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予約必須の竜王高原の絶品そば【信越北陸一人旅⑨】

サル園でサルを見ずにその足でやって来たのは竜王高原。サル園の駐車場からは車で大体3〜40分くらいかかった。

竜王高原にわざわざやって来たのは、この日のお昼ご飯のためだ。その目的のお店とは、「石臼挽き蕎麦香房 山の実」さんだ。実は、ここに来る2日前にあらかじめ電話をして予約をしておいた。ここに来ることは初めから決まっていたのである。


なぜ僕がこのお店に行くことになったのか。それは、今から3〜4年前のこと。僕が新潟で一人旅をした際、長岡駅前の居酒屋に立ち寄った。長岡駅周辺ではかなりの人気店とのことだが、1人で予約もせずに呑気に入ったらすんなり席に案内された。

一番端のカウンター席でしっぽり飲んでいると、どういうきっかけでかは忘れたがお隣で飲んでいた40代くらいのご夫婦と一緒にしゃべることになった。2人は結構お酒が進んでおり、特に奥さんの方は結構な出来上がりっぷりだった。そのご夫婦も観光客だそうで、どこから来たのか尋ねると2人は長野県からと答えた。そこで話題は、長野のオススメのお店についてになった。僕が2人に長野でオススメのお店はないかと聞いたんだと思う。僕はネットや雑誌では見つけられない、地元民しか知らないようなオススメグルメを知りたかった。その時に2人(特に奥さん)がオススメしてくれたのが、この「山の実」さんである。

「山の実」は食べログ百名店に5年連続でノミネートされており、そもそもネットで有名なお店だったが、当時の僕はこんな竜王の山地に蕎麦の名店があるんだ、と驚いた記憶がある。とにかくここのお蕎麦が絶品だと、奥さんは何度も言っていた。そのことがあってから、僕はこのお店をスマホにメモっていた。


話は僕が「山の実」を訪れる2日前に移る。今回草津を抜けて長野に行こうと、旅の計画を考える中でGoogleマップにピン留めしていたこのお店が目についた。あの時のご夫婦の顔をおぼろげに思い出しつつ、今回の旅で、この「山の実」に行けるのではないか?と思い始めた。

長岡の居酒屋で奥さんが、

「ここは行くなら絶対に予約した方がいい!」

と言っていたことも覚えていたので、僕はお店に電話をして予約をした。予約はすんなり取ることができて安心した。


話を戻す。かつてスノボをしに何度か訪れた竜王高原。雪が積もっていない景色を見るのは初めてだった。車で走っていると、冬に訪れた時よりも高原感を感じる。坂が多く、山に向かって上っていく道の両端には草原や田んぼが広がっていた。スキー場の看板が見え始め、ちょっとした集落を抜けるとスキー場が姿を現した。9月なので当然営業はしておらず、雪の「ゆ」の字も見られない。そんなスキー場のすぐ脇に佇んでいる建物が、「山の実」さんだった。

お店の外観

建物の脇には駐車場があり、先に1台の車が停まっている。駐車場の奥からは麓の街並みが一望でき、天気が良いこともあってとても綺麗だった。

まだ開店の5分前くらいだったが、外から店内を覗くとすでに待ちスペースのような所で案内を待っているお客さんがいたので、僕もお店に入ることにした。お店に入ってすぐの所に記名票があり、予約をした人も名前を書いてくれとのことだったので自分の名前を書いた。お店の方に予約した者であることを伝え、レジの横の待ちスペースに座って少し待った。レジの向こうには厨房があり、大きなピザ窯があったのが印象的だった。蕎麦屋さんでピザ窯を見ることなんて滅多にない。

待っている間、待ちスペースに並べられた雑誌を読んでいた。長野のグルメ情報を発信している雑誌で、適当にパラパラと眺めていたら「あんかけ焼きそば特集」と書かれたページが目についた。県内のさまざまな中華料理店のあんかけ焼きそばが紹介されており、どうやら長野県ではあんかけ焼きそばがソウルフードらしいことを知った。僕はこの日の夕飯は決めていなかったこともあり、今日の夜はあんかけ焼きそばにしようかなと思いながら雑誌の一部を写真に収めておくことにした。


開店時間になったのか、席に案内された。スキー場に近い、窓際の席だった。店内の雰囲気はなんというか、東京には絶対ないだろうな、って感じの雰囲気だった。お店がそこそこ広いというのもあるが、上から吊り下げられた照明、地方でしか見られないような内装や家具のデザイン。中でもお土産コーナーみたいな場所のテーブルマットの柄なんて絶対東京の人は選ばないだろうなと思うデザインだった。

