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カルマの行方

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サラリーマン丸井和彦は平和な街"高槻市"に億劫としていた。 その丸井の前に現れた日雇い労働者宇賀はある仕事を持ちかける。                          ➖「あ…
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#東大阪

第十話 とれたてのカルマはいらんかね?

第十話 とれたてのカルマはいらんかね?

 しばし続いた沈黙を破るように優華はデンモクを手に取り、慣れた手つきで送信した。
 ピピピッと電子音が流れた後、画面上にタイトルが現れた。

"時代おくれ 河島英五"

 昭和を代表するシンガーソングライター河島英五。
 男の哀しさ、生き様を太い声で表現した名歌手だ。
 丸井は赤子の頃に父親から子守唄として聞かされていたため、この名曲には敏感に反応した。
「河島英五やんけ。子供の頃思い出すわ!バ

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第八話 金玉取られたアントニオ

第八話 金玉取られたアントニオ

"サンクチュアリ"。看板にはそう書かれていた。
 三階の一番奥に小さな看板を掲げた店だった。
入り口には大阪府知事広保貴之の選挙ポスターが貼られているが、黒のマジックで大きく"✖︎"と上から書かれていた。
 ソ連崩壊後の東欧を彷彿させる飲み屋。
 バイオレンスが何よりの表現技法である東大阪においてそれほど珍しい光景ではないが、"平和な街"高槻で暮らしている丸井にとっては、ハンマーで殴られたような衝

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第四話 アルコールとのどごしと油臭さと

第四話 アルコールとのどごしと油臭さと

 長瀬駅を下車した丸井は外の雨に億劫としていた。
 改札の前にある東大阪入場管理局でパスポートを開示した丸井は、国内でパスポートを持ち歩くめんどくささに顔をしかめていた。
「はい、まいど。気つけてね。夜は壁付近に行ったらあかんで。この前も二人行方不明なっとるさかい」
管理局の男性職員に警告された後、丸井はやっと駅から外に出た。

 東大阪市は"街の首領"河野誠二が銅の密売で逮捕され、アメリカに身柄

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