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読書履歴#21_ゲームチェンジから世界史を俯瞰する

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読書期間 2022年7月15日〜7月22日
文字数 約7,400

はじめに(所感)

社会人になってから自由に興味のある範囲の歴史を学んでいます。
”日本史”、”宗教からみる歴史”、”その国らしさの源となる歴史”などさまざまな角度から歴史を学ぶのが好きです。

学生当時はどうしても目先のテストを意識して出来事の名前ばかりを覚える歴史の学び方でした。
ゆえに「なぜそれが起こったか/必要だったか」に目を転じることがありませんでした。

そこに目を向けるとある時、「歴史の点」が「歴史の線」になる時があります。
(今思うと、学校の先生も歴史の線を教えようと頑張ってくれる方は居たと思います)

本書は歴史の線の集大成とも言える著書だと思いました。
その線の主軸は「ゲームチェンジ」で一貫しており、非常に読みやすいのも特徴です。

特に印象的だったのは、第十五章で現在の中国について言及しているところです。
後半ですので、あらかたの歴史の線を見せてもらった後の意見は納得感が凄いです。

唯一の難点としてはヨーロッパ史の説明で、漢字にルビを振りすぎて何を読んでるか分からなくなることくらいかと思います。

歴史好きの方にはオススメの一冊です。

第一章 農業

・人類が人間らしくなったのは、文明を築きあげてから(それまでは自然界にあるとのに手を加えずそのまま生活する獲得経済)
農業を覚えたことで人類は獲得経済から生産経済に突入した
獲得経済は人口を支えるために1000ha/人もの土地が必要であり分散して住んでいた
生産経済は数haの土地があれば餓えずに済むうえ、継続に労働力が必要だつたため、集住を促した
農業は獲得経済とは比較にならないほど生産性が高いため、人口が増え、都市が生まれ、管理するための文字が発明される
・器具も打製石器→磨製石器→青銅の金属器と生産性向上とともに進化した

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P15〜P22

第二章 鉄器

生産革命によって生まれた新しい時代が「政治的には都市国家」「技術的には青銅器」「文化的には文字」として三大要素に支えられた
・次のゲームチェンジのトリガーは、紀元前2000年ごろのユーラシア大陸の寒冷化が起因となった「アーリア系民族の大移動」
・アーリア系民族の中にヒッタイト人がおり、ヒッタイト人は「実用性のある鉄器の鋳造」に成功した
・アーリア民族がアナトリア半島で鉄の鋳造工程で炭を混ぜると硬度が出ることを発見した
青銅は錫の含有量を高めることで硬度は上がるが脆性も高くなり折れやすかった、一方鉄は高度と靭性を獲得した

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P25〜P42

第三章 一神教

国家運営を支える権力には「政治権力」「宗教権力」「軍事力」の3つがある
政権担当者が
 +軍事力を掌握し宗教権力を押さえ込めば政権は安定
 +軍事力または宗教権力と敵対すれば不安定
 +軍事力を掌握した者に実権を奪われれば軍事政権
 +宗教権力が政権を獲れば宗教国家

・エジプト新王国時代のアメンホテプ4世は政権内部は絶大であったが、神殿を司る神官には頭が上がらなかった
アメンホテプは王(ファラオ)であり、神官にもなることを企み、既存の神官の抵抗に対抗するために「アトン神に申された、アトン神はただ1柱のみ」とし一神教が誕生したが、猛反発を喰らいアメンホテプ4世の死とともにアトン一神教の存在は消えた
・しかしそこには放浪する民を意味するヘブライ人がいた
ヘブライ人はその土地土地の宗教を自分たちの宗教に取り込む習性があり、アトン一神教をなんの躊躇いもなく取り込んだ結果、後のユダヤ教につながる
・多神教同士の場合は、互いの神を知るだけで、時に類似性があれば同一視することがある(本地垂迹)
・一方、一神教の場合は異教の神は邪神であり、異教は邪教とみなすため、時に冷酷な殺戮すら許容される

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P45〜P56

第四章 紙と冊子

・文字の記録媒体としてエジプトは「パピルス」、メソポタミアは「粘土板」、欧州は「獣皮」、中国では「竹」と各地域に密着した馴染み深い資源をそのまま原料として使用していた
・その後、後漢の蔡侯紙が誕生し現在の紙の原型となる
・紙が生まれた=ゲームチェンジとはならず、中国ではしばらく竹簡が使われ続けた
時の経過と共に文量が多くなってくると、従来の巻物はかさばるうえに、検索が容易でなく不便だった
この問題を解決すべく欧州で本(冊子)が生まれた
・この本の利便性に目を付けたのがキリスト教徒であり、新約聖書を冊子形式で広めた

