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カルマの行方

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サラリーマン丸井和彦は平和な街"高槻市"に億劫としていた。 その丸井の前に現れた日雇い労働者宇賀はある仕事を持ちかける。                          ➖「あ…
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2021年3月の記事一覧

第五話 心の仮性包茎

第五話 心の仮性包茎

 彼女は丸井のすぐ横についた。カウンターに置かれた手が小さく震えている。典型的なアルコール依存症の症状だ。
 チラッと彼女と目があった。1秒にも満たない短い時間だった。
 恐らく20代後半だと思うが、綺麗な瞳の下には大きな"クマ"があり、それはファンデーションでも隠せず、瞳の大きさをより際立たせていた。何か大きな業を背負い、丸井を悲しみの奥底まで引きずり込みそうな瞳だった。
 彼女はエイヒレと瓶ビ

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第四話 アルコールとのどごしと油臭さと

第四話 アルコールとのどごしと油臭さと

 長瀬駅を下車した丸井は外の雨に億劫としていた。
 改札の前にある東大阪入場管理局でパスポートを開示した丸井は、国内でパスポートを持ち歩くめんどくささに顔をしかめていた。
「はい、まいど。気つけてね。夜は壁付近に行ったらあかんで。この前も二人行方不明なっとるさかい」
管理局の男性職員に警告された後、丸井はやっと駅から外に出た。

 東大阪市は"街の首領"河野誠二が銅の密売で逮捕され、アメリカに身柄

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第三話 シケモクは"わびさび"の骨頂

第三話 シケモクは"わびさび"の骨頂

 数分歩いてドヤ街の前の自販機に宇賀を下ろした。
 丸井は縁石に腰掛け、残り少なくなったハイライトに火をつけた。
煙はモクモクと立ち昇り、夜空に消えていった。

 「丸井、送ってくれておおきにやで」
丸井はビクッとして後ろを見た。知らぬ間に宇賀は目を覚ましていた。彼は地面に落ちているタバコの吸殻を当たり前のように拾うとフッフッとゴミを吹き落とし火をつけた。
流れるような仕草が千利休の追い求めた"

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第二話 タバコはフィルターまできっちりと

第二話 タバコはフィルターまできっちりと

タクシーが止まった。やっと目的地に着いた。精神と時の部屋かと思うほど、この1時間は長かった。
 宇賀が吐き出す吐息は2歳未満の子供ならショック死するほど臭い。
 タクシーの運転手はダッシュボードから取り出した有機溶剤作業者用の防毒マスクを装着している。
 「ここがワイの街や。震えるなぁ。ただいま、西成」
 大阪市西成区。度重なる暴動と薬物が蔓延する日本最大のスラム。酒、暴力、性が全てを支配する街。

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第一話 その男"丸井"につき

第一話 その男"丸井"につき

 背中で泣く男がいた。
 名は丸井和彦、職業会社員、牡馬、人生未勝利。
 今日もロボットのように無機質な仕事を淡々とこなし帰路についていた。
 月初の金曜日というのに、この高槻市に活気と呼べるものはなく、疲れ果てたサラリーマンの溜息が街全体を包み込んでいた。

 「大阪のスイス」 吹田市、高槻市など北摂地域を総じて人はこう呼ぶ。東大阪市の隔離政策、西成暴動などで治安悪化に悩んだ大阪府が、特別治安向

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序章

序章

何かが焼けた臭いがする。ほんのり漂うアンモニアはラーメンの黒胡椒のように存在感がある。
寂しそうな近鉄電車から降りた乗客はパスポートを手に改札に向かう。
雑居ビルのエレベーターにはバンクシーの作品がひっそりと佇んでいる。
東大阪市をぐるんと囲んだ"壁"は人々の心より冷たいコンクリート。
壁の上の高圧電線は触れるだけでピカチュウもビックリするほどの電圧で感電させる。
壁の前に落ちた吸い殻の数は東大阪

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