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ショートストーリー《もしたむっ!》Osamu.14:ひょさむと水鉄砲

「動くな。手を上げろ」
 ある夜。荒らされた自室で、修は「ひょさむ」に向けて拳銃を構えていた。
「お、おいやめろ……」
 後ずさりするひょさむは、両手を上げたまま壁際に追い詰められた。
「覚悟しろ……!」
 修がそう言うと、「ひいっ!」とひょさむが両手で身を守るポーズを取る。修は拳銃の引き金を引く。
「ひゃあっ! 冷てえっ!」
 修の拳銃──水鉄砲から放たれた水は、勢いよくひょさむにかかる。
「この野郎! こんなに俺の部屋を勝手に荒らしやがって!」
「悪かったよ! お前が持ってたデジカメ、俺も使いたくてよぉ!」
「だったら直接俺に言え! ドロボーが入ったかと思ったじゃねーか!」
「わ、悪かったって……ひいぃっ!」
 なおも水鉄砲でひょさむに水を浴びせる修。部屋は荒れているわ、床は水鉄砲の水でビショビショになるわで、修の部屋は大変なことになっていた。

 翌朝。会社に出勤したひょさむの目に、オフィスに置かれたダンボールが飛び込んできた。
「何だ、これは?」
 そっと中を覗いてみると、そこにはたくさんの小型水鉄砲が入っている。ちょうど昨夜、修がひょさむに向けて使った水鉄砲のようなものだ。
「おっ、修ちゃん! おはよう!」
 そこへやってきたのは、会社の先輩の裕貴。
「あ、おはようございます」
 元気な裕貴のあいさつに少しびっくりしたひょさむはあいさつを返した。
「これ、いいだろぉ? 今度開催する子ども向けイベントで使うんだ」
 そう言うと裕貴はダンボールの中の水鉄砲を取り出し、楽しそうに水鉄砲を構える。
「おはようございまーす!」
「はよざいます!」
 そこへ、出勤してきた恵理子と賢太郎がやってきた。「それ、何ですか?」「何すか?」と興味津々で裕貴の持つ水鉄砲を見ている。
「今度の子ども向けイベントで使う水鉄砲だ! えいっ!」
 そう答えた裕貴は、賢太郎に向かって水鉄砲を打つ真似をした。「うわぁ!」とダメージを受けて倒れる演技をする賢太郎。
「なんか楽しくなってきたぞ! よし、始業時間までみんなでこれで遊ぼう!」
 テンションが上がった様子の裕貴がそう言うと、「ふふっ、楽しそうですね!」と恵理子が笑い、「賛成っす!」と賢太郎が元気に手を挙げる。
「じゃ、じゃあ俺も……」
 3人のテンションに若干圧倒されつつ、ひょさむも水鉄砲遊びに参加することになった。

 会社のあるビルの隣にある空き地に移動してきたひょさむたち4人は、水鉄砲を構え、互いをキッと見つめ合っている。
「よし、スタート!」
 裕貴の号令で、戦いは始まった。
「裕貴先輩! ワキが甘いっすよ!」
 無邪気な顔で駆け出した賢太郎が、裕貴に向けて水鉄砲を発射した。
「うわっ! やったな~!」
 水を食らってムキになった裕貴は、賢太郎に標準を定めて引き金を引く。
「へへっ! 食らいませんよー!」
 賢太郎は飛んでくる水をササっと避け、ふたたび裕貴に向けて水を放つ。
「わあっ! このぉ~!」
 裕貴と賢太郎の戦いの隣で、ひょさむと恵理子は、まるでドラマに出てくる刑事のように水鉄砲を構えたまま向かい合っていた。
「恵理子……女だからって容赦はしないぞ」
 ラスボスのような低く渋い声でひょさむが言う。
「そうこなくちゃ、修さん……。女だからって甘く見てもらっちゃ困りますよ……?」
 シリアスさと妖艶さを込めた声で恵理子が言う。そして、お互いが銃口を向け合い、引き金を引く、その時。
「あっ、みなさん何して──」
「!?」
 突然聞こえてきた幼さの残る女の声。4人は慌てて声の方を向いた。
 しかし、時すでに遅し。ひょさむが恵理子に向けて勢いよく放った水は、その声の主──望美の顔に命中した。
「……」
 その場にいた全員が無言になる。顔に水をかけられた望美は、信じられない、と目を見開いてひょさむを見つめた後、俯き、シクシクと泣き出してしまった。
「望美ちゃん!? 大丈夫!?」
 恵理子はすぐさま望美の元へ駆けていく。
「あー……修先輩やっちゃいましたねぇ……」
「あちゃー、修ちゃん……」
 激しい打ち合いをしていた賢太郎と裕貴は、気の毒そうにひょさむを見ていた。
「修さんひどいですね! 女の子にこんなことするなんて!」
 泣きじゃくる望美をギュッと抱いて頭をなでなでしながら、恵理子はひょさむを叱る。
「女の子には優しくしてください!」
 ものすごい剣幕で怒る恵理子を前に、ひょさむは「す、すまん……いや、すみませんでした……」と小さくなるのだった。

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