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
 P59~P72

第五章 キリスト教

ゲームチェンジは条件が整うだけでなく契機が必要
・イエスはユダヤ教の腐敗を是正しようとしただけであり、ユダヤ教の根幹をなす選民思想に忠実であった
・この選民思想を破るものがパウロだった、彼はイエスの直弟子でなくイエスの死後に入信してきた新参者
パウロは布教した新しい信者は「異邦人」「割礼なき者」ばかりでありユダヤ教の入信資格をことごとく無視した
ここから「割礼済みの純血ユダヤ人信者のユダヤ教」と「割礼なき異邦人信者のキリスト教」に分裂していった

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P75〜P84

第六章 騎馬

・馬の家畜化は羊や豚に比べてかなり遅く紀元前4000年頃のウクライナと言われている
・乗馬は遊牧民にとって極めて有効な移動手段となり、移動のときのみ乗馬し、それ以外は下馬していた
・その乗馬を戦闘に活用し騎馬を誕生させたのもウクライナのスキタイだった
・スキタイは圧倒的な行軍速度で侵略したが統治力がなく支配は短期で終わる
・ゲームチェンジはそれが発明されたときでなく普及したとき
騎馬文化は東方のモンゴルに伝わり紀元前3世紀にはモンゴル高原統一が成し遂げられる
・広大なモンゴル高原を統一するには騎馬が不可欠であり、昨日まで不可能だったことが今日からは常識になるのもゲームチェンジの特徴

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P87〜P98

第七章 仏教

漢を破った匈奴は漢からの歳弊を財力に中央アジアへの進出を図り、中央アジアから北インドにかけての広範な動乱は「匈奴が騎馬を始めたことに起因している
・中央アジアから北インドにかけての地域が戦国時代のようになり、その混乱から中央アジアに住む人々が北インドに入植し始めた
彼らにとって純インドの仏教が理解できなかった
入植者にとっての宗教が、神を拝む代わりに御加護または救済を得ようとする他力本願に対して、当時のインド仏教は、自己努力によって救済を得ようとする自力本願であった
・こうして入植者たちが、仏教を自分たちの宗教観で上書きし換骨奪胎してしまう(これが大乗仏教)
・北インドと中央アジアの混乱がひと段落した時に誕生したのがクシャーナ朝
当時の君主は大乗仏教と従来の仏教の対立の調停が必要になり、結果として大乗仏教に統一された
・元々インド人だけの民族宗教が世界宗教へと止揚していった

◼️異民族は異文化を理解できない
・民族の移動などが起こると異民族が入ってくるが、それを理解するための重要な前提
異文化の尊重はできたとしても理解することはほとんど不可能に近い」
・日本には武士道、茶道などのように「道」という理念があり、あらゆるところに染み渡っている
・この日本人特有の道は、海外に出れば他国には全く通用しない概念となる
人は自分が理解できない異文化に触れた時に自分の文化圏の似た概念に置き換える手法をとる
これは一見理解したように思えるが全く理解できていない
・例として道とスポーツは全く異なり、道とは「競技、稽古、神事などを通じて行う精神修行」であり、勝敗でなくプロセスに重きを置くので、そもそも競技でない(道が礼に始まり礼に終わる理由)
・相撲で外国人選手の素行を悪く言うことがあるが、そんな彼らを責めるのは酷とも言える

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P101〜P110

第八章 帝政

王と皇帝の違いを理解するには、その民族の成り立ちを理解する必要がある
◼️遊牧民族
・遊牧民族は周辺の牧草を食べ尽くすと、新しい牧草地を求めて移動する
・新しい牧草地をどこに定めて移動するかも命懸けで、決断如何によっては部族全体の命運を左右するものであった
・こうした決断においては、専制君主は不向きで、話し合いそれを決断するせいぜい民会の議長程度の権限になる
・制限君主になりやすい

◼️農耕民族
・農耕民族は「いつまでに土作りを終わらせる」「いつまでに種まきを終わらせる」などある程度毎年やるべき時期や作業は決まっている
・また水害に備えて定期的に治水する必要があるため、一人ひとりの意見を聞いて決めるよりも上位下達で命令する専制君主の方が都合が良い

