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脳の意識機械の意識

ものが見えること自体が「意識」が存在している証であることを明快に説明し、「意識」を工学的手法で解明する道筋を示す。脳にブラックボックス領域は存在せず、脳のどこにも「意識」を司る特定領域がないことがわかっている。著者は「情報処理アルゴリズムが意識を生む」と仮定し、この仮定を実験で確かめる術、「機械への意識の移植」を提案する。2017年に刊行された書籍だがますます輝きを増している一冊。
#私の本棚 #脳の意識機械の意識


はじめに

2017年にTwitterのTLに流れてきて即購入した

随所にSFネタがちりばめられていて、ニヤリとさせられる

「意識」に関連する思想史を考察しつつ、先人の業績にもとづき「意識」を攻略する道筋を明確に示している。
著者は、自ら脳機能の解明に取り組む脳神経科学者であり、とらえどころのない「意識」が機械にも宿るという信念のもと、それを検証する実験の現在と今後の方針まで述べられている。

第1章 意識の不思議

・「我思う、ゆえに我あり」こそが、「意識」
視覚世界は虚構の世界
(感想:「色のふしぎ」と不思議な社会にも、視覚細胞のはなしが登場する)

夢は感覚意識体験であるから、アンドロイドは電気羊の夢を見ない
・視覚野を取り除くと視情報が脳の感覚に上らない。しかし、見ている物体を言い当てる「盲視」
・1939年、ホジキンとハスクレイのニューロン電位測定実験
(感想)工技院入所当時、電総研でヤリイカの飼育に取り組んでいたのを思い出した
・神経が情報を伝達する仕組みは、電気スパイク→神経伝達物質→電位変化
・シナプス応答の変化が「学習」
結論:あなたは「ニューロン」という電気回路の塊に過ぎない

第2章 脳に意識の幻を追って

・網膜ニューロンは明暗で発火するが、第1次視野覚は、線分に反応する
視覚処理は網膜座標依存性がある

・高次処理層ほど「顔なら何でも反応する」などの汎化が起きている

・汎化は「OR回路」で簡単に説明可能
・色恒常性補正、固視微動補正
fMRIでヒトのニューロン測定(血中酸素濃度測定)が可能になった
意識と第一次視野覚が「連動」することは確認できたが、「因果性」があるかはまだわからない
(感想:「因果推論の科学」を思い出した)

意識を生じさせる最小限の神経活動と神経メカニズムの追求
(感想:「脳は世界をどう見ているか」に登場する、脳の最小単位「コラム」を連想した)

結論:視覚的注意をきちんと統制したもとでは、第一次視覚野は視覚的意識の有無に応じない

第3章 実験的意識研究の切り札 操作実験

・脳に磁場をかけ、誘導電流でニューロンを直接刺激するTMS(経頭蓋磁気刺激)
・磁気刺激による視野欠損を埋めるのは未来の視覚情報
神経活動が意識に上るには0,5秒必要
・意識の時間は現実より0.5秒遅れ
・意識に上ると刺激発生時間に遡って知覚
・リベットの自由意志の実験では、手首を動かそうと意識する0.3秒前に脳波が立ち上がる→自由意志は存在しない可能性
・脳が「自由意志」と言う壮大な錯覚を見せている?

・これを認めないと「心身二元論」が復活する
(感想)「あれだけ大量の記憶が脳に収まるはずがない。脳は意識が宿る本体との単なる交信装置である」との信念を捨てきれず、これを証明する科学的実験方法がないか、思索している私としては「心身二元論」アリだなw
光遺伝法により抑制型ニューロンを発火させた部位は、信号が出てこない部位となる。これを利用して意識に関与しない部位を消去していく
結論:光遺伝法の高精細化に伴い、意識に関与しない部位の除外作業は順調に進んでいる

第4章 意識の自然則とどう向き合うか

・意識に関与する部位、すなわち「赤いりんご」に感覚運動変換されるメカニズムがすべて解明されたとしても、意識のメカニズムが解明されたことにはならない
「情報の二相理論」では、情報はすべて客観と主観(意識)を持つ。
従って、「人工物」や「石」も意識を持つ
・「主観」である「意識」は、客観的事象のみを扱ってきた従来の科学では取り扱えない
・「情報の二相理論」は、自然則(光速のように、どうしてそうなるかを問うことができない自然の法則)。検証をどうするか?
・意識はニューロン内部の、情報伝達には関与しない「マイクロチューブル」に宿るとする「量子脳理論」
(感想)「量子力学で生物の謎を解く」を想起した

