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Nagaki code -four seasons-《letter.1 Re:桜の木の下の高校教師(3)》

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 季節外れの雪に、所々咲いた桜の花が凍えている。木々はすっかり白に染まる。春の訪れを待っているのは俺ら人間だけではなく、彼女らも一緒だ。
 さっき、職場責任者の真壁さんから「早く帰ってこい」という連絡が入った。それじゃあ俺は一体、どのくらいここに立っていたんだろう。

 校門の桜の木を見上げていると、時が経つのを忘れてしまう。あの頃と同じように。

  〒

「あっ、いたいた」
 放課後。職員用の玄関前にある桜の木を見上げていた俺に声をかけたのは花村先生。後頭部の上の方で結わえたポニーテールをフルフルと揺らし、小走りでこちらへ駆けてきた。
「1Bで体育祭の練習するみたいですよ。体育館集合だって」
「あ……はい」
 思わず、声のトーンが下がる。クラスメイトと何かするなんてどうでもいいし、正直、練習なんかよりもひとりでぼんやりしていたい。けれど、仕方がない。それが学校というものだ。集団行動というものだ。
「桜の木、見てたんですか?」
 さっき俺がしていたように桜を見上げながら、花村先生が尋ねてきた。ポニーテールがふわりと揺れる。
「はい」
 春風にさざめく桜の花。その隙間から差す木漏れ日が、光の雨となって俺達に降り注ぐ。木々のざわめきに耳をすませば、現実の喧騒から離れることが出来る。何だかそんな気がする。

 このまま目を閉じれば、この幻想的な風景に飲み込まれるのではないか。そう思ってゆっくりと目を瞑るけれど、もちろんそんな事あるはずもなかった。

 目を開けて隣を見ると、花村先生も俺と同じように桜を見上げたまま目を瞑っていた。笑みを浮かべたその柔らかい表情に、その長いまつ毛に、ふっくらとした白い頬に、ぽってりとした桜色の唇に、胸がトクンと鳴る。そして俺もまた桜を見上げ、目を瞑った。

  俺はただ、青空を駆ける風に吹かれていた。花村先生と一緒に。


(続)

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