遊牧民も紀元前21世紀ごろの寒冷化の影響を受けてユーラシア大陸へ広がっていき、インド人・イラン人・ヨーロッパ人となった
・ヨーロッパは草原から水源豊かで食物も多分にある環境になったため、草原の民から森の民となった
(しかし決して農耕民族になったわけではなく、農耕を覚えた遊牧民となった)
従来制限君主であったヨーロッパが専制君主になるねじれの中で数々の変遷を経てオクタヴィアヌスが初めて皇帝の名の下に地中海統一を成し遂げた
・以降ヨーロッパでは強大な君主が現れるとローマを理想に掲げて国造りを行っていったため、ヨーロッパにおける皇帝=ローマ理想の継承者という意味合いになっていった

・ヨーロッパにおける皇帝が生まれる過程は中国も同じで、中国における皇帝とは始皇帝
・ヨーロッパにおけるローマに対して、中国では秦が理想となった

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P112〜P130

第九章 活版印刷と宗教改革

知の解放とは、それまで一部の階級が独占していた知識体系が下々に拡がりをみせることであり、必ずゲームチェンジを誘発する
・北宋時代に中国では木版印刷に変わり、一文字ずつバラバラの型(活版)にして組み合わせる活版印刷は発明されていたが、中国の文字数が多すぎた事もあり不発に終わる
この技術がシルクロードを経てヨーロッパに伝わり、文字数が30前後しかなく、活版印刷の長所が活きることとなった
・グーテンベルクは中国の膠泥製でなく鉛製に改良し、圧搾機を改良しインクを均等に写し印刷ずれも少なくする活版印刷を開発した
・印刷技術の革新によって聖書がラテン語から各国言語に訳され広く一般に普及し、当時聖書を独占していた教会がキリスト教の教えに反していることが広まり宗教改革につながっていく

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P132〜P142

第十章 中央集権体制

・現代人は主権国家の中で暮らしており、主権とは外部からの圧力を一切受けない国家における最高権力のこと
従来の封建体制では直属の君臣関係が全てで国家への帰属意識が希薄だったため「国民」という意識はあまりなく、両属が認められていたため国境は曖昧だった
仏英間の100年戦争で王権が主権を握ったことで支配範囲が明確となり国境も明確になり国民意識が生まれた

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P145〜P154

第十一章 産業革命

・人類が頼ってきたエネルギーは「人力」「畜力」「風力」「水力」の4つのみだった
産業革命でここに火力が加わる
・産業革命を根本的・本質的観点から考えてみる
・世界史を紐解くと「新しい時代の波はいつも辺境から来る」ことが分かる
ヨーロッパ人は「道具を誰でも簡単に扱えるように改良する」のに対して日本人は「道具を出来るだけシンプルにしてそれを扱う者が道具の性能を最大限に発揮できるように修練する」

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P157〜P168

第十二章 フランス革命

・フランス革命は10年間の出来事だが、人類史に与えた影響は大きい
・ブルボン朝の絶対王政を倒すべく100万人の犠牲を払ったにもかかわらず、次にはナポレオンの独裁政権が現れただけだった
・さらにナポレオンの命令の下、相次ぐ戦争によって300万人死傷者を出しナポレオン政権が潰えた後に現れたのはまたもブルボン朝という有様
・歴史が動き出す原動力は不均衡
ゲームチェンジのきっかけは辺境から、と学んだがこれは地理的な辺境だけでなく、制度が先進国より遅れている場合にも当てはまる
革命前のフランスでは身分が当たり前で、特権階級はその家柄だけで税金も払わず贅沢をしながら、一般市民を虐げ、蔑んでいた
日本でも士農工商という身分差別があったといわれてきたが、近年の研究で間違えであったと明らかになっている。士農工商という職業はあったが固定された身分ではなかった
・フランス革命は極端な革命でもあり、その揺り戻しも大きかった。貴族階級を倒した一方で貴族の管理下であった軍まで破壊してしまった。
権力(政権)を手にした後には必ず義務(軍務)も負うことになる
フランス革命後に国民が生まれ軍務という義務を担う国民軍が誕生する
・政権を手にした国民は、自由を保障し、平等に法を施行する社会を実現していった