・ほかのニューロンにばれないように、ニューロンを一つずつ機械に置き換えていく。この時意識が「突然消える」「徐々に薄れる」「そのまま」のどれかであり、「そのまま」なら。機械に意識を宿らせることができたことになる!
著者は「そのまま」との信念のもと、それを確かめるため研究している
・機械のクロック数は任意に変えられるので、高速や低速にしたとき、意識の時間はどうなるのだろうか?極端に遅くしても意識は存在し続けるのだろうか?
・脳にカメラを接続して感覚意識体験が生じても、カメラに意識が宿ったことにはならない
(感想)センサを体内に埋め込んで能力を拡張する「バイオハッキング」を思い出した

右脳と左脳を切り離すと人格が二つ生まれる。視覚は高次になるまで統合されない。この性質を利用し、脳の半球を機械に置き換え、自分の感覚意識体験(主観)で視覚が統合されたと感じたとき、機械にも意識が宿ると証明したことになる
結論:脳の半球を機械に置き換え、自分の感覚意識体験(主観)で視覚が統合されたと感じたとき、機械にも意識が宿る

第5章 意識は情報か、アルゴリズムか

・意識を情報統合による情報量の増加と捉える「情報統合理論」
・筆者は情報を処理する「アルゴリズム」が意識解明の鍵だと考える
・脳は夢だけでなく覚醒中も「仮想現実」を作っている
・仮想現実の例「幻肢」
・高次が作成した「生成モデル」を低次に流し、センサ情報との誤差をもとに高次モデルの修正が行われる
・3層以上のニューラルネットで中間層のパラメータを決める「逆誤差伝播法」
・脳内モデルとセンサ情報の誤差が最小化された「まともな」情報を意識に上げるため、0.5秒の遅れが生じる
・野球など、急を要する場合、未処理の情報が意志決定と運動を司る部位に送られ、後付けで整合化された世界が意識に上る
・非線形システムで現れる「決定論的カオス」により、消えずに脳内を包み込む「因果性の網」が生じ、因果性の網により、情報が統合される
結論:意識はアルゴリズムであると主張

終章 脳の意識と機械の意識

・機械に意識があってもなくても見分けがつかないから、通常は「意識の有無」は、意味がない
・一方、機械に「意識を移植」するとなると、話はがらっと変わってくる
・2014年夏、IBM、百万ニューロンのTrueNorth開発に成功
注意点:演算素子4096個が256個のニューロンを順番にシミュレート、かつニューロン処理を簡素化している
(感想)昆虫の脳は百万ニューロン、ヒトの脳の千万分の1

・ブレイン・マシン・インターフェイス
電極の固定と組織付着の防止が鍵
(感想)2023年8月時点ではイーロンマスク率いるNeuralinkががんばっているな

・マウスの分離した左右脳の再配線実験
・マウスの脳半球と機械半球の接続実験
アルゴリズムレベルでの統合実験を目指す
人の意識と機械の意識の接続
近い将来、自分の脳の半球を機械半球と接続して意識の統合を試みたい
その時、「腐ってやがる!」と叫ぶか、「機械側視野のクオリアに酔いしれる」か、どちらの世界が待っているのだろうか
・意識の自然則は普遍的なもので、「何かが何かの因果的関係性を取り込んだ」ときに取り込んだものの感覚意識体験が生じるのではないか
・朝目覚めたとき、意識の連続性が途切れていたのに私が私であることを確信できるのは、広い意味での記憶があるから
広義の記憶を機械に移植できれば、目覚めたとき、自身が何者なのかとまどうことはない

おわりに

今回のnoteにまとめるに当たり本書を読み返してみて、内容が全く色あせていないことに驚いた。
むしろ、本書は最近になって重版を重ね、ますます読者を増やしているようだ。

脳科学から目を離せない

#SF作品 (おまけ)

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