階エントランスギャラリー)
   〒106-0072 東京都港区南青山二丁目17-14
   TEL&FAX 03-3402-3021
   www.pakupakuan.jp | info@pakupakuan.jp

【Appointment for visiting PAKUPAKUAN gallery】
DATE : Only FRIDAY, SATURDAY, SUNDAY and Monday during 2020.10.9 FRI. - 19 MON.
*Tuesday and Wednesday are online business days, Thursday is a regular holiday.
TIME : 1 hour during 11:00am. to
7:00pm.
*Only less than 3 people will be accepted in each time schedules.
*We do not give the permission to visit to our gallery if visitors will be over 3 members.
*Please contact us if you hope to visit us, until in business hours (11:00-19:00) of the day before visit (mail, telephone, or message from any SNS).
*Mask wearing, alcohol sterilization, the thermometry at the entrance are required.
VENUE : PAKUPAKUAN (Entrance gallery at 1st floor)
2-17-14, Minami-Aoyama, Minato-ku, Tokyo, JAPAN zip 107-0062
TEL & FAX 03-3402-3021
URL www.pakupakuan.jp Mail info@pakupakuan.jp

突然訪れた深く長い暗闇の中、うっすらと明けやらぬ先を見て
彼は何を思い、形にするのか。
白白庵での待望の初個展は、コロナ禍における作家の苦悩の痕跡を隠さず
未だ見ぬ新しい世界への希望を込めたメッセージとなるだろう。
What does he think about and give shape to?
His long-awaited first solo exhibition at PAKUPAKUAN
will not hide the traces of the artist's agony in the aftermath of the corona plague,
but will be a message of hope for a new world yet to be seen.



◎参考動画 
【長野県 頑張るアーティスト応援事業 テーマ型 対象事業動画】
角居康宏 「曙光 ~夜明けにさす太陽の光~」
 https://www.youtube.com/watch?v=P6ostSEXHQ4&feature=youtu.be

◎企画詳細ページ(白白庵公式サイト)
 http://www.pakupakuan.jp/exhibition/beforedawn.html

【出展作家】 Artist

角居 康宏
金工作家・彫刻家 / 長野県在住
[略歴]
1968 石川県生まれ
1993 金沢美術工芸大学美術工芸学部産業美術学科工芸デザイン専攻 卒業
[近年の主な出展]
2015 個展(志賀高原ロマン美術館 / 長野)
2016 個展(関口美術館 / 東京)
    個展「層」(ギャラリー川船 / 東京)
2017 個展「野辺」(as baku B / 金沢)
    個展(信州高遠美術館 / 長野)
2018 「シンビズム」(信州ミュージアムネットワーク選抜展)
    「金工 角居康宏展」(アートサロン光玄 / 愛知)
2019 「南青山大茶湯」(白白庵 / 東京)
    「夏の宵茶会」「煎茶上等 リターンズ」「大縁起物展」(白白庵 / 東京)
2020 「春爛漫 百花繚乱茶会」(白白庵 / 東京)
SUMII Yasuhiro
Metal work artist, sculptor / resident in Nagano pref.
〔Brief Personal Histroy〕
1968 Born in Ishikawa Japan
1993 Graduate from Kanazawa University of Art and Craft
〔Major exhibitions in recent years〕
2015 Solo Exhibition [Shigakogen roman museum] (Tokyo)
2016 Solo Exhibition [Sekiguchi Art Museum] (Tokyo)
    Solo Exhibition [Gallery Kawafune] (Tokyo)
2017 Solo Exhibition [as baku B] (Kanazawa)
    Solo Exhibition [Takato Museum of Arts] (Nagano)
2018 Shinbism(Selection of Shinsyu Museum Network)
    Solo Exhibition [Art Salon Kogen] (Aichi)
2019 PAKUPAKUAN Reopen after renovation Event“Minami Aoyama Great Tea Party”(PAKUPAKUAN / Tokyo)
    "Summer Night Tea Party”, “SENCHA JO-TO / Returns”, "Great exhibition of lucky charm" (PAKUPAKUAN / Tokyo)
2020 "Hundred flowers blooming in profusion" (PAKUPAKUAN / Tokyo)
web site https://www.yasuhiro-sumii.com/


【企画・ディレクション】Direction
石橋 圭吾 (白白庵) ISHIBASHI Keigo (PAKUPAKUAN)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?