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P171〜P181

第十三章 総力戦

主権国家(国王主体、時に絶対王政)が生まれた事で、雇われた軍として常備軍を持つようになると、戦争をして勝って得られる賠償金や領土を得て初めて利益が出ることになるので、当時の王政は戦争を頻繁に起こした(国王の戦争)
・国王の戦争とそれ以前の領主の戦争は、本質的な移行はなかったが、国王の戦争の方が恒常化・長期化したことで国政を圧迫した
革命によって国民主権となると、常備軍から国民軍となり、これまで戦争と無縁だった庶民も参戦を余儀なくされた(国民の戦争)
・国民軍誕生直後は連戦連敗だったが、ナポレオンの登場によって一変する。ナポレオンは国民軍の特性をよく理解し、最大限に発揮させた。結果として理想を掲げて国のために戦う国民軍が常備軍を圧倒することになった
こうした背景から国民軍が各国に普及していくこととなり、これは君主国が国民国家への変化を急速に後押しした
・領主・国王の戦争は支配階級の利益のために戦争していたので損切でき長期戦は少なかった
国民の戦争は大義名分が「自由、平等、博愛」であり、戦争=聖戦の位置付けとなり適当なところで手打ちできず、戦争にブレーキが効かなくなった
こうした歴史が世界初の総力戦である第一次世界大戦へとつながる。総力戦とは「国家と国家が軍事力、経済力、政治力、外交手腕、科学力など持てる力をすべて戦争に注ぎ、老若男女を問わず全国民一体となって最後まで死力を尽くして戦う戦争」
・第一次世界大戦で勝利したフランスのジョルジョ・クレマンソーは賠償金として当時の相場の50倍程度にも及ぶ1320億金マルクを要求した
・こうした仕打ちにドイツの憎しみは膨らみヒトラーを誕生させた
第二次世界大戦はゲームチェンジを理解できなかったクレマンソーが歴史の流れに逆らった結果の悲劇だったとも言える

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P185〜P202

第十五章 インターネット

知の解放がもたらすゲームチェンジの歴史は多くある
 +古代ローマの貴族と平民の民主化闘争による知の解放
 +古代中国の紙と冊子の発明による知の解放
 +近世ヨーロッパの印刷技術による知の解放

インターネットの普及が近代の知の解放
・インターネットも総力戦が生んだ兵器の一つ
・戦争の勝敗を決定づける大きな要素の一つに情報戦がある
・ドイツが開発した暗号技術であるエニグマ、さらにそれを複雑にしたローレンツに対してイギリスは世界初のコンピュータを開発する
・当時のコンピュータは真空管を用いており、性能は真空管の数に比例するため物理的な面積やメンテに大きな問題があった
・その問題を克服すべく半導体が発明される
ゲームチェンジが起こる要因は大事件ではなく前例のないことが起きること
・2010年にチュニジアで起きた若者の焼身自殺がSNSで拡散され独裁政権が崩壊するチュニジア革命(ジャスミン革命)が起きる
・ジャスミン革命がアラブの春へとつながるが範囲が広がるに伴い沈静化しシリアでとまったが、今後は中国まで広がる可能性がある
筆者曰く、中国は旧態依然の国の運営をしているため世界で覇権を握ることはなく、むしろ衰亡していくと予想(明言)している

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P215〜P230

第十六章 アニメーション(ゲームチェンジの原則のまとめ)

ゲームチェンジの原則のまとめ
①ひとたびゲームチェンジが起きれば、二度と後戻りはできない
②歴史に逆らうものは例外なく滅ぼされる
③覇権国家はゲームチェンジとゲームチェンジの間の安定期に現れる
④ゲームチェンジ前の非常識はゲームチェンジ後の常識となる
⑤ゲームチェンジに必要なものは、「発明」でなく「実用化」「普及」
⑥一度でも偉業が達せられるとそれが前例となって以降の歴史にゲームチェンジが起こる
⑦知の解放は必ずゲームチェンジを誘発する
⑧ゲームチェンジの契機となる時代の新しい波は辺境から起こる
⑨ゲームチェンジが起こると、それを理解できない者・受け入れられない者が一定数現れ、歴史の流れを押し戻そうとする
⑩ゲームチェンジが起こる要因は大事件でなく前例のないことが起きること


・アメリカが戦争を仕掛けるときはいつも「挑発」「因縁」「誘導」「捏造」から始まり敵国を悪の帝国と喧伝し、自らを正義の国と位置付けてから初めて開戦する

ゲームチェンジの世界史
ISBN978-4-296-11304-0
P232〜P202


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