蓼食う虫も好き好きと言うけど本当に人の好みは分からないというマドンナに攪乱された話。
今日は「蓼食う虫も好き好き」っていう諺にもあるような実話をお話ししたいと思っているんだけど、この話は親友であるが故の言いたい放題が許させている関係性があっての話だと、ご了承いただきたいのね?
決して女性蔑視の考えとか、人を外見で評価するというようなことを推奨しているわけではないので、その点をお含み置きいただきたいのよね。
さて、前もってお断りを入れたので、ここからはその当時のやりとりのままでお伝えすることを、お許しいただこうかな。
私が中学生の冬休みだったと思うけど、親友同士でわざわざ汽車に乗って40㎞ほど離れた県庁所在地まで、同行している友人Tが一目惚れしたという、そんじょそこらにはいないほどの可愛い女性、という人を見に行ったのですよ。
カレー屋さんで働くというその女性は、友人Tの話によると家族連れでたまたま立ち寄った駅前の地下街にある、その店に働いているというので3人連れで見に行くことになったんですよ。
田舎でも郡部育ちの私たちには、県庁所在地で働いているという、まだ見ぬその女性に憧れに近い思いを抱いて、さもテレビタレントやアイドルに会いに行くような気分で出かけたんですね。
仲の良い3人組で出かける汽車(当時は蒸気機関車でした)の道中も、彼女の賞賛話に花が咲くわけですよ、とてつもなく可愛いのだけど美人なんだと言っちゃぁ、おまえらビックリするなよ、とTが念を押すわけです。
そんな田舎者中学生3人が勢い込んで現地到着ですよ、さっそく友人Tの言うそのカレー屋さんの店内を外から窺い見る3人の姿が、怪しさをたっぷり醸し出しているのですが、当人たちは気付かない。
「おい!君たちはどこの生徒だ!」
何やら補導員のような雰囲気のオジサンに睨まれたもんだから、私ら3人は慌ててカレー屋さんを指さして
「ここ、ここにカレーを食べに来たんです!」
「だったら、何をこそこそやってるのだ、君らは・・・?」
「いえ、席が空いてるかと思って・・・・・汗」
「見りゃ分かるだろうが・・・・・・ガラガラよ、店内は」
「はい!ガラガラでした・・・入ります!」
「こら待て!どこの学校か言ってみろ!」
「チョメチョメ中学です・・・・・・シオキ郡のチョメチョメ中学です・・・」
そんなやりとりが交わされた後、学生服の校章を確認されて放免されたんですが、腕を組んだままで突っ立っているそのオジサンから逃れるごとく、引き寄せられるように店内に足を踏み入れたんですね。
カレー屋さんの店内はL字カウンターがメインの、そんなに客席も無い小さな店でしたが、いらっしゃい!のダミ声に迎えられて、どこの席に座るか視線を泳がせていると、ここに座れとばかりにカウンターに水が置かれた。
3つ置かれた水の前に腰掛けると、注文を促すようにダミ声のオバサンがアゴで合図するではないか。
結局、悩むほどのメニューも無く、カツカレーとカレーのみのメニューから持ち合わせている小遣いの都合で、3人ともカレーを注文したのです。
カレーが出てくるまでの数分間をカウンターの中にいるオバサンと、もうひとりのやたらホッペタの赤いバイト風の女性がいるだけで、友人の言う可愛いけど美人でもあるというマドンナは見当たらないのですよ。
何やら奥に倉庫のような扉が見えるので、目当てのマドンナはそこで休憩中なのか、それとも今日は休みなのかと思いをめぐらせながら、カウンターに出されたカレーを時間をかけて食べたんですよね。
横並びで座っているもんだから、友人Tの視線の先もよく分からないまま、もうこれ以上の長居はムリかな・・・なんて頃合いまで粘ったんだけど、仕方なく合図をしあってお会計を済ませて店外に出ることにしたんですよ。
店を出て、すぐに
「今日は休みだったんかもね!」
「おらんかったね!」
なんて、私らが残念がっていると
「何を言うか!おったろが!」
とTが強く迫って言うではないか。
「ええぇ?おったぁ?どこに?」
そうやって店内を見てみるが、ダミ声のオバサンとホッペタの赤いバイト風の女性だけしか目に入らないのよ。
店内をくまなく見渡しても、見当たらない。
「見当たらんよ!どこよ?」
そう言って、店内をじろじろ見渡している私らに気づいたオバサンとホッペタ女性が、不審そうな顔で我ら3人組を見返してくるではないか。
ばつが悪そうな顔の友人Tに袖を引っ張られながら、地下街から地上に出た私ら二人に向かって友人Tが誇らしげに胸を張って宣言したのだ。
「おい!あの人はオレが先に見つけたんだからな!手を出すなよ!」
「・・・?・・・・・・誰よ、あの人っておらんかったがね!」
「おったがね!ちゃんとおったがね!お前たちも見てたがね!」
「もしかして、あのホッペタの赤いお姉ちゃん?」
「そうよ、可愛かったろうが・・・・・・うふふ!」
もう一人の友人と顔を見合わせて大爆笑だ!
