連載小説《Nagaki code》第22話─華執高校卒業生・伊達進之介
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「私、そろそろ行くね」
「あ……はい」
椿さんが返事をすると、雪乃さんはすーっと石段を下っていった。また街を彷徨うのだろうか。
「あのー……」
雪乃さんと入れ違いで、僕と同じ郵便事業局の制服を着た男性が石段を上がってきた。
「誰と話してたんですか?」
この人には、雪乃さんは見えていなかったようだ。他人には見えない幽霊と話しているなんて、かなり不審に思われても仕方がない。
「ここに出る女の人の霊と話していたのよ。……って言ったら、どうする?」
椿さんは迷う事なく本当の事を言った。
「もしかしたらその人、僕のお世話になった先生かもしれません。華執高校の、花村雪乃先生っていうんですけど」
その人は、椿さんの言葉を怪しむことはしなかった。
「そうよ。私、雪乃さんの妹の友達なの。椿恵理紗。よろしくね」
「そうなんですか……。僕は伊達進之介といいます」
「伊達君ね。お花見に来たの?」
「あ、いえ。手紙を」
「手紙?」
「はい。桜の木の下に埋めようかと思って」
伊達さんは右手に持った便箋を示す。
「もしかして、雪乃さん宛て?」
「はい。先生、ここの桜を嬉しそうに見上げてたのが印象的で、『ここが大好き』って言ってたの思い出したんです。それに今日、華執学校に配達に行ったら花村先生そっくりの先生を見つけて、いても立ってもいられなくなって……」
「ははーん……。それ、さては恋文ね?」
「なっ!?」
ギョッとしたように、伊達さんは後ずさった。
「わかってる、わかってるわよ」
「むぅ……」
伊達さんは恥ずかしそうに顔を赤らめ、手紙でその顔を隠す。そんな彼に一歩近づく椿さん。
「埋めるんだったら、ちょっと私に預けてもらえないかしら」
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