連載小説《Nagaki code》第23話─神様は、意地悪だね
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翌日。仕事が休みの僕と椿さんは晃乃さんのお宅を訪ねた。薬師岱郵便局からほど近いお蕎麦屋さんの、すぐ隣のお宅だった。
「いらっしゃい、恵理紗。長岐さんも」
「お邪魔するわね」
「お、おじゃまします」
居間に通された僕と椿さん。中央にあるテーブルを囲むように、2人がけのソファと1人がけのソファが置いてあった。僕らは2人がけのソファに並んで座る。お尻がたっぷりと沈むほどフカフカのソファだ。
「遊びに来てくれてありがとう」
晃乃さんはそう言いながら、アンティークな白いカップに入ったコーヒーを人数分置き、自分は1人がけのソファに座った。
「ううん、ごめんね急に」
コーヒーを啜った後、椿さんの表情が微かな憂いを帯びた。
「この前、公園で会った時のこと……私の中ではずっと引っかかってて」
晃乃さんが、お姉さんの雪乃さんを想って桜の木の下に佇んでいた、あの時のことだ。あの日の夜桜が僕の頭にも鮮明に浮かんでくる。
「ああ……」
晃乃さんは小さく息をつく。
「私もお姉ちゃんと同じく高校教師になったんだけどね。恵理紗にはまだ言ってなかったけど、その赴任先が……お姉ちゃんが最期に勤めていた高校だったんだ」
僕はハッとした。
「……華執高校、ね」
椿さんは静かに言った。
華執高校。昨日の夜、雪乃さんと別れた後にやってきた、雪乃さんの教え子の伊達さんが口にしていた学校だ。配達に行った時、雪乃さんに似た先生に会ったとも言っていた。
「そんなこと、ある? お姉ちゃんがずっと働いてた場所で、私もお姉ちゃんと同じ立場で働くなんてさ。お姉ちゃんがいなくなってつらいのに、ここにいたらずっとお姉ちゃんを感じる……」
震え出した晃乃さんの声。隣の椿さんは、黙ってそれを聞いている。
「神様は、どこまでも意地悪だね」
そう言ってふわりと苦笑いする晃乃さんに、椿さんは口を開いた。
「それほど晃乃にとって雪乃さんが大切な存在だって、神様もわかってるんじゃないかしら」
「え……?」
「そうやって身近に雪乃さんを感じさせるのも、何か意味があるのかもしれないわよ」
「意味……。意味って、何?」
前のめりになりながら、晃乃さんは椿さんに尋ねた。
「それを今夜教えてあげる。10時、薬師岱公園のあの桜の木の下に来て」
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