友人Tには悪かったが腹がよじれるほど笑うというのは、こんなことを言うのかっていうくらい二人で笑い転げてしまったのだ。
なぜ笑うのかキョトンとした顔でいる友人Tを横に置いたままで、大いに笑いすぎて腹をねじりきってしまいそうでした。
それから後のことは、あんまり覚えておりません、インパクトのありすぎる出来事に他のことは吹っ飛ばされてしまったんでしょう。
かすかに覚えていることといったら、帰りの汽車の中でも機嫌を損ねる友人Tをなだめすかしながら、カレー屋さんでの出来事をネタにしては腹を抱えて笑ったのでした。
その出来事があって以来、友人Tの審美眼はズレているということが仲間内では決定的になったんですよ。
これが中学時代の楽しい思い出なんですが、本当に人の好みっていうのは他人には分からないもんですよね。
それから時が経ち、私が郷里に帰ってきて40年ぶりくらいに再会した友人Tに話を聞くと、当たり前だけど結婚もして子どもも既に成人したというので
恐る恐る、どんな奥さんなのかを聞いてみたんですね。
もちろん念のために、お前の女性の好みは変わったのか、と確認してみたわけですよ。
すると
「何が変わるもんか!オレの好みはずっと同じよ!」と胸を張るではないか。
そして、せっかくだからオレの家に来いというのね。
やんわり断ったのだけど、パソコンを新しく買い換えて分からないところがあるから教えて欲しいと言うでは無いか。
そう頼まれれば、それ以上拒めないよね?
拒むとパソコンのことも教えないケチなヤツと、烙印を押されてしまう。
それだけじゃ無い、烙印を押されるだけならなんともないけど、友人たちに言いふらして回るかもしれん、そんな恐れがあるくらい予想外なことをやるヤツだから付き合うことにしたのですよ。
友人Tの家に着くと、ついこの前まで役所に勤めていたという奥さんが玄関で迎えてくれたんですね。
初めまして、の挨拶を交わしながら、窺い見た奥さんは・・・・・・! (/_・)/
それからしばらくの時間をWindows7からWindows10になって、操作や画面がこれまでと勝手が違うことをぼやく友人を横に置いて、設定を済ませたあとに基本的なことを教えてお暇することにしたんです。
帰り際にTが「ワイン飲むよな?」と聞くもんだから「もちろん飲むよ」と返事したら「待て、待て!」といって奥の部屋から、1本のワインボトルを持ち出してきたのね。
「おい!ついでに、ワイングラスもあげるぞ!」
そう言って、自衛隊の航空イベントに出かけて手に入れた、稀少なワイングラスなんだと、しきりに能書きを垂れてから押しつけてきたのです。
友人Tにしてみたら、パソコン設定をしたもらったのと、パソコンプチ教室のお礼に、と言う気持ちなんですよ。
でも、そんな大事なワイングラスをもらえるもんか、そう断ると
「いやいや、オレのは一組取ってある、でないと、あげるもんかよ!」
そう言って、胸を張る。
そりゃそうだ、納得していただくことにした。
帰り際に駐車場まで見送りに出てきた夫婦に向かって、友人Tだけを手招きして呼んで、ささやいた。
「おまえ、女性の好みが変わったな?」
「何を言うかと思えば・・・オレの好みはずっと同じよ!」
「ウソつけ!中学の頃とは大違いの、大当たりを引いたがね!」
「おい、言っておくけど、オレが惚れたんじゃ無いぞ、アイツがオレに惚れたんだから、そこを覚えておけよ!」
「どうだかね、まぁそういうことにしておいてやろう」
「いやいや、ホンッとに、そうなんだからよ!」
そんなやり取りをして一向に動き出さない車に近寄ってきた奥さんが
「何を楽しそうに喧嘩してるのよ・・・?」
そう言ってチャーミングな笑顔で、私らに声をかけてきたのです。
てっきり昔のままの好みで選んだ女性と思っていたけど、とんでもない!
年齢なりに可愛くて、チャーミングな女性を奥さんにしているでは無いか
Tのヤツ。
聞けば田舎のなんちゃらミスコンテストに選ばれて、1年間の広報活動でもミスを務めたんだそうだ。
あの、蓼食う虫も好き好きと揶揄された友人Tが、ミスコンテストのミスをお嫁さんにする、というミスを演じやがって、本当に人の好みは分からないもんだよね!
長いこと生きていると、みんなそれぞれ好みがあって、その好みに合うように人は出来ている、ということが良く理解できるようになる。
みんなそれぞれの尺度があるから、面白いよね。(^_^)b
ちなみに中学生の思い出を語るときに、友人Tだけがあの話のマドンナを「忘れた!覚えていない!お前たちの捏造だ!」と言い張るのが、またおもしろいのだ。
カレー屋さんに3人で行ったことは、渋々認めるんだけど、ね。^^
ってことで 今回の話は
「蓼食う虫も好き好きと言うけど本当に人の好みは分からないというマドンナに攪乱された話。」でした。
では!
好きよスキよも のほほんと。
この記事をわざわざ読んでいただいたご縁に感謝します! これからもクリエーター活動にがんばります!サポートを心の支えとクリエーター活動に活かしますので、よろしかったら応援よろしくお願いします。