店内の雰囲気

「山の実」のメニューは、コース料理がメイン。というかほぼコースしかないと思っていいだろう。このお店は蕎麦だけでなく、生地にそば粉を使った「そばピッツァ」も名物であり、それは単品で注文することも可能だが、ピザ以外のメニューは基本的にコースのようだ。僕はもちろんコースを注文した。


コースの最初に運ばれてきたのは、手挽きのそばがき。お蕎麦屋さんのコースを食べるのが初めてというのもあってのっけからそばがきがやって来ることに興奮した。もちろん、そばがきは大好きである。

食べてみると、粒々としたそばの実が食感に面白さを与え、濃口の醤油は少量でもかなり風味を感じる。ワサビの香りもとても心地良い。美味しいそばがきだ。早く食べるのがもったいないなと思ってチビチビ食べていたら食べ終わる前にメインの蕎麦がやってきてしまった。

手挽き そばがき


蕎麦は箸で掴んだだけで分かる。めちゃくちゃ細い。人間の手でこんなに細く切れるのだろうか?と思うほどの細さ。つゆにつけて食べてみるとこの細さなのにしっかりとコシは感じるし蕎麦の香りもとても感じる。出汁の濃さもちょうどいい。なんだこの蕎麦は。凄まじく美味い。僕は東京で食べログ百名店にノミネートされている蕎麦屋さんに何店舗か行ったことがあるのだが、正直「山の実」の蕎麦はそのどれよりも美味しいと思った。東京の百名店の蕎麦だって十分過ぎるほど美味しいことは分かっている。しかしここの蕎麦はそれを凌駕する美味しさで、もうまさにここでしか食べられないなと思える逸品だった。蕎麦を食べながら、このお店を教えてくれた夫婦に深く感謝した。

生粉打ち蕎麦

蕎麦を食べ終わりそうな頃にやってきたのはそばピッツァ。お店に入った時に見たあのピザ窯で焼いたピザだ。なんとこのピザの生地は蕎麦粉100%らしい。蕎麦粉が混ざっている、ではなく蕎麦粉が100%のピザ生地。こんなの絶対ここでしか食べられないんだろうな。食べてみるとその生地はサックサク。スナック菓子を彷彿とさせるようなこのサクサク食感はとても意外だった。蕎麦粉って焼くとこんなにサクサクになるんだと思った。生地の上のベースは信州味噌。この味噌味がトマトベースのピザとは違った渋いパンチを味わわせてくれる。具材はネギやエノキなどが乗っており、独特かつとても美味しいピザだ。ピザの大きさは直径30cmだが生地が結構薄いのでそばがきとそばを食べた後でもボリューム感的にはまったくキツくない。というかむしろ美味しいからもっと食べたいくらいだった。


そばピッツァ

ピザを食べ終わった時、本当にここに来て良かったと思った。始めから終わりまで、すべてが独創的で美味しい。すごく値が張るわけではないけど、このお店は本当に名店なんだな。竜王高原といえばスキー場で有名だが、冬はこのお店はやっていない。だから冬以外の時期、今度は誰かをこのお店に連れて行きたいと思った。そして僕が味わった感動を体験させてあげたい。僕の中で、このお店が続いている間にもう一度竜王高原に来ないといけないという人生の宿題ができた。


レジで会計をする時、お店の方に「美味しかったです」と言ってお店を出た。お店の方はマスク越しに微笑んでいた気がする。本当に良いお店だった。


お店の外に出ると空は相変わらずの快晴で、満腹感と高原に吹く風が僕の心をくすぐった。これからも、旅を続けたいと思った。

長野の街並みを眼下に望む駐車場で車に乗り込み、エンジンをかけた。腹と心を満たした運転手を乗せた車は先ほど上ってきた高原を下り始めた。


続きはこちら。


今回行ったお店


山の実
●住所:長野県下高井郡山ノ内町夜間瀬11700−315
●アクセス:飯山駅または湯田中駅よりタクシー
●営業時間:11:30~14:30
予約は11:30スタートの回と、
13:00スタートの回(平日空いている場合12:00~も可能、要確認)
●定休日:火曜・水曜・木曜
     冬季期間(11月下旬〜4月)
●支払い方法:現金、クレカ
●駐車場:あり


頼んだメニュー


●山の実コース ¥2750

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